「歳三往きてまた」秋山香乃
土方歳三を描く。
無血開城、というがそれは江戸城の話。
政権交代で争いが起きないわけがない。
時代は大きくうねる。
戦いはもはや刀や槍でなく鉄砲と大砲。
それも新式となり、性能は向上していく。
鳥羽・伏見の戦、甲府、宇都宮、会津、そして箱館。
時代は新しく変わろうとするが、幕府に忠誠を尽くす。
薩摩・長州の新しい軍隊、装備に戦いを挑み、負け続ける。
これが著者のデビュー作。
よく調べている。
いつもながら剣劇シーンが巧い。
それもそのはず、柳生新陰流居合道四段、とのこと。
P390・・・会津落城
集まった女たちは思い思いの辞世の歌を詠んだ。このとき13歳の瀑布子が、
「手を取りて共に行きなば迷わじよ」
と詠んで、言葉を涙で詰まらせる。細布子がすばやく、
「いざたどらまし死出の山道」
下の句を継いで妹の手を握り締めた。
P408
「鉄、俺たちは箱館(函館)に行く。そこに幕府の作った城がある」
「城ですか」
「五稜郭だ」
【ネット上の紹介】
鳥羽・伏見の戦で近代的な軍装の薩長軍に、なす術もなく敗れた新選組。時代はすでに日本刀ではなく、小銃の時代になったと土方歳三もわかってはいるのだが、その後も、甲府、宇都宮、会津で戦い続け、そして敗れた。北の果て箱館に行き着いた歳三は、最後の戦いに臨む。新世界に背を向け、負け続けた漢の姿を鮮烈に描く。