「彼岸花」宇江佐真理
次の6編収録されている。
つうさんの家
おいらのツケ
あんがと
彼岸花
野紺菊
振り向かないで
P34
「金を出せば幾らでも新しい物は手に入るが、わたいはそれがいいとは思えんのよ。特にわたいのようにお迎えが近い年頃になると、さほど物はいらん。少しずつ身の周りの物を減らして、何にもなくなった時、ぽっくり死ぬ。それがいっちいいことに思うのよ」
P142
剃髪しただけでは、檀家の葬儀や法要をすることはできない。師僧の下で修行を積み、僧階を授与されて、初めて僧として認められるのだ。恵真も若い頃は京の寺へやって修行させたものである。尼寺の修行道場が江戸にはなかったからだ。
P177
小作の卯平さんは花造りの好きな人だったが、ある年、ねずみにやられて、せっかくの花が台なしになったそうだ。だが、どういう訳か水仙だけは無事だったらしい。水仙の根に毒があることを、ねずみは知っていたんだな。同じように彼岸花にも根に毒があるそうだ」
【感想】
レベルの高い短編集、と思う。
どの作品も「家族」がテーマになっているが、特に、「彼岸花」がいい。
家族だからといって、仲良くいく訳じゃない。
家族だからこそ、摩擦もおき、しっくりいかない。
その微妙な行き違い、確執の表現が巧い。
読み返したくなる内容だ。
【ネット上の紹介】
江戸の小梅村で庄屋を務める家に生まれたおえいは気の強い母親と一家を切り盛りしていた。武家に嫁いだ妹は時折物やお金を無心に実家を訪れる。そんなちゃっかりした妹が許せないおえいは、ある日母親の不在を理由に妹の頼みを断る。やがて妹の婚家から届いた知らせは―。嫁ぎ先でいじめ抜かれた妹に手を差しのべられなかった姉の後悔を描く表題作など傑作全六編。