【ぼちぼちクライミング&読書】

-クライミング&読書覚書rapunzel別館-

「愛と暴力の戦後とその後」赤坂真理

2014年11月01日 11時24分14秒 | 読書(昭和史/平成史)


「愛と暴力の戦後とその後」赤坂真理

読みごたえがあった。
尚且つ、おもしろく感じた。
赤坂真理さんと言えば、「東京プリズン」。
このブログでも以前紹介したことがある。→「東京プリズン」赤坂真理
「東京プリズン」では、相当な資料を読んで書かれたであろう。
その時、「東京プリズン」で書ききれなかったものが本作品、と思う。
戦後処理→高度経済成長→安保闘争→バブル→オウム→憲法問題と安倍政権
作家らしく、一つ一つの文字にもこだわり、掘り起こしていく。

P28
私には、戦後の天皇は素朴な疑問であり続けた。
なぜ、彼は罪を問われなかったのだろうと。
なぜそれを問うてもいけないような空気があるのかと。
(中略)
たとえ雇われ社長でもそのときの問題の責任を問われる。

A級=国家指導者
B級=現場、戦場
C級=ホロコースト=人道に対する罪
P35
「ねえママ、民間人の虐殺ということなら、広島や長崎への原爆や、東京大空襲のほうが、全くの非道だとは思わない?」

P38
真珠湾はだまし討ちではない・・・
(前略)当のGHQが主宰した極東軍事裁判(東京裁判)で、「だまし討ちではない」という判決が出ている。「だまし討ち」の論拠は、「宣戦布告から攻撃まで時間をおかなければならない」というハーグ条約の取り決めの中にある。だけれど、その条約に「どのくらい時間をおく」という記載がなく、「条約自体に構造欠陥がある」とみなされたため。

P61
「侵略戦争」について
起訴状の原語は、こうである。

War of aggression

私は、意外に感じたのだ。invasionなどとは言わないのだ、と。aggressionとは、「攻撃性」のことであり、受け身でなく積極的な攻撃性を意味するだろう。
(中略)
つまり、私たちは、過剰な訳語をつくって、私たち自身それに過剰な反応をしている可能性がある。

P157
ヤクザとのつきあいがとりざたされテレビを干された島田紳助は、ヤクザとのつきあいよりも、公共の電波でパワーハラスメントを公然と見せていたことのほうが、ずっと問題だったろう。

P159
あまりに多くの戦死者、その中のゆゆしき割合が前線での餓死や病死といった戦死でさえない戦死者であること。「空襲」という名で受けた(「空爆」なのに)民間人居住区への戦略爆撃、沖縄の地上戦、末期的な特攻、玉砕という名の犬死に。世界史上未だ後にも先にも例のない二発の原子爆弾と、世代を超えて伝えられるその遺伝子の傷。

P179
神を急ごしらえでつくって近代国家の中核とし、その国家をもて戦争にあたり、最終的に大敗して、戦後は神は神でないことになり、民は神を忘れたふりをした。そのことのつけは、当事者である私たちが考えるよりずっと大きく、未だに「総括」されていない。
「総括」されないものは、繰り返される。それが「連合赤軍」だったり、「オウム」だったりしたのではないか。私たちは、私たちの「アンチ」というよりは「見ないことにしたもの」こそを何度も見るのではないか。原発事故だってそうなのではないか。

P228
私が子供のころから、君が代や日の丸の議論はあった。
今でもある。
けれど驚くべきことに、「『気をつけ』や『休め』こそ軍隊由来だからやめよう」と言った人を、私は1人も知らない。そのほうが、子供の身体に直接加えられる軍隊的な拘束なのに。

P240Constitutionの和訳が『憲法』・・・この訳でいいのか?
なぜ『憲法』と訳したのか?まさか、聖徳太子の『十七条憲法』と関係あるのか?

Constitutionは、通常の法とはちがい、国を規定するための法である。(中略)
「憲」って、本当にどういう意味なんだろう?

P281
戦争は、力の戦いであるからには、必ずその都度どちらかの勝ちか優勢で集結する。
が、領土と賠償金は、善悪ではない。
それが「物語」になると、勝ちは善、負けは悪、と固定されてしまう。
すると、負けた国は、陣営の再編成に必死になって物語を更新しようとする。
(中略)
世界はきっと「物語戦争」ともいうべきフェイズに入ったのである。

【参考文献】

どの資料も興味深い。

【ネット上の紹介】
なぜ、私たちはこんなに歴史と切れているのか? あの敗戦、新憲法、安保闘争、バブル、オウム事件、そして3・11……。<知っているつもり>をやめて、虚心に問うてみたら、次から次へと驚きの発見が噴出! 『東京プリズン』の作家が、自らの実体験と戦後日本史を接続させて、この国の<語りえないもの>を語る。

[目次]
プロローグ 二つの川
第1章 母と沈黙と私
第2章 日本語はどこまで私たちのものか
第3章 消えた空き地とガキ大将
第4章 安保闘争とは何だったのか
第5章 一九八〇年の断絶
第6章 オウムはなぜ語りにくいか
第7章 この国を覆う閉塞感の正体
第8章 憲法を考える補助線
終章 誰が犠牲になったのか
エピローグ まったく新しい物語のために