MASQUERADE(マスカレード)

 こんな孤独なゲームをしている私たちは本当に幸せなの?

『ジェームス・ブラウン~最高の魂(ソウル)を持つ男~』

2015-06-02 00:35:34 | goo映画レビュー

原題:『Get on Up』
監督:テイト・テイラー
脚本:ジェズ・バターワース/ジョン=ヘンリー・バターワース
撮影:スティーブン・ゴールドブラット
出演:チャドウィック・ボーズマン/ネルサン・エリス/ダン・エイクロイド/ヴィオラ・デイヴィス
2014年/アメリカ

孤高を逃れた「ファンクの帝王」について

 言うまでもなくジェームス・ブラウンの半生が描かれている本作は時系列に沿っていないために決して分かりやすいものではない。例えば、アポロ・シアターで行われたショーの後に、楽屋にいたジェームスに会いに来た人物は長らく音信不通だった彼の実の母親のスージー・ブラウンなのであるが、ストーリーは急にジェームスの幼少時代に戻り、ジェームスが声をかけても兵隊の相手をしていたスージーが息子を無視する光景が映し出される。ストーリーはそのまま進行していき、ジェームスと長年仕事のパートナーとして付き合ってきたボビー・バードがソロで活動したいと言い出したことで喧嘩になり袂を分かったシーンの後に、ようやくジェームスとスージーの楽屋での会話が描かれることになる。
 つまりにジェームス・ブラウンが周囲との関係が上手くいかない原因は彼と母親とのこじれた関係にあることが暗に示されているのである。だから冒頭でも描かれ、再びラストでも観られる1993年の楽屋からステージへ一人で向かうジェームスを見て、私たちは彼は一人で生きていく決心をしたのだと感じるはずであるが、ジェームスは客席にいたボビーを見つけるとセットリストを無視して「Try Me (I Need You)」をアカペラで熱唱する。それはジェームスのボビーに対する「ラブソング」であり、ようやくジェームスが「人情」を理解した瞬間だったのではなかっただろうか。そしてそれは間違いなく「ソウル」を理解したジェームスが名実ともに「The Godfather of Soul」になった瞬間でもある。その時のニュアンスを取り入れて和訳してみたい。

「Try Me (I Need You)」 James Brown 日本語訳

俺を試してみて欲しい
どうか教えて欲しい
俺には君が必要なんだ
俺を試してみて欲しい
君の愛はいつだって真実であるはず
俺には君が必要なんだ
俺を抱きしめて欲しい
俺は君に俺のすぐ傍にいて欲しいんだ
俺を抱きしめて欲しい
君の愛を俺たちが隠すことはないんだ
俺には君が必要なんだ
俺と一緒に歩んで欲しい
語り合おうじゃないか
俺の心が泣き止むようにして欲しいんだ
俺と一緒に歩んで欲しい
語り合おうじゃないか
君の愛は死にそうな俺の心を救ってくれる
俺には君が必要なんだ

 白人の女性記者がジェームスに「グルーブ(groove)とは何か?」と訊き、満足いくような答えが得られなかった後に「好きな食べ物は何か?」とどうでもいい質問をするところなど、まだ人種差別があからさまに残っている様子が上手く描かれている。
 『ジャージー・ボーイズ』(クリント・イーストウッド監督 2014年)同様に主人公のジェームスがカメラ目線で観客に語り掛けるシーンがあるところが興味深い。


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