原題:『Mommy』
監督:グザヴィエ・ドラン
脚本:グザヴィエ・ドラン
撮影:アンドレ・ターピン
出演:アンヌ・ドルヴァル/アントワン=オリヴィエ・ピロン/スザンヌ・クレマン
2014年/カナダ
正方形を押し広げる快感について
正方形という特異な画面サイズは見慣れていないと見づらいのであるが、もちろん監督はそのようなことは織り込み済みで、ほぼ出演者の顔のアップで展開される主人公のシングルマザーのダイアン・デュプレとADHDを抱える息子のスティーヴの諍いは正方形内に詰め込まれて行なわれているが故に画面に緊張感をもたらす。
だから隣の住むカイラのおかげで勉強がはかどり、自由を手に入れたように感じたスティーヴが自ら画面をビスタ・サイズにまで広げる時、それはスティーヴだけではなくて、観ている私たちにも快感をもたらすのであるが、その解放感はほんの束の間のものでしかない。
閉塞感が続けば誰でも夢を見たがるもので、実際に、ダイアンがスティーヴとカイラと一緒にドライブに行った後に、スティーヴがジュリアード音楽院の合格通知を受け取り、卒業後にアメリカでスティーヴの結婚式に出席するビスタ・サイズの映像は全てダイアンの夢で、直後にダイアンが頼んだ職員たちによってスティーヴは施設に強制入院させられるのである。
そうなるとラストでスティーヴが最後にとった行動はビスタ・サイズで描かれていないのだから、最初から無謀な行動にしか見えないのではあるが、オアシス(Oasis)の「Wonderwall」からルドヴィコ・エイナウディ(Ludovico Einaudi)の「Experience」まで選曲も申し分なく素晴らしい。アンナ・マニャーニ主演の『マンマ・ローマ』(ピエル・パオロ・パゾリーニ監督 1962年)の現代版といったところか。