原題:『A Walk Among the Tombstones(墓石の間を散歩)』
監督:スコット・フランク
脚本:スコット・フランク
撮影:ミハイ・マライメアJr.
出演:リーアム・ニーソン/ダン・スティーヴンス/ブライアン・ブラッドリー
2014年/アメリカ
最後に丁寧に描かれたヒーロー像について
『ラン・オールナイト』(ジャウマ・コレット=セラ監督 2015年)を観ていた者としては、冒頭でリーアム・ニーソンが演じる刑事のマット・スカダーが深酒で同僚に注意されているのを見て「また酔っているのか」と嘆息をもらしてしまい、その後現れた黒人少年のTJが『ラン・オールナイト』のレッグス同様に「狂言回し」を演じるのかと想像してしまい、終わってもいないのに既に観たような気分になってしまったが、本作は近年粗製濫造されている「リーアム・ニーソン物」とは一味違う。
1991年に致命的なミスを犯したマットは刑事を辞職し、アルコール依存症更生プログラムを受けて社会復帰していた。マットがレストランで夕食を取ろうとしていた時に、妻を誘拐された弟を助けて欲しいとピーター・クリストが現れたことからストーリーが展開されていく。ピーターの弟のケニーの妻はキャリーという名前であるが、ここで注目したいのはケニーの家に飾られているキャリーの肖像画がバルテュス風に描かれていることで、キャリーの前に被害に遭っていたレイラは犯人の一人によって写真に撮られており、キャリーの次に被害に遭う14歳のルシアの実家には淡色で丁寧に描かれた彼女の肖像画が掲げられているのである。
マットがTJと出会った場所は図書館なのであるが、その時マットはTJが描いた落書きを拾う。それはお世辞にも上手いとは言えないラフな人物画なのであるが、ラストで帰宅したマットがテーブルの上に置いてあったTJの絵を見ると、そこにはヒーロー像が丁寧に描かれている。そこに様々な描写で描かれた完璧な女性像を救うために完璧なヒーロー像を生み出そうとする成長した少年の強い意志が感じられ感動をもたらすのである。