原題:『怒り』
監督:李相日
脚本:李相日
撮影:笠松則通
出演:渡辺謙/宮崎あおい/松山ケンイチ/妻夫木聡/綾野剛/原日出子/広瀬すず/森山未來
2016年/日本
「同情」の様々な食い違いについて
「怒り」というタイトルの本作が浮かび上がらせるテーマは怒りそのものではなく、怒りを生み出す「同情」のように見える。例えば、千葉の漁師の槙洋平と娘の槙愛子は身元があやふやな田代哲也と知り合い、やがて愛子と哲也は一緒に暮らしようになるのだが、愛子は哲也を信じきれなかったし、東京の大手広告代理店に勤める藤田優馬が常連客として通っているゲイバーで偶然知り合った大西直人を自宅に住まわせるものの、末期ガンで入院している母親の藤田貴子の面倒まで見てもらいながら友人たちから聞いた空き巣の犯人を直人と誤解し信じきれず、二度と会えなくなってしまう。沖縄に引っ越してきた小宮山泉がアメリカ人に暴行を受け、一緒にいた知念辰哉は同情によるその責任の重さを引き受けられないでいる。一方で、沖縄などあちらこちらを放浪している田中信吾はたまたま座っていた八王子の家の玄関前でそこに住む妻の「同情」で凄惨な事件を引き起こす。この同情の些細な食い違いが最終的には激情までをも生む恐ろしさがスリリングに描かれているように思う。