原題:『The Fan』
監督:トニー・スコット
脚本:フォエフ・サットン
撮影:ダリウス・ウォルスキー
出演:ロバート・デ・ニーロ/ウェズリー・スナイプス/エレン・バーキン/ベニチオ・デル・トロ
1996年/アメリカ
熱烈な「ファン」の精神状態について
主人公のギル・レナードを狂気に駆り立てる原因は2つある。一つは父親が起こしたナイフの会社で働いているものの、セールスマンとして実績が上げられずクビになってしまうことで、もう一つはかつてリトルリーグの主力メンバーとして活躍していたが、結局プロとしての実績を残すことができずに挫折してしまったにもかかわらず、未練だけは残り、熱烈なサンフランシスコ・ジャイアンツファンとして球場に足しげく通っているのである。
2つの挫折の「はけ口」はアトランタ・ブレーブスから移籍してきた大物スラッガーのボビー・レイバーンに向けられる。最初はラジオを通じてボビーとコンタクトを取れたギルは、普通に電話をかけても話すことができたことでより身近に感じるようになり、ボビーの家をうろついているとたまたまボビーの息子のショーン・レイバーンが溺れているところに遭遇したギルはショーンを助けたことからボビーと知り合える。
ところがギルはショーンを誘拐してボビーにホームランを打つように要求し、スタンドには入らなかったものの、ランニングホームランを狙ったボビーにアウトの判定を下したのは主審のなりをしたギルだったのである。ギルはボビーを自己同一視して余計なものを排除し「育てる」ことで自分の夢をかなえようと試みていたが、それは無意識のレベルであり、ボビーに何がしたいのか訊ねられたギルは答えられない。
ギルがサイコパスと化したことを示す決定的なショットが下のカットである。
ギルは自分が写っている写真に「To Gil A True Fan(ギルへ 本物のファンより)」と書いてナイフを刺して車に残している。ギルがファンであると同時に殺したい相手は自分自身だったのである。サイコパスの精神分析としてはよくできている作品である。