原題:『何者』
監督:三浦大輔
脚本:三浦大輔
撮影:相馬大輔
出演:佐藤健/有村架純/菅田将暉/二階堂ふみ/岡田将生/山田孝之
2016年/日本
「著名」と「無名」と「匿名」の違いについて
『永い言い訳』(西川美和監督 2016年)の主人公の衣笠幸夫は著名な小説家になれただけでも幸せなのかもしれない。ほとんどの人々は「無名」のままで生きていくのだから。それでも若い内は多少なりとも野心を持ち、世の中に認めてもらえるように就職活動に耐えられなければ、主人公の二宮拓人と共に演劇サークルで活動していたものの、やがて二宮と袂を分かち小劇団を旗揚げして活動するようになる銀次がしたような選択もあるのだが、なかなか企業から内定をもらえない、一見すると誠実そうな二宮の性格はかなり歪んでおり、それは「匿名」として「何者」というよりも「何様」として糾弾されることになる。
そんな二宮と同じ大学に通う田名部瑞月は何故かいつも二宮の前に突然現れる。当初は二宮たちと一緒に就職活動をしていたが、就職活動に対して否定的な宮本隆良を非難したことをきっかけにグループを離れる一方で、最後まで二宮に対して肯定的ではあるのだが、最後に分かるようにそれは内定をもらえている「傍観者」だからで、実は一番性格が悪いのではないかと思えてくる。しかしそれは本作をあれやこれやと思いながら楽しんで観ている私たち観客にも当てはまることなのである。
ラストで二宮は面接試験で一分間の自己紹介にタイムオーバーで失敗し、会社を後にする。もはや二宮に残された選択は性格が悪くても生きていける衣笠幸夫が所属する文芸の世界だけであろう。