原題:『ピンポン』
監督:曽利文彦
脚本:宮藤官九郎
撮影:佐光朗
出演:窪塚洋介/ARATA/大倉孝二/中村獅童/竹中直人/サム・リー/夏木マリ
2002年/日本
「勘違い」と「強さ」の関係について
卓球というスポーツを扱っている割には、作品が醸し出すトーンはとてもクールで、おそらくそれは幼い頃にペコこと星野裕やアクマこと佐久間学が卓球を教えたスマイルこと月本誠が卓球に関して驚くべき天賦の才能を持っており、あっという間に2人を超えてしまい、さしずめアメリカンニューシネマの主人公が醸し出す挫折感がもたらすものであろう。
一旦は卓球を止めようとしたペコだが、田村のオババの厳しい指導により再び地区予選大会に出場することでスマイルと対戦することになる。つまり本作のテーマは「努力は天才に勝てるのか」ということである。
しかしクライマックスに向かい、ストーリーは微妙に変化してくる。ペコは強豪校のドラゴンこと風間竜一と準決勝で対戦することになる。楽しみながら卓球をしているペコと苦行のように卓球をするドラゴンの対決は、右ひざを痛めたペコが絶対的に不利なように見えたが、スマイルとの「テレパシー」による交信のおかげでペコはヒーローのようによみがえりドラゴンに勝利する。
その後、決勝でペコはスマイルと対戦し優勝するのであるが、その試合は描かれておらず、ペコがスマイルに「本当に」勝ったのかどうかははっきりしないままである。6年後、スマイルは子供たちに卓球を教える立場になり、ペコは国際大会に出場する有名な選手になっている。それでは「努力は天才に勝てるのか」というテーマはどうなったのか鑑みると、あくまでもヒーローのように自分のテンションを高められる者こそが強い者になり、それは当然楽しんでやらなければ続かないであろうし、一方、天才ではあっても気力のない者は凡人であるということであろう。それは善し悪しとは関係はないが、宮藤官九郎はここで「ヒーローは本当に強いのか?」という疑問を投げかけているのだと思う。