原題:『俳優 亀岡拓次』
監督:横浜聡子
脚本:横浜聡子
撮影:鎌苅洋一
出演:安田顕/麻生久美子/宇野祥平/不破万作/杉田かおる/工藤夕貴/三田佳子/山崎努
2016年/日本
名バイプレーヤーの「諦念」について
主人公の俳優の亀岡拓次は37歳の独身ではあるが、今や名バイプレーヤーとして引く手数多の状態である。それは例えば、作品の冒頭で警察に追われて最後に撃たれて死ぬシーンを演じている若手俳優が少しでも「爪跡」を残そうとなかなか「死なない」ことにしびれを切らした監督に手本を見せるように言われた、ホームレスを演じていた亀岡は助監督が銃を模した片手で「バン」と撃つやいなや真後ろに倒れるのである。亀岡は監督に言われた通りに演じることが最も良い仕事になると理解しているのであり、その上に「ミラクル」が起きるのだからバイプレーヤーとしての不動の地位を築けるのである。
しかしそれはあくまでもバイプレーヤーとして優れているのであり、「プレーヤー」としては微妙と言わざるを得ない。例えば、ロケのために訪れた長野県諏訪市で偶然立ち寄った居酒屋「ムロタ」の若女将の室田安曇に一目惚れしてしまった亀岡は、一緒に見ていたテレビニュースでアメリカの女性宇宙飛行士がトイレ休憩の時間を節約するためオムツをしてまでも車で遠出をして花束を持って不倫相手に会いにいったことを知り、親友の宇野泰平が妻帯者だったことを知って焦りだしたこともあって、自分もオムツをして花束を買って安曇に会いにいったのであるが、実は安曇には歩という3歳になる子供がいて、一度は別れた元夫とも復縁することになったことを知る。居酒屋を出てしばらくしてから亀岡はオムツを濡らし、居酒屋に置いてきた花束は最後まで安曇に気づかれることさえない。
つまり亀岡は他人に言われたことは完璧にこなせるのに、自分から主体的に行動を起こすと失敗するのである。亀岡が一流の「プレーヤー」になれない要因である。ラストでアラン・スペッソ(Alan Spesso)監督作品の出演が叶うものの、自分の出演シーンを撮り終えた後、行く手のない亀岡がどこともなく砂漠を放浪し始めるところが悲しい。