MASQUERADE(マスカレード)

 こんな孤独なゲームをしている私たちは本当に幸せなの?

『エル・クラン』

2016-10-11 21:31:02 | goo映画レビュー

原題:『El Clan』
監督:パブロ・トラペロ
脚本:パブロ・トラペロ
撮影:フリアン・アペステギア
出演:ギレルモ・フランチェラ/ペテル・ランサーニ/リリー・ポポヴィッチ/フランコ・マシーニ
2015年/アルゼンチン

テーマソングで明かされる「真実」について

 本作において何に驚いたかと言えば、プッチオ家の家主で主犯のアルキメデス・プッチオが逮捕された後に、獄中で勉強して弁護士の資格を取り、自ら弁護をしたという事実をエンドクレジットで知ったことである。善かれ悪しかれ「やり手」という人は何でも出来てしまうのであろう。
 それならば何故アルキメデスは家族まで巻き込んで犯罪に手を染めたのか気になるところで、そこで重要となる演出としてイギリスのロックバンドのキンクス(The Kinks)の名曲「サニー・アフタヌーン(Sunny Afternoon)」が作品冒頭とラストと2回流れることである。以下、和訳してみる。

「Sunny Afternoon」 The Kinks 日本語訳

税務署が俺のカネを全て取っていき
俺は外見だけは立派な家に残され
晴れ渡った午後を無駄に費やしている
俺は自分のヨットを使えない
税務署が俺の持ち物全てを持っていったから
俺に残されているのはこの晴れ渡った午後だけ

この税の強要から俺を救ってくれ
俺にダメ出しをくらわそうとする厚かましい母親がいるんだ
俺はこの上なく愉快に暮らすことを止められないし
この贅沢な人生を謳歌したいんだ
晴れ渡った午後を無駄に費やしながら
夏の暑い日の午後を
夏の暑い日の午後

ガールフレンドは俺の車に乗って逃げていき
彼女の両親のもとに戻っていった
酒浸りで無慈悲な日々について話しているだろう
今俺はここに座って
氷のように冷たいビールをすすりながら
晴れ渡った午後を無駄に費やしている

上手く切り抜けられるように俺を助けてくれ
俺がここにいなければならない上手い言い訳を二つ教えて欲しい
だって俺はこの上なく愉快に暮らすことを止められないし
この贅沢な人生を謳歌したいんだ
晴れ渡った午後を無駄に費やしながら
夏の暑い日の午後を
夏の暑い日の午後

この税の強要から俺を救ってくれ
俺にダメ出しをくらわそうとする厚かましい母親がいるんだ
俺はこの上なく愉快に暮らすことを止められないし
この贅沢な人生を謳歌したいんだ
晴れ渡った午後を無駄に費やしながら
夏の暑い日の午後を
夏の暑い日の午後

 この曲に込められた監督の意図を察するならば、具体的な描写はないのだが、アルキメデスは税金の支払いに困窮して誘拐殺人を繰り返していたのではないだろうか。
 それにしてもこのキンクスの「サニー・アフタヌーン」のミュージックヴィデオでは雪山の中でメンバーたちは演奏しており、「イン・サマータイム」と歌いながら最後に寒そうに手をこすり合ってギターを弾いているレイ・デイヴィスのひねくれた性格がよく表れている。


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『Gilles de Rais ~ジル・ド・レ~』

2016-10-10 00:19:07 | goo映画レビュー

原題:『Gilles de Rais ~ジル・ド・レ~』
演出:中野智行(PaniCrew)
脚本:中野智行(PaniCrew)
出演:水野哲也/斎藤真矢/小川慧/岩崎孝次/楮佐古大翼/飯田麻友/朝日奈ゆう
2016年/日本

「妖刀」の行方について

 ここでいう「ジル・ド・レ」とはフランス元帥ではなく、ジル・ド・レに由来する「妖刀」を指し、それが宣教師のルイス・フロイスを介して織田信長の手に渡り、さらにはそれが原因で豊臣秀吉と千利休の間で諍いが始まるのであるが、まさかのセリフ無しのお芝居で、前回と比較するならば使用している機材の性能がよくなって見応えはあった。ラストを引き継いで舞台を現代に移して再び彼らの子孫が諍いを始めても悪くはない。劇中で使用されていたコルビー・キャレイ(Colbie Caillat)の「トライ(Try)」を和訳しておこう。

「Try」 Colbie Caillat 日本語訳

あなたはメイクをして
ネイルを施し
髪の毛をカールさせて
いつもより余計に走っては
スリムな体型を維持しているから
みんなあなたを好きになる
彼らはあなたが好きなのかしら?

色気を醸し出して
恥ずかしがってはダメ
自分の殻を打ち破るのよ
これがあなたが自分に相応しいと思っていること
みんなあなたを好きになる
彼らはあなたが好きなのかしら?

あなたはそんなに無理することはない
全てをふいにする必要なんかない
あなたはただ動じなければいい
何も変える必要なんかないのだから

あなたは頑張る必要なんかない
あなたは無理する必要もない

ショッピングセンターで買い物をする時
あなたはクレジットカードを限度額まで使う
あなたはためらうこともせず
何でも買ってしまうから
みんなあなたを好きになる
彼らはあなたが好きなのかしら?

ちょっと待って
世間があなたをどのように思っているのか
何故あなたは気にしなければいけないの?
あなたが一人っきりでいる時に
あなたは自分自身が好きかしら
あなたは自分自身を好きになれる?

あなたはそんなに無理することはない
自分が壊れるまで努力する必要はない
あなたはただ動じなければいい
何も変える必要なんかないのだから

あなたは頑張る必要なんかない
あなたは無理する必要もない

あなたはそんなに無理することはない
全てをふいにする必要なんかない
あなたはただ動じなければいい
何も変える必要なんかないのだから

あなたは頑張る必要なんかない
あなたは無理する必要もない

メイクを落として
髪も下して
一息つきましょう
鏡に写るあなた自身を見てみて
あなたは自分自身を好きになれないの?
私はあなたが好きなのに


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『ボビー・フィッシャーを探して』

2016-10-09 00:33:32 | goo映画レビュー

原題:『Searching for Bobby Fischer』
監督:スティーヴン・ザイリアン
脚本:スティーヴン・ザイリアン
撮影:コンラッド・L・ホール
出演:マックス・ポメランク/ジョー・マンテーニャ/ジョアン・アレン/ベン・キングズレー
1993年/アメリカ

努力に縁の無い天才像について

 『ピンポン』(曽利文彦監督 2002年)を観た後に本作を観ることを勧めたい。本作の主人公であるジョシュ・ウェイツキンは『ピンポン』のスマイルこと月本誠と同じように天才であり、同時に野心に欠けており、さらに本作では描かれてはいないが、その後ジョシュはアメリカでジュニアのチャンピオンにまで登りつめインターナショナルマスターを獲得するものの、チェスを止めてしまい太極拳を始めるからである。
 それではボビー・フィッシャーが『ピンポン』の主人公であるペコこと星野裕かとなるとそうではない。フィッシャーも天才だからである。だから本作は実話としての面白さはあるが、『ピンポン』ほどストーリーに深みを感じないのである。


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『ピンポン』

2016-10-08 00:39:08 | goo映画レビュー

原題:『ピンポン』
監督:曽利文彦
脚本:宮藤官九郎
撮影:佐光朗
出演:窪塚洋介/ARATA/大倉孝二/中村獅童/竹中直人/サム・リー/夏木マリ
2002年/日本

「勘違い」と「強さ」の関係について

 卓球というスポーツを扱っている割には、作品が醸し出すトーンはとてもクールで、おそらくそれは幼い頃にペコこと星野裕やアクマこと佐久間学が卓球を教えたスマイルこと月本誠が卓球に関して驚くべき天賦の才能を持っており、あっという間に2人を超えてしまい、さしずめアメリカンニューシネマの主人公が醸し出す挫折感がもたらすものであろう。
 一旦は卓球を止めようとしたペコだが、田村のオババの厳しい指導により再び地区予選大会に出場することでスマイルと対戦することになる。つまり本作のテーマは「努力は天才に勝てるのか」ということである。
 しかしクライマックスに向かい、ストーリーは微妙に変化してくる。ペコは強豪校のドラゴンこと風間竜一と準決勝で対戦することになる。楽しみながら卓球をしているペコと苦行のように卓球をするドラゴンの対決は、右ひざを痛めたペコが絶対的に不利なように見えたが、スマイルとの「テレパシー」による交信のおかげでペコはヒーローのようによみがえりドラゴンに勝利する。
 その後、決勝でペコはスマイルと対戦し優勝するのであるが、その試合は描かれておらず、ペコがスマイルに「本当に」勝ったのかどうかははっきりしないままである。6年後、スマイルは子供たちに卓球を教える立場になり、ペコは国際大会に出場する有名な選手になっている。それでは「努力は天才に勝てるのか」というテーマはどうなったのか鑑みると、あくまでもヒーローのように自分のテンションを高められる者こそが強い者になり、それは当然楽しんでやらなければ続かないであろうし、一方、天才ではあっても気力のない者は凡人であるということであろう。それは善し悪しとは関係はないが、宮藤官九郎はここで「ヒーローは本当に強いのか?」という疑問を投げかけているのだと思う。


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『Cutie Honey -TEARS-』

2016-10-07 00:04:33 | goo映画レビュー

原題:『Cutie Honey -TEARS-』
監督:A.T./ヒグチリョウ
脚本:中澤圭規/田中靖彦
撮影:大塚雄一郎
出演:西内まりや/三浦貴大/石田ニコル/高岡奏輔/永瀬匡/岩城滉一
2016年/日本

「無駄遣い」されるキャラクターについて

 本格派のSF映画を撮ろうと目論みながらチープに見えてしまう原因は、例えば、富裕層が暮らす上層階から貧困層が暮らす下層階に落ちてきた主人公の如月瞳を育てていた轟夫婦がジャーナリストの早見青児と一緒に瞳を追いかけてきたソドムたちから逃げていたのであるが、隠れていた倉庫の中でソドムが放った爆弾の爆破に巻き込まれてしまい、轟夫婦は2人とも亡くなってしまうが、何故か下層階生まれで特別な能力を持つ訳でもない青児は重傷というほどでもない怪我だけで助かっているのである。
 本作のメインテーマは如月瞳と早見青児が持つファザーコンプレックスだと思うが、瞳が久しぶりに再会した如月博士はAIを支える「空中元素固定装置」の代わりとして機械の中に組み込まれていた。「自分が正しいと思うことをしなさい」と父親に言われた瞳は再び自ら上層階から飛び降り、如月博士が亡くなり「空中元素固定装置」も失った上層階は消失し、垂れ流されていた汚染物質による雲が消えて下層階の人びとの暮らしが守られたらしいのだが、2人のファザーコンプレックスが解決した様子はないし、上層階で平和に暮らしていた人々はどうなったのか心配してしまう。
 キューティーハニーを描きたいというよりもとにかく西内まりやをキューティーハニーにしたかったという企画先行で、ストーリーが十分に練られていないため「涙」を流したいのはお金を払って本作を観た観客の方だと思うが、西内まりやが歌う主題歌「Believe」は、西内がこれまでリリースした曲の中で一番良いといった感想くらいしか持てない。


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『リトル・マエストラ』

2016-10-06 20:26:00 | goo映画レビュー

原題:『リトル・マエストラ』
監督:雑賀俊郎
脚本:坂口理子
撮影:百束尚浩
出演:有村架純/釈由美子/上遠野太洸/蟹江敬三/筒井真理子/篠井英介/前田吟/小倉久寛
2013年/日本

『カノン』と『威風堂々』の違いについて

 『カノン』(2016年)がなかなか良かったので、同じ雑賀俊郎監督による本作も観てみた。『カノン』ではヨハン・パッヘルベルの『カノン』が効果的に使われているように、本作ではエドワード・エルガーの『威風堂々』がフューチャーされている。
 主人公の吉川美咲が高校のブラスバンドで浮いた存在となり港町のアマチュア・オーケストラに居場所を見つけるように、その「福浦漁火(ふくらいさりび)オーケストラ」そのものがコンクールではなく、応援席が無人の地元高校のバスケットボールの試合会場に披露の場を見いだすというストーリーの流れは悪くはないのであるが、バスケットボールの試合が行われている体育館でオーケストラが演奏するという展開に違和感が生じてしまう。彼らの志に現実が追い付いていないのであるが、これは監督ではなく脚本の問題であろう。


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『カノン』

2016-10-05 21:29:12 | goo映画レビュー

原題:『カノン』
監督:雑賀俊朗
脚本:登坂恵里香
撮影:出口朝彦
出演:比嘉愛未/ミムラ/佐々木希/桐山漣/古村比呂/多岐川裕美/島田陽子/鈴木保奈美
2016年/日本

カノンとひまわりの思い出について

 平成27年7月、母親代わりに育ててくれた祖母の岸本辰子が亡くなり長女の宮沢紫(ゆかり)、次女の岸本藍と、祖母の後を継いで金沢の料亭を継いでいた三女の岸本茜が久しぶりに集まる。そこで実は母親が生きていることを遺言書で知り物語が展開していく。
 しかし三人が母親に会った場所はある施設で、母親の原島美津子はアルコール性認知症を患っていて平成24年から入っている。飲んだくれの母親の思い出しかなかった3人は最初はそんな母親に好意を持てないでいたのであるが、例えば、藍が聡との結婚をいまいち踏み切れなかったり、紫が夫の和彦との関係を顧みたり、茜が慣れない仕事で密かにウイスキーを飲んだりしている時、それが母親の人生とリンクしてくるようになる。
 美津子は夫が画家になる夢を叶えさせようと一人で料亭を切り盛りしていた。昭和50年に紫が、昭和61年に藍が、昭和63年に茜が産まれ、順風満帆に見えたが、夫に裏切られたことで深く心に傷を負い、3人の娘を引き取って料亭を出て行くのであるが、美津子が失火で火傷を負ったことから3人の娘は辰子が引き取り、母親は死んだことにして育てられたのである。
 ヨハン・パッヘルベルのカノンや向日葵など日本人好みの要素を盛り込み、母親の半生を明らかにしていきながらラストシーンまでの描写は、意外と豪華な女優陣と共に十分見応えがあると思う。


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「Feel Like Makin' Love」 Bad Company 和訳

2016-10-04 23:14:19 | 洋楽歌詞和訳

Feel Like Makin' Love - Bad Company - Live from Red Rocks

 10月2日放送のNHK-BSプレミアムの『笑う洋楽展』でバッド・カンパニー(Bad Company)の

「熱い叫び(Feel Like Makin' Love)」を流していた。「Feel Like Makin' Love」といえば

ロバータ・フラック(Roberta Flack)の「愛のためいき」だと思って改めて聴き比べてみたら

ジャンルが違うからあまり気がつかれないようだが、特にタイトルのメロディ―ラインが

よく似ていると思う。ロバータ・フラックは1974年6月にリリースしており、バッド・カンパニーは

1975年4月のリリースだからそういうことなのである。以下、和訳。

「Feel Like Makin' Love」 Bad Company 日本語訳

君のことを考えるとは愛について考えること
君や君の愛無くして僕は日々を送らない
もしも僕の過去が黄金に輝く夢ならば
僕はすぐにでも死ぬまで君を天国で包み込もう

セックスしているような気分だ
君とセックスしているような気分だ

もしも僕が君のことを考えているならば
それは愛について考えることなんだ
もしも僕が君がいないまま生きるならば
愛が無いまま生きるということなんだ
もしも僕が太陽と月を手に入れられるのならば
僕たちが輝かそう
僕は昼も夜も君を満足させられるよ

セックスしているような気分だ
君とセックスしているような気分だ

もしも僕の過去が黄金に輝く夢ならば
僕はすぐにでも死ぬまで君を天国で包み込もう

セックスしているような気分だ
君とセックスしているような気分だ


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『SCOOP!』

2016-10-03 00:08:27 | goo映画レビュー

原題:『SCOOP!』
監督:大根仁
脚本:大根仁
撮影:小林元
出演:福山雅治/二階堂ふみ/吉田羊/滝藤賢一/斎藤工/リリー・フランキー
2016年/日本

「知性」を捨て「汚れ」のイメージを選ぶ俳優について

 主人公の都城静を演じた福山雅治は本作でそれまでの自身のイメージを変えようと試みたようだが、それが上手くいっているとは思えなかった。本作にしてみたところでストーリーの基本的な構成は今年フジテレビで放送されたドラマ『ラヴソング』の、ヒロインを育てる元プロミュージシャンの中年男性がしがないプロカメラマンに代わっただけである。
 前半の下ネタのオンパレードが福山雅治の本来の姿と言われればそれまでではあるが、クライマックスには問題があると思う。都城静は情報屋のチャラ源には昔大変に世話になっていたようで、それが薬で妻を殺してしまったチャラ源に最後まで付き合う原因になった。そこの詳細も描かれてはおらず、バイセクシャル同士でもないようだから何故そこまでしなければならないのか疑問が生じるのだが、敢えてそこは不問にしよう。
 事件前に都城静はルーキーの行川野火にロバート・キャパ(Robert Capa)の写真『崩れ落ちる兵士』を見せて自分がプロのカメラマンになった経緯を語る。その後、クスリで頭がおかしくなったチャラ源が都城に電話をかけてきて、都城と行川は車で現場に向かう。
 現場近くに到着すると都城は自分一人で行くからと言って行川を置いていくのであるが、行川は都城のデジタルカメラを勝手に持ち出して都城たちの後を追うことになる。都城はチャラ源と彼の娘と共に警官に囲まれながらも街をうろついているのであるが、その様子をカメラで撮ろうとしている行川を見つけたチャラ源が行川を撃とうとし、それを止めに入った都城を誤って射殺してしまうのである。その時、都城の「撮れ」と言う心の声に従うように行川は決定的なスクープ写真を撮るのであるが、ここまでのストーリーの流れが良くない。行川がいなければ都城は撃たれていないし、都城は行川に一緒に来るなと言っていたのだから、自分の身を挺してまで行川にスクープ写真を撮らせるつもりはなかったはずなのである。
 さらに言うならば写真家を志すきっかけになった『崩れ落ちる兵士』に関するノンフィクション作家の沢木耕太郎の分析を都城が知らないということはありえないはずで、そのような「フィクション」に関する考察がなされる訳でもなく、ファンの人をがっかりさせ、ファン以外の観客もがっかりさせる福山雅治が今後自身のイメージをどのようにもっていきたいのか全く分からなかった。


(『崩れ落ちる兵士(The Falling Soldier)』)


(寧ろ本作に相応しい写真はエディ・アダムズ(Eddie Adams)によって撮られた
『サイゴンでの処刑 (General Nguyen Ngoc Loan Executing
a Viet Cong Prisoner in Saigon) 』の方であろう。)


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『だれかの木琴』

2016-10-02 00:31:03 | goo映画レビュー

原題:『だれかの木琴』
監督:東陽一
脚本:東陽一
撮影:辻智彦
出演:常盤貴子/池松壮亮/佐津川愛美/山田真歩/岸井ゆきの/木村美言/勝村政信
2016年/日本

境界線上の人生の危うさについて

 主人公の新海小夜子は引っ越し先にあった美容院「ミント(MINT)」に入りたまたま担当になった山田海斗に少し髪を切ってもらったことに快感を得て、海斗のことが気になりだすのであるが、小夜子の行為が果たしてストーカーとまで断定できるほどのものかどうかは微妙なラインではある。例えば、新品のダブルベッドの上で小夜子が妄想する場面の相手は、髪を触るのは海斗だったかもしれないが、小夜子の胸をまさぐるのは夫の光太郎だからである。
 自分の新居にも自社の機器を取り付けるほど仕事熱心な警備機器会社に勤務している光太郎に下心が無い訳ではない。気になっている部下の女性を食事に誘うも友人も連れて行くと言われて諦めるのであるが、ある晩、街ですれ違った見知らぬ女性と一晩共にする。だからと言ってその後ズルズルと関係が続ことにはならず、次に会った時にホテルに行くことはない。
 そんな両親と一緒に住んでいる娘の中学生のかんなは思春期の少女らしく微かな不穏な空気を感じて不安を感じるのであるが、家庭のその不穏さはあくまでも「未遂」のままなのである。危機に直面した新海家は無事だったにも関わらず、海斗とガールフレンドの唯は、唯が小夜子の家に怒鳴り込んで暴言を吐いたことがきっかけで別れてしまうのであるのである。唯はいつも通っているバーで知り合った男性と交際することになるのであるが、その彼が光太郎の部下の飯塚なのだから先の人生はまだどうなるのか分からない。例えば、女性美容師に髪を触られたくて3ミリだけ切って欲しいと「ミント」にやって来た無職の22歳の青年が警察に捕まったことをテレビで知った海斗が「22歳で警察にお世話になって今後どうするんだろう」という感想を口にするのであるが、そんな海斗でさえ22歳の時に自分の母親の悪口を言った相手に暴行をはたらき入院させたのだから、人生は本当に紙一重でどちらに転んでもおかしくはないのである。
 適度なエロスとシュールな演出がルイス・ブニュエルの作品を想起させる佳作である。


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