(千頭森林鉄道の跡@沢間駅)
千頭から井川線で2つめ、集落の最奥にひっそりと佇む沢間の駅。簡素なアスファルト敷きのホームがあるだけの、いかにも井川線らしい中間駅です。ちょっとホームから引っ込んだ位置に駅名標が立っていて、ホームと駅名標の間のスペースに若干の余裕があるのは、ここから千頭森林鉄道が分岐していた名残りでもあります。今の沢間の駅から林鉄の栄華の時代を偲ぶにはあまりにも静かすぎて、いささか想像力を巡らすのは難しいような気もしますが、それでも駅の奥には人知れず林鉄で使われていた骨材輸送用のホッパーの跡があったりもします。寸又峡の山奥深く、古くは帝室御用林とされた南アルプスの広大な山林から切り出される木材の積み出しのために、千頭森林鉄道は昭和44年まで運行されていたそうです。
そう言えば、沢間の駅には一応まがりなりにも駅舎があったのだが、いつの間にか取り壊されて、駅舎の跡地には無造作な屋根掛けの駐輪場を兼ねた待合場所のようなものが建てられていた。在りし日の沢間駅の駅舎の姿をご紹介しておきますが、この小さな可愛らしいピンク色の駅舎が好きだったんですよね。使ってる人はほとんどいなかったんだろうけど、いつもきちんと管理されていたように思う。
満開の沢間桜をくぐるように、千頭行きの列車が沢間の駅に進入して来ました。前照灯を輝かせたDDには「さくら」ヘッドマークが取り付けられていて、SLにもELにも負けないDDならではの魅力を振りまいていますねえ。線路に沿って続く桜並木に挟まれた道路が昔の千頭森林鉄道のレール跡で、そのまま町道に転用され、それが現在も沢間の駅への唯一のアプローチ路になっています。
思えば、この日はSL・EL・DDと大井川の機関車全部にさくらカンが取り付けられたんですね。この緑地に大きな桜の花弁をあしらったカンは「若葉カン」と呼ばれているのだそうだ。早くも山影に沈む沢間の集落、ちょっと甘く切ないような桜満開の春の夕暮れを、さくらカンのDD客レが行く姿。これが絵になる姿でなくて何と言うのだねと思ったりする。本線でSLとELを撮影していた人は多かったけど、井川線になると全く撮影している人がいませんでしてね。この景色を独り占めするのが申し訳ないような、素敵な時間を過ごさせていただきました。