(弘前の街を後に@中央弘前駅)
レンタカーを返却し、津軽の旅もいよいよ終盤戦。帰りのノクターンが出るまでの時間は、乗り鉄に充てる事にしました。二日間有効の「津軽フリーパス」を購入していたので、これを使って未乗車の大鰐線を乗り通します。土曜の夜の中央弘前の駅、18:10発の大鰐行き。雪の積みあがった頭端式のホームを、改札を終えた乗客たちが足早に車内へ急ぎます。普段使いと思われるお客さんの中に、早めにアルコールの入った賑やかなお父さんたちが何人か。
パラパラと10人程度の乗客を乗せて走り出した電車は、夜の弘前の市街をガタンゴトンと走っては、小まめに駅に止まって乗客を降ろしていく。酔っぱらったお父さんたちは、弘前学院大前の駅で全員降りて行った。降りて行ったのだが、駅に着いてもワンマン列車の降り方が分からず車内をウロウロ。言い換えれば、お酒を飲んでクルマが使えない時くらいしか、お父さんたちは電車を使わないんだろうなあ。千年を過ぎると、車内の乗客の入れ替えはほぼなくなり、私を含めた6人が終点までの乗客のようです。
義務的な駅への停車を律義に繰り返しては、ひたすらに列車は暗闇の中を走る。津軽大沢で上り列車と交換した際に一瞬だけ窓の外が明るくなったが、後は再び闇の中に沈んだ津軽平野を大鰐に向けて走って行くのみ。後方の車両に乗っていると、ドアも開け閉めがないので駅に停車している感じもしない。ただただ規則的な短い間隔のジョイント音と、都会の電車に比べると大ぶりの揺れが気怠くリンゴ柄の吊り革を揺らすだけなのであった。
石川、石川プール前、鯖石、宿川原と朝方に撮り歩いた界隈も暗闇の中。羽州街道の車の灯りが並走すると、あっという間に終点の大鰐の駅。中央弘前から30分弱の小旅行であった。乗って来た僅かな客もあっという間に出口に消え、ホームにはカメラを持った自分だけが残った。大鰐線の東急7000は、大鰐側に連結用のジャンパ線が付いているのがいい。それも帯なし原型顔の7037号となれば、「急行」の赤板を付ければあの頃の東横線にひとっ飛び出来るような気がする。
エンド交換を終え、中央弘前に向かっての折り返し列車が客を待つ大鰐の静かな夜。冴えた空気の中で、ホームの蛍光灯に照らされた雪が輝いて明るい。残念ながら、この時間から大鰐線に乗って弘前へ出て行く乗客は見当たりません。土曜の夜だけど、夜の弘前に遊びに行ったりする客は電車を使わないのかな。飲みに行く足に使うには、終電が中央弘前21:30では早すぎて使いづらいのかもしれないけどね…
大鰐町は津軽の奥座敷として開湯800年の歴史を持つ温泉地ですが、80年代後半のバブルに乗っかった「大鰐地域総合開発(三セク)」によるハコモノを中心とした無謀なリゾート開発に失敗。100億円以上ともいわれる巨額の借金を債務保証していた町は、この三セクの破綻により早期健全化団体(要は財政が破綻寸前の地公体)に陥落しました。今はだいぶ整理が進んだみたいですが、おそらくこれがなければ、もう少し町の形も変わっていただろうし、大鰐線への支援も踏み込んだものが出来たのではないかと思うんだがなあ。
RINGOMUSUME(りんご娘) / Ringo star
暗い話ばかりをしてもしょうがないので、大鰐線のイメージアップ。弘前のご当地アイドル「RINGOMUSUME(りんご娘)」の曲に、弘前の街と大鰐線の出て来るPVがあります。何となくperfumeを思わせる和風なEDMに乗って、私が訪れた季節くらいの冬のキラキラした弘前の街が素敵に描かれている。Youtubeで大鰐線の動画を見ていた時にリンクで引っかかって来たのだが、デビューしてから結構長いようで、それでも地元密着の活動が中心のようだ。Neggicoみたいなもんですか。メンバーの名前がとき、王林、ジョナゴールド、彩香とリンゴの種類になっているのだが…脱退したら他のリンゴ補充しなきゃならんのか?その縛りはなかなかきついイバラの道だと思うのだが(笑)、歌唱レベルもメジャーシーンでやってもいいくらいの雰囲気があって、思わず他の楽曲も漁ってしまったよ。
全ての行程を終え、弘前のバスターミナルで横浜行きのノクターンを待つ。濃密、濃厚に津軽を愉しんだ二日間。比較的活気のある弘南線と、色々とテコ入れが必要な大鰐線が、弘前の市街を挟んで微妙な関係で対峙し合う弘南鉄道。陰と陽それぞれにはあれど、それでも地域に根差して走り続けるその姿と、古豪のラッセルたちにエールを送らずにはいられません。全てを網羅したように思えても、また季節が変われば全く風景も変わるのだろう。四季に通って初めてその路線を知ったことになるというのは先人の教えですが、弘前の桜とリンゴ花咲く春、津軽平野が芽吹く頃などは、またココロ湧き立つ景色が広がるのではないだろうか。
長々とお付き合いいただいた弘南鉄道の旅。
ノクターンの三列シートのカーテンを閉め、これにて終幕。
有難う御座います。
これだけ詳細に取材して記事に
して頂くと、現地に行ってみたくなります。
いつの日か出向きたいです。
雪融けの春には、また違った風景が見られるのではないかなと思っています。
読んだ人に行ってみたいなあと思わせるような記事をモットーとしておりますので、
そう思っていただければ望外の喜びです。