(有馬 川床 夏の夜@有馬温泉)
長々とお送りして参りました夏の遠征神戸電鉄編…最後に残ったのは有馬口から有馬温泉までの1区間。昼に乗換駅の有馬口は2回も通ったんだけど、あえて乗らず。何となく最後は有馬温泉にしたかったと言うのと、やっぱせっかく有馬温泉まで行くんだったらシメに温泉入ってさっぱりして終わりたいよね…って気持ちもあったんで。平日にもかかわらず、お盆を前に賑わう有馬温泉。温泉街の中心部を流れる有馬川の河原は貴船宜しく川床のようになっていまして、温泉客がツマミに生ビールで楽しんでいる羨ましい姿が(笑)。蒸し暑かった一日でしたが、有馬まで来ると山の風に川の風が吹いていて心地よい温泉街の夜。
粟生線の訪問を終え、改めて鈴蘭台まで戻り有馬温泉方面へ。有馬口では三田方面行きに有馬温泉行きが1分で接続するダイヤになっていて、写真を撮る暇もなく乗り換えを済ませると、電車はとっぷり暮れた闇の中を轟々と走るのみ。最後に少し長めのトンネルを抜けると、車窓には温泉街を囲む旅館の明かりが目に入り、電車はそのまま有馬温泉の駅に到着しました。
朝9時前から回り始めた神鉄電車の旅、ここ有馬温泉駅で全線完乗です。とりあえずお疲れさまっした。有馬温泉駅は頭端式1面2線のホーム、早朝深夜以外は15分おきと本線系統と同じ間隔で電車が走っています。何となく有馬口乗り換えが多いから末端の盲腸線っぽいですけど、そもそも神戸電鉄は神戸と有馬温泉を結ぶ目的で開業した神戸有馬電鉄を祖とする鉄道会社で、神戸電鉄の由緒ある本線ルートは湊川~有馬温泉間の有馬線なんですね。で、有馬口から三田までが後発で開業した三田線となります。
夜の有馬温泉駅前。戦時中までは、国鉄三田駅と有馬温泉を結ぶ国鉄有馬線が現在の神鉄三田線よりやや東側の有馬川沿いを通って有馬温泉と三田を結んでいたそうですが、戦況苛烈を極める中温泉街への鉄道は国策により「不要不急」とされ、その時には神鉄も既に三田~有馬口を開通させていたことから撤去対象となり、そのまま復活する事はありませんでした。ホントの話で、駄洒落じゃありません。
有馬温泉と言えば、「東の草津・西の有馬」と謡われる日本有数の温泉地であり、日本三古湯の一つ。駅前の交差点から眺める光景ひとつ取っても由緒正しい歴史を感じる温泉街の雰囲気で。ここへ鉄道を敷設しようという機運が高まったのも大いに頷けるところ。左側の山の上には「有馬兵衛の向陽閣へ~♪」のCMでおなじみの温泉旅館・向陽閣が見えてテンションが上がります(笑)。
有馬温泉 兵衛向陽閣 TVCM 1987 <伝統が醸し出す、やすらぎとくつろぎ。>
いや、あのローカルCMって結構インパクトあったからさあ。温泉CMで言うと「東のハトヤ、西の向陽閣」くらいのメジャーさはあったと思うよ。温泉入ってねーちゃんが「あ~、最高!」ってヤツよ。有名CMだから残ってるだろと探してみたら、宿のHPにCMライブラリーがあったよ!ちなみに自分がピンズドなのはこのあたりの時代のCMでんがな。さすが浪速のモーツァルト、キダタロー先生のツカミの効いたキャッチーなミュージックですなあ。
有馬温泉は有名な温泉地だけあって、宿泊するにはそこそこお高い。時間も時間だし、店じまい寸前の土産物屋を冷やかしたりしながら共同浴場「金の湯」へ。共同浴場とは言え非常にきれいな建物、普通温泉地の共同浴場ってーのは地元民の共有財産として非常に値段が安くされてたり、ヘタすりゃタダなんてところもあったりするのですが、この金の湯の設定価格は強気の650円。有馬温泉にはもう一つの共同浴場「銀の湯」がありますが、そちらはは現在改装中との事。夜になって少々涼しくなってきたとはいえ、夏にはちょっとハードな赤茶色の塩辛い熱めの湯をかけ流しで。鉄臭強め。
火照った体を冷ましながら湯の街の坂道をブラブラと下り、有馬温泉の駅前まで戻って来た。夜の街歩きを楽しんでいた湯客もそろそろ宿へ戻る時間、既に乗客の消え始めた駅の改札口に揺れる夏飾り。宿の灯がほの漏れる有馬温泉の駅、折り返しの準備の済んだ1100系の3連。
今日は三ノ宮に泊まる事になっているので、新開地には向かわず谷上で途中下車。北神急行を使って向かう事とします。三宮方面へ向かう谷上以遠の大半の客が同じルートを使うのではなかろうか…三ノ宮方面から地下鉄が到着すると、ぞろぞろと帰宅客が神鉄に乗り換えて行く。北神急行自体は神鉄も約3割の株主となっている阪急阪神ホールディングス内の会社で、純粋にはライバル会社ではない。おそらく神戸中心部への輸送力増強を迫られた神鉄が、ラッシュ時に粟生線&有馬線が流れ込む新開地~鈴蘭台の容量はいっぱいいっぱい、しかも同区間は厳しい山間部を通過するため改良もままならんと言う中で建設したバイパス路線なんでしょうね。
とは言え六甲山系の真下に約7,300mのトンネルを単独で掘る資金はないので、親会社の阪急とかその他の会社に出資を募って設立したと。惜しむらくは北神急行は神戸市営地下鉄と規格を合わせてしまったので狭軌の神鉄とは軌間が合わない事か…いずれにしろ新神戸までは神戸市営地下鉄が建設されることが決まっていたので、三田方面への乗り入れか、三ノ宮への直通か、悩んだ上で三ノ宮直通を選んだのでしょう。たぶん。まあそりゃそうするよな。ここで神戸電鉄を見送り、北神急行のワープゾーンに入るのでありました。
谷上から走り始めた北神急行は、六甲山系の下を突っ走り、あっけなく新神戸に着いてしまった。なんせ谷上から1駅だもんな新神戸。約14時間ぶりの新神戸だよ。宿は三ノ宮の方が近いんだけど、神戸地下鉄の初乗りが勿体ないから新神戸から歩きます。この日の夜はカプセルホテルです。どこまでも倹約(笑)。まあ、寝れればいいって事で。
神戸電鉄は大手私鉄と言うほどの規模でもなく、地方私鉄と言うには近代化されていて、その微妙な立ち位置から昔は「準大手私鉄」なんて呼ばれ方をしていました。高度成長期に急速に進んだ都市開発によって大手私鉄への道を進むかと思いきや、輸送力増強への投資は、いつしか人口減少社会となって急速に落ち込んで行く乗客の前に過剰資産となりつつあります。まさに日本のこれからの交通インフラにおける課題みたいなものを顕著に表している神戸電鉄、大手のように他業態に打って出て多角化するほどの資本力はなく、さりとて地方私鉄ほどはバッサリと合理化に割り切れない悩みと言うか…難しいよねえ。
それと、沿線の住宅開発と鉄道のアンマッチみたいなところが正直目立ちまして、そこらへんもったいないなあと。駅から見る丘の上には住宅街が広がっているのに、駅前の道路は細くてバスはおろか車も入って来れないような駅も多い。神戸市とか住都公団が主導で開発したんだろうけど、市営地下鉄ばかりに目が向いて、神鉄はあんまり関与しなかったんだろうか。もうちっと周辺の住宅街と鉄道の有機的な結合に力を入れた方がいいのかなと思うのですが、そこらへんに上手い事神姫バスが目を付けちゃったんだよなあ。神鉄関係なくそのまま三ノ宮に客を持ってっちゃう現状は、今となってはどうにもならんのでしょうけど。
鈴蘭台駅に滑り込む粟生線準急。何だかネガティブな事ばかり書いてしまったが、趣味的には大都市圏の山岳鉄道と言うシチュエーションは面白い。3両編成でここまで高低差の出る50パーミルを平然と走り抜けて行く姿、まさに神鉄の車両は山と戦うツワモノたちの集団である。天上の街と下界を結ぶ懸け橋として走り続ける神戸電鉄、「遅いし!高いし!」と言う地元の声を吹っ切る活躍を期待するものであります。
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