![]() | デフレの正体 経済は「人口の波」で動く (角川oneテーマ21)藻谷 浩介角川書店(角川グループパブリッシング)このアイテムの詳細を見る |
目からウロコの経済書を読んだ。藻谷浩介著『デフレの正体―経済は「人口の波で動く」』(角川oneテーマ新書)724円 という本である。最初、同僚のTさんから教えてもらったのであるが、いち早くN先輩が読まれ、「これは面白い!」ということだったので、貸してもらった。早くに読み終えたが、書店で品切れ(増刷中)だったので、しばらくレビューを載せるのを控えていた。
同書は、週刊東洋経済(8/14)の「2010年上期 経済書・政治書ベスト40」で、経済書のベスト5位にランクインしている。《学者やエコノミストなど、98人の投票で決まった2010年上期の経済書ベスト20。金融関係の良書が並ぶ》というもので、同書については《人口動態を無視した経済政策は不毛》という見出しがついている。
草野厚氏によると《事実を押さえることが重要という当たり前のことを強調している。この点を抜きに成長戦略やデフレなどを安易に議論しすぎているのが、政治家・メディア・官僚であり、それに踊らされている国民だということを教えてくれる》。山田昌弘氏は《日本経済の不況の理由を構造的視点から見事に描く。数字をいじるだけではわからない、現実の生活に直結するデータを示す》とする。
Amazonに、とても行き届いたカスタマーレビューが載っている。《著者が繰り返しデータを示しながら主張しているのは、"率だけをみてはいけない、絶対量の増減をみよ"ということ。例えば、一人当たり所得では地域の景気はわからない、所得総額を見よ。生産性が向上しても付加価値額の減少を補えない。出生率を上げても人口動態を動かすことにはならない。外国人労働者の受け入れを加速しても、生産年齢人口の減少を補うにはほど遠い。等々》。
《そして、その率の変化では補えない絶対額の変化を左右するのは人口動態、つまり生産年齢人口の減少と高齢者人口の増加。端的に言えば、消費をリードする若い世代がお金を持たず、多くの金融資産は消費意欲の低い高齢者が持つ。その結果内需は低迷し経済も停滞する、と》。
《「人口の波」は「景気の波」など軽く吹き飛ばすほどのパワーを持ち、その事実から経済論議をはじめなければ、ほとんどが精神論に終わる。データを用いながら巷に流通する景気論議を覆していく本書の前半は鮮やかで、一般国民にとって目から鱗だろう(薄々は感じていただろうが)》。
内容の見当をつけていただくため、前半(第1講~第8講)の目次をずらっと並べてみる。
第1講 思い込みの殻にヒビを入れよう
第2講 国際経済競争の勝者・日本
第3講 国際競争とは無関係に進む内需の不振
第4講 首都圏のジリ貧に気付かない「地域間格差」論の無意味
第5講 地方も大都市も等しく襲う「現役世代の減少」と「高齢者の激増」
第6講 「人口の波」が語る日本の過去半世紀、今後半世紀
第7講 「人口減少は生産性上昇で補える」という思い込みが対処を遅らせる
第8講 声高に叫ばれるピントのずれた処方箋たち
第1講から第8講では、「経済を動かしているのは、景気の波ではなくて人口の波、つまり生産年齢人口=現役世代の数の増減である」という問題提起がなれている。「生産年齢人口の減少と高齢者の激増」は、藻谷氏の推論ではなく、統計にハッキリ表れた日本の現実だ。これに対し藻谷氏は第9講以下で、処方箋を詳述されている。
どんな処方箋なのかは同書をお読みいただきたいのだが、ざっと知っていただくため、目次と小見出しを転記しておく。
第9講 ではどうすればいいのか①高齢者富裕層から若者への所得移転を
若い世代の所得を頭数の減少に応じて上げる「所得一・四倍増政策」/団塊世代の退職で浮く人件費を若者の給料に回そう/若者の所得増加推進は「エコ」への配慮と同じ/「言い訳」付与と「値上げのためのコストダウン」で高齢者市場を開拓/生前贈与促進で高齢富裕者層から若い世代への所得移転を実現
第10講 ではどうすればいいのか②女性の就労と経営参加を当たり前に
現役世代の専業主婦の四割が働くだけで団塊世代の退職は補える/若い女性の就労率が高いほど出生率も高い
第11講 ではどうすればいいのか③労働者ではなく外国人観光客・短期定住客の受入を
高付加価値率で経済に貢献する観光収入/公的支出の費用対効果が極めて高い外国人観光客を誘致
補講 高齢者の激増に対処するための「船中八策」
高齢化社会にける安全・安心の確保は第一に生活保護の充実で/年金から「生年別共済」への切り替えを/戦後の住宅供給と同じ考え方で進める医療福祉分野の供給増加
![]() | 人口減少時代のまちづくり―21世紀=縮小型都市計画のすすめ (現代自治選書)中山 徹自治体研究社このアイテムの詳細を見る |
※こちらは奈良女子大学大学院・中山教授の著書。帯には「百年後、日本の人口は3分の1に―。人口減少は衰退につながる― として、ほとんどの自治体計画はいまだに人口増を想定している。そうではなく、人口減少を前提条件として今後どのようなまちづくりを進めるべきかを、海外の具体的事例を学びつつ、考えていく」とある。
『デフレの正体』の話をすると、知人が有料記事検索をかけてくれ、ノンフィクション作家の吉岡忍氏が、的確な書評を書いていることを知った。中国新聞(8/2付夕刊)の記事で、見出しは《景気が悪いとお嘆きのあなたへ 「デフレの正体」》だ。
《いつかよくなる、きっとよくなる、と信じて20年。景気はいまだ低迷中だ。いっそ「よくなりません!」と言ってくれた方が見当外れの努力をしなくてすむ分、さっぱりするのに、と思っていたら、この本が出た》。
《モノが売れないから、天下の回りもののカネが動かない。賃下げ、失業、不景気が起きる道理だが、これをデフレという。それでバラマキをし、エコポイントをつけ、公共工事をやったりして、消費意欲をかき立てようとするものの、さしたる効果がない》。
《それでまた経済成長率を上げろとか、生産性を高めろとか、インフレ誘導をすべきだ、と振り出しにもどった政策話になって、そのたびにころころと政権も変わる。思えば、落ち着きのない20年であった》。
《この本はこうした過去を振り返った上で、いたってシンプルなことを言っている。景気が浮揚しない理由はただひとつ、生産年齢人口の絶対数が急速に減っているからだ、ということである》。
《生産年齢人口とは現役でバリバリ仕事をする世代のことであり、裏返せば、家やクルマや家電をどんどん購入し、子育てや教育関連のサービス消費も繰り返す「消費年齢人口」でもある。過去5年間、その人口は全国で250万人以上も減った。団塊世代が完全に退職する今後5年間ではさらに448万人も減る》。
《しかもこの減少、地方で起きているだけではない。首都圏も大阪も名古屋も同じで、かつて「金の卵」や団塊世代を大量に引きつけた大都市ほど定年退職と高齢化がいっきに進むので、消費はますます盛り上がらない》。
《では、どうすればよいか? 若い世代を低賃金でこき使わない、現役世代女性の就労や外国人観光客を増やすことと並んで、熟年・高齢者を魅了する商品を作れという提案に、私は賛成。これって、大量生産体質を抜けられない日本産業への強烈なパンチである》。
同書は良質なミステリー本のように、ハラハラ、ドキドキしながら読める本である。統計データに基づいた前半の問題提起は、グッと注意を引きつける迫力がある。それがあるから、第9講以下の解決策には納得できる。
http://blogs.yahoo.co.jp/hiromichit1013/61582213.html
データを駆使した270ページもの本なのに、参考文献が載っていない。《参考文献は国勢調査以下、文中で使った統計データのみであり、それ以外は特に存在しません》という思い切りの良さである。つまり、誰でもアクセスできる統計データをちゃんと読めば、藻谷氏のような問題提起は誰でもできた、ということなのだ。
![]() | 実測!ニッポンの地域力藻谷 浩介日本経済新聞出版社このアイテムの詳細を見る |
藻谷氏は以前、『実測!ニッポンの地域力』という本も出されている。《地域間格差なんてない!最強の地域エコノミストが「デタラメ」を切る。日本の子供の数は減っていない。小売販売額が増えているのは沖縄県だけ。工業の活性化は地域振興に結びつかない―。平成合併前の3200市町村の99%を訪れた経験にもとづいて明らかにする、負けない地域の作り方》という本だ。 私も、次はこちらを読もうと思っている。
ハラハラ、ドキドキしているうちに目からウロコがボロボロと落ちる『デフレの正体』、ぜひお読みいただきたい。