tetsudaブログ「どっぷり!奈良漬」

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三輪の巳(みぃ)さんの好物は?(産経新聞「なら再発見」第10回)

2012年12月22日 | なら再発見(産経新聞)
産経新聞奈良版の名物コーナー「なら再発見」も、いよいよ10回目を迎えた。このコーナーは、奈良検定の最上級資格「奈良まほろばソムリエ」資格を持つ約200人の団体「奈良まほろばソムリエ友の会」の14人が、交代で執筆している。今や奈良版だけではなく、三重版にも転載されている。今回は初の女性である。王寺町出身の辰馬真知子さんが、桜井市出身のひいおばあちゃんから聞いた不思議な話をもとに書き下ろされた。

 桜井市の大神神社の祭神、大物主神(おおものぬしのかみ)は蛇(へび)であると日本書紀の「崇神紀」に記されている。箸墓(はしはか)伝説として知られている話だ。
 日本書紀によると、同市の箸墓古墳の被葬者と伝わるヤマトトトビモモソヒメは、三輪山の大物主の妻となった。
 夜しか通ってこない夫に「姿を見せてほしい」と頼むと、夫は「明日の朝、櫛(くし)の箱の中に入っているから驚かないように」と言った。翌朝、彼女が箱をあけるとそこに美しい小蛇が入っていた、と記されている。
      
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 蛇のことを大和では親しみを込めて「巳(みぃ)さん」と呼ぶ。家の守り神で、普請(ふしん)や手入れの際、当主が亡くなった時に姿を現すという話を聞いた。
 私の曾祖母は三輪山麓の集落で育ち、三輪信仰が深かった。
 彼女の兄が肺炎にかかったとき、病気平癒を祈願し、三輪山で十日間の水行をした。満願の日、白い巳さんに会い、「ああ、助けてもらった」と確信したそうだ。
 その日を境に兄の熱が下がり、完治したという話を幼いころより何度も聞かされた。だから私は蛇が怖くないし、年輩の奈良の人がそうするように、「今そこに巳さんいてはった」というように敬語を使う。

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 なぜ蛇は神として崇(あが)められたのだろうか。諸説あるが、蛇は何度も脱皮を繰り返す。「再生の象徴」と考えられてきた、という説がうなずける。


卵などが供えられている「巳の神杉」=桜井市の大神神社

 蛇は「竜」を連想させるため竜神と習合し、雨を呼ぶとも考えられてきた。
 農林水産省のホームページによると、昨年の国内農業就業人口は約260万人で、人口に占める割合は約2%、一方、明治以前は推定85%以上で、大半の国民が農業に従事していたとされる。
 特に米作りにとって水は必要不可欠。雨水だけに頼らず、ため池を作り、営々と努力を重ねてきたが、最後は自然の力に頼るしかない。
 そこで日本の宗教は、水への信仰に傾斜してきたという面がある。多くの神社は水と関係のある神を祀り、蛇を水神の化身として崇めている。
 大神神社の拝殿や、巳さんが住むと伝わる「巳の神杉」前に立った人は、他の神社ではあまり見かけない供え物に気づくだろう。なんと卵だ。参拝者は、巳さんの大好物を供える。
 曾祖母は、家の塀の上に巳さん現れるのを知って、卵に穴をあけて置いていた。しばらくすると、卵は殻だけになっていた。
 毎年多くの初詣客でにぎわう大神神社は、境内が大混雑する。拝殿に近寄れず、賽銭(さいせん)は遠くから投げ入れることになるが、巳さんの好物必ず前まで持っていって静かに供えて下さい。(奈良まほろばソムリエ友の会 辰馬真知子)

私も来年の巳年にちなみ、蛇に関する民俗信仰の話を集めているところであり、今回の話はとても興味深く読ませていただいた。自宅の塀の上に卵を供える人がいらっしゃったとは…。辰馬さん、有難うございました。衆院選の関係で本欄が2週間休載となり、大変お待たせいたしました!

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