tetsudaブログ「どっぷり!奈良漬」

コロナも落ちつき、これからが観光シーズン、ぜひ奈良に足をお運びください!

観光力創造塾(第8回) デービッド・アトキンソン氏を迎え「世界一訪れたい奈良のつくりかた」を白熱討論!

2017年07月21日 | 観光にまつわるエトセトラ
7月19日(水)、「奈良春日野国際フォーラム甍~I・RA・KA~」(旧奈良県新公会堂)で、「第8回 観光力創造塾」(南都銀行と奈良県の共催)を開催した。県観光の振興のため、年2回開催しているシンポジウムである。アトキンソン氏の近著のタイトルにならえば「世界一訪れたい奈良のつくりかた」を考えるシンポジウムだ。ラインナップは、
※写真はすべて7/19、南都銀行社内報編集担当のMくんの激写

第Ⅰ部[基調講演]
 テーマ :「文化財観光」はなぜ必要か
 講 師 : 小西美術工藝社代表取締役社長 デービッド・アトキンソン 氏
第Ⅱ部[パネルディスカッション]
 テーマ :「神仏の聖地」現場から
 パネラー:小西美術工藝社代表取締役社長 デービッド・アトキンソン 氏
      金峯山寺 長臈(ちょうろう)、種智院大学客員教授 田中利典(りてん)氏
      海龍王寺 住職 石川 重元(じゅうげん)氏
      明日香村長 森川 裕一 氏
      奈良県観光局理事、奈良県ビジターズビューロー業務執行理事 中西 康博 氏
 コーディネーター:南都銀行 公務・地域活力創造部 シニアスタッフ 鉄田憲男


著名な講師が勢ぞろいしたので、過去の観光力創造塾の約3倍の約350人の方にご参加いただいた。当日の概要を手元のメモから拾うと、


アトキンソン氏の基調講演

第Ⅰ部[基調講演]デービッド・アトキンソン氏
・世界で観光産業は、自動車産業を上回る規模である(エネルギー、化学製品の次)。
・日本の観光国際競争力は世界で第4位。2年前からの改善率は世界一。
・日本はこれから人口が減っていくので、インバウンド(いわば短期移民)が大切。
・観光立国の4条件は、自然・気候・文化・食事で、日本にはすべてが揃っている。
・奈良県は「自然と文化」の潜在能力が高く、両者を組み合わせ、長期滞在してくれる(観光収入増につながる)ヨーロッパ人などを呼び込まなければならない。
・「もてなし」「治安の良さ」「公共交通機関のダイヤの正確さ」では、外国人は呼べない。

・外国人には「日本人は外国人を歓迎せず、冷たい」(unwelcoming and cold)というイメージがある。
・観光には、コンテンツの「多様性」が必要で、「1点売り」ではダメ。
・爆買いの対象はほとんどが輸入品なので、たくさん売っても日本としての経済効果は小さい。
・観光収入の半分は宿泊と食事。5つ星ホテルは日本には28軒しかない(奈良県はゼロ)が、タイには110軒もある。日本は(ビジネスホテルばかりでなく)宿泊施設の多様性を持つべき。

 世界一訪れたい日本のつくりかた
 デービッド・アトキンソン
 東洋経済新報社

また、こんなたとえ話も登場した。「あなたが海外からお友達を呼ぶとする。あなたは家の調度品を取っ払って物置にしまい込み、ふすまや障子も外す。がらんとした家に友人を招き入れ、屋根の形や瓦の文様、建物の構造や家の歴史などを延々と話す。しかし写真撮影や録音は禁止、飲食も禁止、家のものには一切手を触れてもいけない。こんな『観光』で、海外から人を呼べますか? 日本人がやっているのは、こういう観光です」。イギリス人特有のアイロニー(皮肉)が、ブラックペパーのように効いている。



第Ⅱ部[パネルディスカッション]
金峯山寺 長臈、種智院大学客員教授 田中利典氏
「紀伊山地の霊場と参詣道」の世界遺産登録に動いた。登録後、参拝者は4~5倍になった。ご本尊・蔵王権像の特別開帳では、拝観料を当時の400円(現在は500円)から1,000円に値上げした(しかし護摩木Deストラップやロゴ入りのエコバッグなどを進呈し、参拝者に還元し、喜んでいただいた)。奈良というと天平時代のイメージだが、県内には中世の遺物・史跡がたくさんある、もっと「奈良に中世あり」をPRすべき。(開帳のため、蔵王権像の彩色が剥落しているという人がいるが、という質問に)もともと劣化が進んでいたが、開扉しなかったので誰も気づいていなかった。剥落防止の処置をしたので、そのように見えるだけ。

海龍王寺 住職 石川 重元氏
以前から「奈良は情報発信が下手だ」と言われている。佐藤可士和氏の本を読み、こんなことを考えている(人に来ていただくための情報発信と、来ていただいた方にわかっていただくための情報発信)。時代とともに埋もれてしまった本質を、もう一度ピカピカに磨き直して再プレゼンテーションする。お寺の宣伝ではなく、存在の意味を伝える。形の表現ではなく、考え方を表現する。何に惹かれているのかを「言語化」する。きちんと説明することを徹底することで、関わる人々の意識の底上げを図る。ルーツ(歴史)を上手にアレンジして発信する…。海龍王寺は法華寺とともに平城宮跡(世界遺産)の関連施設。追加の世界遺産登録を望む。



明日香村長 森川 裕一 氏
ホームステイ型の教育旅行(修学旅行)に傾注している。外国人の宿泊客数も、ここ1~2年は増加傾向。「人づくりの基本目標」は、小学6年生になったら全員が、石舞台や高松塚古墳の前で、定点ガイドする。中学3年生になったら全員が、石舞台や高松塚古墳などの前で、英語でガイドする。大学生になったら、飛鳥で、国内外の友人をガイドする。社会人になったら、毎年数人が明日香村で、観光に関わる仕事に就く。多くの村民や周辺住民が、来訪者を案内する。

奈良県観光局理事、奈良県ビジターズビューロー業務執行理事 中西 康博 氏
京都は直近の都として、大都市をベ-スとして社寺や街並み、伝統芸能といった日本の古いものが残っていることを前面に出し、古都のイメ-ジを作り上げた。あわせて大量の観光客にも対応できる大都市として、幅広い層から観光地として受け入れられてきた。ところが奈良は京都より「歴史が古い」ということだけを前に出したため、京都と同様の古都のイメージになり、二番煎じに甘んじることになった。旅行社のチラシが「京都・奈良」になっているのがその典型。京都はビジュアルで見るところ、奈良はこころで見るところ、そこを理解すれば自ずと攻め口は見えてくる。




4人のパネリストに、誘客のためのキャッチフレーズを作っていただいた。ピックアップして、以下に紹介させていただく。

田中利典氏
日本が日本のままで生きている 神仏の聖地・吉野

石川重元氏
(奈良について)ときめく奈良・きらめく奈良・あなたと奈良
(海龍王寺について)平城宮の生き証人

森川裕一氏
飛鳥 Field Theater
明日香まるごと博物館 ORIGIN OF JAPAN

中西康博氏
奈良はこころで見るところ
現代の東京、明治の京都、天平の奈良


 新・観光立国論
 デービッド・アトキンソン
 東洋経済新報社

こうして振り返ると、本当に皆さん、良いお話をしていただいた。「うまく時間内にコーディネートできるだろうか」と不安だったが、パネリストの皆さんのご協力で、何とか予定通りの時間に収めることができた。昨日(7/20)、早速田中利典さんがご自身のFacebookにご感想を書かれていた。なお「アトやん」とは、アトキンソン氏のこと。引用すると、

昨日は奈良県新公会堂で開催された第八回観光創造塾のパネルディスカッションに参加しました。病み上がりとはいえ、やはり舞台に上がるとしゃべり過ぎたと少々反省。基調講演のアトキンソンさんはともかく、かなり目立ち過ぎたかも知れない。そんなわけで最後は遠慮して、いちばん伝えたいことをストレートに言えないまま、終わった感がある。ちょっとは言うたのですが。

1つは先ず奈良観光というとよく「奈良は寺と神社しかない」というけど、それは反対で日本でも冠たる由緒深いお寺と神社があるわけで、それを自覚するところから始めるべきである。アトキンソンさんが多様性を強調されていたが「寺社+自然環境」「風土+食文化」でないと、奈良でなくてもよそでよいことになる。アトやんはそこはわかっているとは思えなかった。

2つめは、パネルディスカッション中でもふれましたが、奈良観光は奈良ばかり売るから、奈良に泊まる人は増えない。寺社は夕方には閉まるから、電車で夜は京都や大阪に泊まった方が楽しい訳である。

まず吉野をはじめ南大和や飛鳥や葛城や桜井をまえに出して、まずその近辺を中心に泊める奈良観光を考え、それに付随して、当然奈良に来たのだから、奈良市内の観光もついでに誘う。そうすれば劇的に奈良県内の観光人口や 宿泊者は増えるのは間違いない。

パネルディスカッションの中で吉野金峯山寺の映像を流したが、桜の映像は使っていない。桜の時分はほっておいてもある程度、人はくる。しかし金峯山寺の拝観が増えれば当然春の観光も刺激されてさらに増えるのである。まして奈良だけの奈良県内の観光を考えていてはこの先も、自明のことだと私は思う。奈良だけ売っても奈良観光が頭打ちだとは東大寺の狭川別当さんをはじめ多くの南都の皆さんも賛同、指摘を頂いている。



3番目は、奈良県には世界遺産が3つある。全国で3つあるのは奈良県だけである。しかしながら奈良県には世界遺産を専門に担当する冠の付いた部署はいまだにない。和歌山も三重も登録前から世界遺産推進室があった。ぜひ、奈良県には世界遺産日本センターのようなもを設立して、世界遺産の保全と保護、大いなる活用と継承、環境自然文化の専門的な部署を活動させてほしいものである。それでこそ「日本の始まりの奈良」にふさわしい活動ではないだろうか?単に天平の奈良では意味がないと私は思うのである。

文化庁が京都に来るならなおのこと、奈良県は率先して世界遺産を考えるべきだろう。アトやんは英国人にしてはとびきり日本通で、へんな日本人より核心をついておられたが、あまり、わかってないなというところも感じられて、有り難がりすぎて、言われるままにしていては、正直、えらいめにあわされるでしょうね。

聞くべきところも物凄くたくさんあっただけに、奈良県庁を含めて、あまり有り難がり過ぎている感がした所には、少々違和感がありました。でも、思いの外、面白い会でした。鉄田さん、ご苦労さまでした。

あ、うちの、拝観料のことはまた、いずれ。アトやんが言うような3倍には出来ませんよ。ただ、うちが拝観料を一番最初、2.5倍にしたときの経緯の中に、少しヒントがあるという話をもう少し詳しく出来たらと思いました。


アトキンソンさん、パネリストの皆さん、示唆に富んだお話を、ありがとうございました。ご来場者の皆さん、長丁場にお付き合いいただき、深謝です。奈良県庁および南都銀行スタッフの皆さん、お疲れさまでした。

次回(第9回)は、およそ半年後。またのご来場をお待ち申し上げます!
コメント (4)
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