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田中利典師の講演「生と死…修験道に学ぶ」より(9)命がけの修行により「生きる実感」を持つ(まとめ上)

2023年01月24日 | 田中利典師曰く
金峯山寺長臈(ちょうろう)田中利典師は、ご自身のFacebookに、ご講演「生と死…修験道に学ぶ」(第42回日本自殺予防学会総会 2018.9.22)の内容を10回に分けて連載された(2022.11.7~20)。心に響くとてもいいお話なので、私はこれを追っかけて当ブログで紹介している。
※トップ写真は、大和郡山市の椿寿庵で撮影(2008.3.15)

残すところあと2回だが、今回と次回は「まとめ」になるようだ。まとめの初回は、命がけの修行によって「生きる実感」を持つことの大切さを説かれる。自殺願望の人さえ危ない目にあいそうになると、一生懸命自分の命を守ろうとする。「死にたかったんと、ちゃうんかい!」と言ってみたくなるのだそうだ。では、利典師のFacebook(11/19付)から全文を抜粋する。

シリーズ「生と死…修験道に学ぶ」⑨「まとめとして」(上)
今回の日本自殺防止学会では、「あるべきように生きるー地域の繋がりの中で自殺を防ぐー」という素晴らしいテーマが掲げされています。

ただしその繋がりは、地域の繋がりという、いわゆる欧米的なコミュニティ社会だけが想定されているように思いますが、そうではなくて、私は地域や社会に限定しないで、もっと広げた、そこに生きる人だけではなく、そこに生きてきた人、先祖、過去、歴史、そして未来も含め、文化、風土、自然など全て込みの繋がりであるべきなのではないかと考えます。

欧米的なコミュニティ=人間社会だけの地域の繋がりとか、今だけの地域の繋がりではない、過去からの繋がり、未来への繋がりも含めたすべての繋がりの中で考えるということが、私は大事なのではないかと思うのです。

何度か、今までの話の中で修験道の「擬死再生」ということを申し上げました。擬死再生も本当の意味は繋がりにあります。一度死んで生まれ変わるという、死んで終わるのではなくて、一度死んで生まれ変わるところに、人間が生きていく生の継続、その生の実感、死の実感がある。そういうことを儀礼として、修行として教えているのが修験の教えであると申しましたが、その真意は「繋がる命を見つめる」ということに尽きるのであります。「死に習う」という教えもまたしかりであります。

最後にもう一度まとめてみました。今回の自殺予防というテーマに関して、修験道から提言をさせて頂く要点を3つ述べておきます。ひとつは命の実感、生きる実感を持つこと、持たせることというのが大変大事なのではないか。修験の行というのはまさに命の実感の行であります。

私どもはいろんな方を受け入れて修行しております。鬱病の方とか、統合失調症の方とか、あるいはなにか見るからに心が病んでいるような方もおいでになります。そんな人たちも、断崖絶壁の、自分の身に危険がある場所では必死になって行じておられます。人生に投げやりな人も、自分の命が危ないというその場所になると、必死になって行じます。自殺願望の人さえ、危ない目にあいそうになると、一生懸命自分の命を守ろうと行じます。「死にたかったんちゃうんか」と思うような人でも、その場に行くと一生懸命に岩をよじ登るのです。

そのようにして、修行をようやく終えて、自分の命、自分の生きる実感に出会った時に、生きる意欲を新たに生む方がいます。見違えるように生き生きとされている方もいます。まあ、だからと言って、そんな方ばかり来られると修行になりませんので、あまり喧伝されるのは不具合なのですが‥。そういうこともあるのだという風に、今の話は聞いておいて頂ければと思います。

人間というのはじつに厄介なものです。なぜ人間が厄介かというと、動物は生きることに精一杯です。そういう意味では、人間は、弱肉強食に生きる動物たちほどは生きることだけに精一杯ではなく、いろんな意味で余裕もあるから、頭の中で、自分の死を考えたり、自分の将来を考えたり、自分の過去を悔いたり、いらぬ懊悩をするわけです。

ところが犬や猫にはそんな暇なく、野生のライオンやキリンたちはまさに弱肉強食の世界で、そういう考えさえ持つ余裕もなくや、思考もなく、必死に生きているわけで、彼らは死という概念さえもっているかどうかも分からない。死を知るどころか、生に精一杯である、とも言えましょう。

でも、人間は自分の生に目覚め、死にも目覚めてしまったわけであり、そうだからこそ、厄介なものなのです。(続く)

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好評いただいている?私の著作振り返りシリーズの第4弾は、平成30年に開催された第42回日本自殺予防学会での特別講演「生と死…修験道に学ぶ」を、10回に短く分けて紹介させていただきました。いよいよ最終の1つ前です。次回で終わりです。みなさんのご感想をお待ちしております。
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