手紙を出しに郵便局へ自転車を走らせた。帰り道、新緑のツツジが美しい大塚山の墓地公園脇を通り過ぎた。ふと気になる墓石が目に入った。
洋風のデザインの墓石に「冬夏春秋」と刻まれてあった。裏の墓誌をみると二〇〇三年92才の女性名が刻まれていた。新しい墓石の建立主のお母さんだろう。私も母を二〇〇三年に同じ歳で亡くしている。何か不思議なものを感じた。
建立主の名前を電話帳で調べて、「冬夏春秋」について尋ねた。それは、魯迅の詩からとったものだと言う。先方も忙しく、上辺のはなしだけで電話を切った。
また、住まいが母の実家のあった近くなので、ひょっとしたらなくなられた方と知り合いではなどと、大正、昭和初期の考えたこともない若き日の母を想像したりした。
ネットで調べてみたら、魯迅の「自嘲」という詩があった。
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自嘲 自らを嘲る
運交華蓋欲何求 私は華蓋(悪運)にとりつかれ
未敢翻身已硴頭 身をかわすこともなく壁に当り
破帽遮顔過鬧市 破れ帽子で顔を隠し雑踏を抜け
漏船載酒泛中流 酒を積んだボロ舟同様危うい
横眉冷対千夫指 千人の指弾にも心を動かされず
俯首甘為孺子牛 家では子供のために牛になって
躱進小楼成一統 小さな家族の平和に満足し
管地冬夏与春秋 外界の四季などはどうでもよい
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多分、家族を大事にしたお母さんを思っての表現なのかと思った。