■水位計■
最終局面を迎えた’11シーズンの渓流釣り。ボク自身は一度木曽川本流に向かったものの、大増水のために18cm級が2匹という貧果に終わることを経験し、残り時間から考えると、ほとんど後がない状態になっていた。
しかも、頼みの岐阜県北部では既に10日以降に禁漁を迎えていた。残るところボクの実績からいって「久婦須川」しか思い浮かばず、釣行チャンスをうかがっていたのだが、日頃から頼りにしている「国土交通省 川の防災情報」内の、久婦須川の水位計が、釣行前の1ヶ月以上の間で0.89mで固定されていた。
何だか様子が変なので、H.P.上に載っている管理者である「富山土木センター」に問い合わせてみた。
すると、係の方がチェックに向かうとのこと。そして、調査した結果をワザワザ電話で報告して下さることになった。そして2日後、「故障していたので直した。」との連絡をいただいた。
それから釣行日までの間は、動き始めた水位計とのにらめっこが始まったのだが、釣行予定日までに何とか増水してくれないかとの願いは虚しくも届かずに時間切れし、更にはぶり返す残暑の中という、いわゆる「望み薄」の状況下での出発となった。しかし、この「望み薄」という思い込みが後々悲劇?をもたらすのであった…。
■入渓点■
入渓点についてはもうアレコレ迷っているヒマはなかった。「いつもメインにしている場所から…。」と考えていたが、今回はパターンを変えて、とりあえず、大場所である堰堤付近を一通り攻略してから、一度退渓して下流に移動、その後は再び釣り上がるパターンで攻めることにした。
まずは堰堤付近から…。
やはり、水位が低い。当日の天気予報では、昼過ぎから曇り始め、夕刻から一時雨が降る予報だったので、晴天の悪影響は受け難いものと考えていた。しかし、霞が消えた後はド・ピーカンの気配が漂っていた。
「時合いは谷に日が差し込むまでか…。」との予想の下、徐々に釣り上がってゆく。
しかし、晴天続きで連日のように責め立てられているのか、有望そうなポイントでは小型しか出てこない。
そして、何も得ないまま堰堤直下に差し掛かる。
「先に押さえる」という意味もあって最初に入ってみた堰堤下は、狙いに反して結果は惨敗であった。そして得るモノはほとんど無いままに一度目の退渓を決意した。
■いつもの区間へ■
少し下って、いつもの区間から入渓し直す。しかし、盛りを過ぎたとはいえ、夏の一部であることは変わらず、入渓点へと続く踏み跡は生い茂る草木で覆い隠されていた。したがって完全藪こぎ状態で入らねばならず、「暑さ」と「草いきれ」でギブアップしそうになりながらも、何とか河原に降り立つことが出来たが、そこには夏同様の日差しが渓に向かって容赦なく差し込んでいた。
竿を振り始めるが、予測通りの食い渋りに遭う。ここぞという箇所で何度もシツコク粘るといくらかアタってくるが、全てが小型からのものだった。
■エサの傾向■
当日は4種類のエサを使い分けていた。いわゆる市販エサの「ミミズ(キヂ)」、「ブドウ虫」と、川虫の「ヒラタ」と「クロカワムシ」だったが、全ての場面において「この日基準の」良型がアタるのは、「秋の大型」を見込んで持ち込んでいた太いタイプのミミズ(キヂ)だった。ただし、エサの太さとハリ掛かりを考慮して、ミミズ通しを使ってキッチリと装餌することを心掛けていた。
次いで、成績が良かったのがブドウ虫だったが、ヒラタに関しては、アタリの数が段違いに増えるものの、ほとんどが小型と、ウグイなどの外道だった。ヒラタはワザワザ遠回りまでして岐阜県の郡上で仕入れてきただけに、この結果に無念さが残る。
■この日の最大魚■
瀬からの流れが収束するポイントで、それらしき良型魚のアタリがあったものの、アワせた瞬間に、アッという間に仕掛が高切れして逃してしまった。
何となく、気配が残っているような気がしたので、そのポイントで粘ろうかと思ったが、ここで大失敗に気付く。この日メインで使っていたミミズの予備パックを車内のクーラーに置き忘れていたのだ。
えさ箱を覗いてみると、ミミズの数は残り7本。残りポイントの数から逆算すると、ギリギリの数だった。そこで、1箇所であまり粘らず、ここぞという要所のみでミミズを使ってアタリを拾っていく「一撃必殺」の作戦をとることにした。
そして、次なるポイントは日陰になった淵に滝が流れ込むというロケーションだった。
「絶対に居るはずだ。」との予想の下、色々と手を変えて流してみたが、アタリが出ない。ここで、「流れてくるエサ」に反応しないのなら、「ほとんど動かないエサだったらどうだろう?」という疑問が湧いてきた。「だったら…」とばかりに仕掛を回収する。そして0.5号を二つハリから60cmほど離して打った超ヘビーな仕掛に変えて流れの底をズルズルとブレーキを掛けながら流してみることにした。
幸い底質は砂混じりだったので、根掛かりは少なそうだった。何投目かのズルズルで「フッ」と竿先にかかっていた重みが軽くなり、抜けたような感触になった。「アタリかな?」と思った瞬間に反射的に手首が返る。
「ズンッ!」と竿に乗った感触はこの日、これまでで一番のものだが、超大型ではないことも同時に理解ができた。
半ばこのクラスを諦めていただけに、じっくりと引き味を充分に楽しむ。そして無事玉網の中に誘導できたのは、良型と言っても良いサイズのヤマメだった。
■フライ・インジケーター■
次なる区間は左岸に樹木が茂るポイント群だ。この区間は本来手前の底石の周囲もポイントなのだが、この日は全くの無反応。どうやら渓魚達は日差しを恐れて樹木の覆い被さる部分のエグレに入り込んで、出てこない様子であった。
事前にそのことは予測済みだったので、今回はその対策にある小物を用意していた。その名を「フライ・インジケーター」という。
コレはフライで釣る際に、どうしてもアタリが見にくい場合に目印とする、言わばウキのようなものだ。様々なタイプがあるらしいが、ボクが選んだのは粘土のように自在に形が変わり、どんな位置にでも装着できるタイプだ。
大豆が三粒ほどの大きさで、ガン玉G4程度の浮力があったので、G4のオモリをハリ上40cmのところに打ち、あらかじめ、水深を予想してウキ下を決定する。その仕掛を対岸ギリギリに投入してみると、普通の脈釣り仕掛ならオモリの重みで手前に寄ってくるところだが、インジケーター仕掛だとキレイに対岸の流れの際をトレースしてくれる。と、思ったらすぐにアタリがあって、この日ではソコソコの渓魚が連続ゲットできた。
渓流釣りの諸先輩方からは「邪道だ!」と叱られてしまいそうだが、「釣れないより釣れた方が楽しいのは間違いのないところなので、その点はご理解のほどを。
■諦めきれずに…■
インジケーターの釣りを試した後、少し釣り上がると、そう時間が掛からないうちに、朝一に入った堰堤が見渡せる位置まで到達した。それとほぼ同じタイミングで、ミミズの餌が尽きたので「このまま脱渓しようか?」とも思ったが、ちょっと気になる部分があった。良型らしき魚を高切れでバラした瀬から落ち込むポイントのことだ。幸いブドウ虫が10粒ほど残っていた。
「あそこで、このエサを使い切ったら今日の釣りを終えよう。」と思い、そのポイントに戻って攻め直すことにした。
まずは瀬の上部の石裏にある流れの影を狙ってみる。先程は残り少ないミミズのせいであまり時間が掛けられなかったが、じっくり攻め直してみると自分自身で竿抜けをつくっているようだ。そんな数カ所の小さなスポットで小型ながらヤマメを数匹ゲットすることができた。
残るブドウ虫は4粒。少し小さいので、2粒刺して小さな瀬脇に投入した。コレに反応があって、良型が掛かるが、一気に瀬を下られてハリ上から仕掛が飛んでしまった。
唖然とする中、しばらく立ちすくんでいたが、残ったエサを2つハリに刺すと、エサを使い切ることになる。だから、このエサがハリから落ちたら辞めようと思いつつ、ハリを結び直して、今度は1時間ほど前にミミズエサで高切れをさせてバラしたのと全く同じスポット=この区間では本命だと思われる部分そのものに投入を再開する。
一投目から数頭目にかけて何も起こらず、エサが着いたままの状態で手元に返ってくるが、諦めずに仕掛を打ち返す。
だが、この区間では渓魚をバラしてばかりだし、昼の日中、それもド・ピーカンの中、「まさか、もうイイ魚は残っていないだろう」と、高を括っていたし、ほぼ諦めていた。しかし、そんな時に限ってトンでもないことが起こるものだ。
バラしてから何分経ったであろうか、流れの中に仕掛が馴染み、動きが落ち着いたかに見えた目印が視界から一瞬にして消え、それと同時に「ズドンッ!」という衝撃がボクの持つ竿を襲った。
何とか足場を固めてその場で踏ん張ってみる。すると、根本から悲鳴を上げつつ曲がっている竿の反発力に負けたのか、相手は表層まで浮かび上がり、背中で水面を切るかのように飛び出して一旦は上流方向へと泳ぎ始めた。
「獲れるかも?」と思ったその瞬間、今までに見たこともない魚影が目に飛び込んできた。それは今まで見た秋色の♂渓魚のどれよりも茶色く、鼻は遡上する鮭のように曲がっていた。しかも目測で軽く40cmは超えている。
はっきり言ってその姿を見てビビってしまった。仕掛の太さは0.3号だから、その場で止まってタメ切れる相手でないことは、この時点で理解できた。しかも、一度切られて1mほど短くなった仕掛である。だから無理は全くきかない。
辺りのロケーションは魚の居る位置のすぐ上流に1段上がって幅の広い瀬がある。逆の下流側は一旦流れが集まった後に岩の間から吹き出す早い瀬を創り出している。すなわちワザワザ泳ぎにくい上流に向かってくれることはないし、「下流に走られれば地獄」が待っており、安全圏は今魚が定位している前後の3mほどの間にしかない。
「こうなりゃ、魚に自分から近付くしかない。」とばかりに、竿を上流に倒したままで接近してゆくが、その瞬間に、こちらの作戦に気付いたかの如く魚は反転して猛ダッシュを開始し、岩の間を抜けて下流側の瀬に入り込んでゆく。こうなると滑る底石の上をボクが下流に向かって走るしかないのだが、動こうにも魚の動きにはとうていついて行けず、竿の確度を保てなかった。
「万事休す。」次の瞬間、竿先が跳ね上がった。竿からは、もう生命感が伝わってこない。それと共にボクの生命感も抜けたかのように「ふぬけ」となった。「茫然自失」とはこのことである。
結局、その後は後悔の中、トボトボと重い足取りで退渓するのみであった。
■禁漁期が迫る中…■
あの渓魚は見た目では大型の♂ヤマメに見えたが、一瞬だったので確証はない。もしかすると出足のスピードが遅かったので大イワナだったのかも?…。それを確かめに「再挑戦!」といきたいところだが、悪いことに禁漁までの残り少ない時間に、台風15号が北上していた。その影響を考慮すれば、チャンスは極僅かしかないようだ。しかしそれよりも、あの渓魚が待っててくれることが先決なのだが…。
最終局面を迎えた’11シーズンの渓流釣り。ボク自身は一度木曽川本流に向かったものの、大増水のために18cm級が2匹という貧果に終わることを経験し、残り時間から考えると、ほとんど後がない状態になっていた。
しかも、頼みの岐阜県北部では既に10日以降に禁漁を迎えていた。残るところボクの実績からいって「久婦須川」しか思い浮かばず、釣行チャンスをうかがっていたのだが、日頃から頼りにしている「国土交通省 川の防災情報」内の、久婦須川の水位計が、釣行前の1ヶ月以上の間で0.89mで固定されていた。
何だか様子が変なので、H.P.上に載っている管理者である「富山土木センター」に問い合わせてみた。
すると、係の方がチェックに向かうとのこと。そして、調査した結果をワザワザ電話で報告して下さることになった。そして2日後、「故障していたので直した。」との連絡をいただいた。
それから釣行日までの間は、動き始めた水位計とのにらめっこが始まったのだが、釣行予定日までに何とか増水してくれないかとの願いは虚しくも届かずに時間切れし、更にはぶり返す残暑の中という、いわゆる「望み薄」の状況下での出発となった。しかし、この「望み薄」という思い込みが後々悲劇?をもたらすのであった…。
●まだ日中の気温は高かったが、付近の里では実りの秋を迎えつつある●
■入渓点■
入渓点についてはもうアレコレ迷っているヒマはなかった。「いつもメインにしている場所から…。」と考えていたが、今回はパターンを変えて、とりあえず、大場所である堰堤付近を一通り攻略してから、一度退渓して下流に移動、その後は再び釣り上がるパターンで攻めることにした。
まずは堰堤付近から…。
●朝靄に煙る堰堤付近●
やはり、水位が低い。当日の天気予報では、昼過ぎから曇り始め、夕刻から一時雨が降る予報だったので、晴天の悪影響は受け難いものと考えていた。しかし、霞が消えた後はド・ピーカンの気配が漂っていた。
「時合いは谷に日が差し込むまでか…。」との予想の下、徐々に釣り上がってゆく。
しかし、晴天続きで連日のように責め立てられているのか、有望そうなポイントでは小型しか出てこない。
●好ポイントなのだが…●
●出るのは17cm級●
そして、何も得ないまま堰堤直下に差し掛かる。
●水勢が無く、堰堤直下の流れは緩い●
「先に押さえる」という意味もあって最初に入ってみた堰堤下は、狙いに反して結果は惨敗であった。そして得るモノはほとんど無いままに一度目の退渓を決意した。
●トホホな15cm級●
■いつもの区間へ■
少し下って、いつもの区間から入渓し直す。しかし、盛りを過ぎたとはいえ、夏の一部であることは変わらず、入渓点へと続く踏み跡は生い茂る草木で覆い隠されていた。したがって完全藪こぎ状態で入らねばならず、「暑さ」と「草いきれ」でギブアップしそうになりながらも、何とか河原に降り立つことが出来たが、そこには夏同様の日差しが渓に向かって容赦なく差し込んでいた。
竿を振り始めるが、予測通りの食い渋りに遭う。ここぞという箇所で何度もシツコク粘るといくらかアタってくるが、全てが小型からのものだった。
●15cm級…●
■エサの傾向■
当日は4種類のエサを使い分けていた。いわゆる市販エサの「ミミズ(キヂ)」、「ブドウ虫」と、川虫の「ヒラタ」と「クロカワムシ」だったが、全ての場面において「この日基準の」良型がアタるのは、「秋の大型」を見込んで持ち込んでいた太いタイプのミミズ(キヂ)だった。ただし、エサの太さとハリ掛かりを考慮して、ミミズ通しを使ってキッチリと装餌することを心掛けていた。
次いで、成績が良かったのがブドウ虫だったが、ヒラタに関しては、アタリの数が段違いに増えるものの、ほとんどが小型と、ウグイなどの外道だった。ヒラタはワザワザ遠回りまでして岐阜県の郡上で仕入れてきただけに、この結果に無念さが残る。
●ヒラタ●
●ミミズ(キヂ)●
●ブドウ虫●
■この日の最大魚■
瀬からの流れが収束するポイントで、それらしき良型魚のアタリがあったものの、アワせた瞬間に、アッという間に仕掛が高切れして逃してしまった。
何となく、気配が残っているような気がしたので、そのポイントで粘ろうかと思ったが、ここで大失敗に気付く。この日メインで使っていたミミズの予備パックを車内のクーラーに置き忘れていたのだ。
えさ箱を覗いてみると、ミミズの数は残り7本。残りポイントの数から逆算すると、ギリギリの数だった。そこで、1箇所であまり粘らず、ここぞという要所のみでミミズを使ってアタリを拾っていく「一撃必殺」の作戦をとることにした。
そして、次なるポイントは日陰になった淵に滝が流れ込むというロケーションだった。
「絶対に居るはずだ。」との予想の下、色々と手を変えて流してみたが、アタリが出ない。ここで、「流れてくるエサ」に反応しないのなら、「ほとんど動かないエサだったらどうだろう?」という疑問が湧いてきた。「だったら…」とばかりに仕掛を回収する。そして0.5号を二つハリから60cmほど離して打った超ヘビーな仕掛に変えて流れの底をズルズルとブレーキを掛けながら流してみることにした。
●この下には絶対に居るはずだ…。●
幸い底質は砂混じりだったので、根掛かりは少なそうだった。何投目かのズルズルで「フッ」と竿先にかかっていた重みが軽くなり、抜けたような感触になった。「アタリかな?」と思った瞬間に反射的に手首が返る。
「ズンッ!」と竿に乗った感触はこの日、これまでで一番のものだが、超大型ではないことも同時に理解ができた。
半ばこのクラスを諦めていただけに、じっくりと引き味を充分に楽しむ。そして無事玉網の中に誘導できたのは、良型と言っても良いサイズのヤマメだった。
●♀ヤマメの28cm●
■フライ・インジケーター■
次なる区間は左岸に樹木が茂るポイント群だ。この区間は本来手前の底石の周囲もポイントなのだが、この日は全くの無反応。どうやら渓魚達は日差しを恐れて樹木の覆い被さる部分のエグレに入り込んで、出てこない様子であった。
●枝の下や、岸のエグレの影に渓魚は居る●
事前にそのことは予測済みだったので、今回はその対策にある小物を用意していた。その名を「フライ・インジケーター」という。
コレはフライで釣る際に、どうしてもアタリが見にくい場合に目印とする、言わばウキのようなものだ。様々なタイプがあるらしいが、ボクが選んだのは粘土のように自在に形が変わり、どんな位置にでも装着できるタイプだ。
●「フライ・インジケーター」のパッケージ●
●「フライ・インジケーター」を装着した様子●
大豆が三粒ほどの大きさで、ガン玉G4程度の浮力があったので、G4のオモリをハリ上40cmのところに打ち、あらかじめ、水深を予想してウキ下を決定する。その仕掛を対岸ギリギリに投入してみると、普通の脈釣り仕掛ならオモリの重みで手前に寄ってくるところだが、インジケーター仕掛だとキレイに対岸の流れの際をトレースしてくれる。と、思ったらすぐにアタリがあって、この日ではソコソコの渓魚が連続ゲットできた。
●22cmのヤマメ●
●23cmのイワナ●
●22cmのヤマメ●
渓流釣りの諸先輩方からは「邪道だ!」と叱られてしまいそうだが、「釣れないより釣れた方が楽しいのは間違いのないところなので、その点はご理解のほどを。
■諦めきれずに…■
インジケーターの釣りを試した後、少し釣り上がると、そう時間が掛からないうちに、朝一に入った堰堤が見渡せる位置まで到達した。それとほぼ同じタイミングで、ミミズの餌が尽きたので「このまま脱渓しようか?」とも思ったが、ちょっと気になる部分があった。良型らしき魚を高切れでバラした瀬から落ち込むポイントのことだ。幸いブドウ虫が10粒ほど残っていた。
「あそこで、このエサを使い切ったら今日の釣りを終えよう。」と思い、そのポイントに戻って攻め直すことにした。
まずは瀬の上部の石裏にある流れの影を狙ってみる。先程は残り少ないミミズのせいであまり時間が掛けられなかったが、じっくり攻め直してみると自分自身で竿抜けをつくっているようだ。そんな数カ所の小さなスポットで小型ながらヤマメを数匹ゲットすることができた。
残るブドウ虫は4粒。少し小さいので、2粒刺して小さな瀬脇に投入した。コレに反応があって、良型が掛かるが、一気に瀬を下られてハリ上から仕掛が飛んでしまった。
唖然とする中、しばらく立ちすくんでいたが、残ったエサを2つハリに刺すと、エサを使い切ることになる。だから、このエサがハリから落ちたら辞めようと思いつつ、ハリを結び直して、今度は1時間ほど前にミミズエサで高切れをさせてバラしたのと全く同じスポット=この区間では本命だと思われる部分そのものに投入を再開する。
一投目から数頭目にかけて何も起こらず、エサが着いたままの状態で手元に返ってくるが、諦めずに仕掛を打ち返す。
だが、この区間では渓魚をバラしてばかりだし、昼の日中、それもド・ピーカンの中、「まさか、もうイイ魚は残っていないだろう」と、高を括っていたし、ほぼ諦めていた。しかし、そんな時に限ってトンでもないことが起こるものだ。
バラしてから何分経ったであろうか、流れの中に仕掛が馴染み、動きが落ち着いたかに見えた目印が視界から一瞬にして消え、それと同時に「ズドンッ!」という衝撃がボクの持つ竿を襲った。
何とか足場を固めてその場で踏ん張ってみる。すると、根本から悲鳴を上げつつ曲がっている竿の反発力に負けたのか、相手は表層まで浮かび上がり、背中で水面を切るかのように飛び出して一旦は上流方向へと泳ぎ始めた。
「獲れるかも?」と思ったその瞬間、今までに見たこともない魚影が目に飛び込んできた。それは今まで見た秋色の♂渓魚のどれよりも茶色く、鼻は遡上する鮭のように曲がっていた。しかも目測で軽く40cmは超えている。
はっきり言ってその姿を見てビビってしまった。仕掛の太さは0.3号だから、その場で止まってタメ切れる相手でないことは、この時点で理解できた。しかも、一度切られて1mほど短くなった仕掛である。だから無理は全くきかない。
辺りのロケーションは魚の居る位置のすぐ上流に1段上がって幅の広い瀬がある。逆の下流側は一旦流れが集まった後に岩の間から吹き出す早い瀬を創り出している。すなわちワザワザ泳ぎにくい上流に向かってくれることはないし、「下流に走られれば地獄」が待っており、安全圏は今魚が定位している前後の3mほどの間にしかない。
「こうなりゃ、魚に自分から近付くしかない。」とばかりに、竿を上流に倒したままで接近してゆくが、その瞬間に、こちらの作戦に気付いたかの如く魚は反転して猛ダッシュを開始し、岩の間を抜けて下流側の瀬に入り込んでゆく。こうなると滑る底石の上をボクが下流に向かって走るしかないのだが、動こうにも魚の動きにはとうていついて行けず、竿の確度を保てなかった。
「万事休す。」次の瞬間、竿先が跳ね上がった。竿からは、もう生命感が伝わってこない。それと共にボクの生命感も抜けたかのように「ふぬけ」となった。「茫然自失」とはこのことである。
結局、その後は後悔の中、トボトボと重い足取りで退渓するのみであった。
■禁漁期が迫る中…■
あの渓魚は見た目では大型の♂ヤマメに見えたが、一瞬だったので確証はない。もしかすると出足のスピードが遅かったので大イワナだったのかも?…。それを確かめに「再挑戦!」といきたいところだが、悪いことに禁漁までの残り少ない時間に、台風15号が北上していた。その影響を考慮すれば、チャンスは極僅かしかないようだ。しかしそれよりも、あの渓魚が待っててくれることが先決なのだが…。
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