■ 復刊されたエッセイ集『文学と私 戦後と私』江藤淳/新潮文庫をようやく読了。硬軟何篇ものエッセイが収録されている。
『成熟と喪失』講談社文庫が書棚にある。1981年に読んだ。その後江藤さんの著作を読んだ記憶がないから随分ブランクがあった。
このエッセイ集に書かれていることだが、江藤さんは幼少のころ母親を病気で亡くしている。自身病弱で不登校の時期もあったようだ。
印象に残ったのは「迎え火」という一篇のこんなくだり。**地下鉄工事の板張りで目茶々々になってしまった昭和通りに出てふらふらと歩くうちに、気がついてみると私は涙をこぼしていた。何もかも荒れて行く。日本も、東京も、自分も。**
江藤さんは寂寥感、孤独感を常に感じて過ごしたのかもしれない・・・、30歳の頃に書かれたこの文章を読んでそう思った。
他にも山川方夫という友人について**彼は、表面的にはきわめて社交的な男だったが、その実いつもいまにも爆発しそうなさまざまな苦しみをかかえて、懸命に生きていた。その孤独な、孤立無援な耐えかたが私は好きだった。(中略)何か暗い重いものを黙って耐えているという意識を共有してはいたからである。** と書いている。
現在江藤さんの作品がどのくらい文庫に収められているのかは知らないが、今年は少しまとめて読んでみようかなとも思う。