透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

「パンの耳の丸かじり」

2008-02-13 | A 読書日記



 東海林さだおさんは才能のある人だと思う。昨年『もっとコロッケな日本語を』を読んだ時もそう思ったが、この本を一昨日読んでやはりそう思った。

食べ物をテーマに書いたエッセイをまとめた1冊。

「苺と大福」にはこんなくだりがある。**そしてなんだかなまめかしい。全体がポッテリしていて、グンニャリしていて、カラダがゆるんでいて、手に持つとそのゆるんだカラダをあずけられたような、もてあましたカラダをゆだねられたような、ぐったりとしなだれかかられたような、いずれにしても(わるい気はしないな)というまことに結構な錯覚にかられる。**大福を若い女性に喩えての描写だが大福の特徴を的確に捉えている、上手い!

1冊丸ごとこんな楽しいエッセイが詰まっている。休日にはこんなエッセイをのんびり読むのがいい。そう大福でも食べながら・・・。


スカイハウス

2008-02-13 | A あれこれ



■ 今回は「スカイハウス」、建築家菊竹清訓さんの自邸(1958年竣工)。急斜面に建っていることがカードでも右の写真でも分かる(1979年撮影のサービスサイズの写真を拙者が接写なんちゃって、オヤジギャグ)。私の写真には外周に巡らせた縁側の板戸が閉められた状態が写っている。

結論を先に書いてしまうスカイハウス」は日本の戦後住宅史において間違いなくベスト3に入る。

急な斜面に建つこの住宅、4間4方の正方形の上に方形の屋根を載せた大空間を4枚の壁柱によって空中に浮かべている。「スカイハウス」というネーミングは少し大袈裟かなとも思うが、竣工当時の一般住宅の大半が木造の在来工法だったということと屋内からの眺めを想像すれば頷ける。

意匠と構造との理想的な融合、このスカイハウスには「ウソ」のない美がある。土木的な造形美と言ってもいい。他に同様の実例を挙げるとすれば丹下さんの代々木体育館くらいしか直ちには浮かばない。

前回取り上げた手塚さんの中庭のある回廊住宅(正式な作品名を知らないので適当に書いておく)もこのスカイハウスと同様に室内には柱が1本も無かった。共に無柱空間というわけだがそれを可能にしている構造が手塚さんの作品では完全に裏方であって、意匠に反映されていない。ふたつの作品は構造の扱いが全く異なっている。先に書いた意匠と構造との融合というのはこの意味においてである。

竣工当時の平面図を見ると実にシンプルな空間だ。その後増改築が繰り返されているが、必要な部屋を全くためらうことなく何部屋も造ったように思われる。それは竣工時、家族にストイックな生活を強いたことの反動なのかもしれない。

所在地は文京区と記憶している。今「スカイハウス」はどんな姿を見せているのだろう・・・。機会があれば30年ぶりの対面をしてみたい。

さて、ここで話を逸らす。

先週かな、BS日本の歌というテレビ番組で黛ジュンが「天使の誘惑」を歌った。昔々私がまだ若かりしころの歌を、「今年還暦です」と自己紹介してから歌い始めた・・・。昔と同じように衣裳はミニスカートだった。彼女には他にもヒット曲が何曲かあるが、私は ♪恋の意味さえ知らずにいたの~、この1曲だけで彼女を優れた歌手として認める。

黛ジュンが「天使の誘惑」1曲で十分なら、菊竹さんはこの「スカイハウス」1作で十分だろうと思う。この作品だけで菊竹さんを優れた建築家だと認めることにためらいはない。

写真を撮った当時は「スカイハウス」のデザインにメタボリズム(代謝建築)という思想的なバックボーンがあることなど知らずにいたと思う。

♪ごめんなさいね あの日のことは 「代謝」の意味さえ知らずにいたの~