透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

「海」小川洋子

2009-03-11 | A 読書日記
 以前、小川洋子さんの作品について「彼女の作品は登場人物が日本人なのかそうでないのか国籍不明、舞台も日本なのか外国なのか判然としない。そう、翻訳小説のような雰囲気が漂っている」と書いた(07年7月16日)。



今日読み終えた小川さんの『海』新潮文庫には7編の短編の他に著者インタビューが併録されているが、その中でインタビュアーは**日本と外国が混在しているような描写がとても豊かなんですが、ときどき小川さんの作品を読んでいると、これは小川洋子さんという日本の作家が書いた小説だ、と分かりつつ、どこか他の世界で書かれたものの翻訳を読んでいるんではないか、という錯覚を感じることがあります。**と私と同様の感想を述べている。

それに小川さんは**そう言っていただけるとうれしいですね。(後略)**と答えている。

さて、7編の短編のうち、好きなのは表題作の「海」と「ガイド」、「バタフライ和文タイプ事務所」。

「バタフライ和文タイプ事務所」はいかにも小川さんらしいタイトル。官能小説を、というリクエストに応えた作品だそうだ。小川さんは清楚な大学院生(数学者の藤原正彦氏)、といった雰囲気の人。官能が最も苦手な分野、というのも頷けるが、そこは小川さん、なかなかのアイデアで官能を描いている。

さて、次。川上弘美さんの『なんとなくな日々』を新潮文庫で再読。