透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

「終戦のエンペラー」

2013-08-18 | A 読書日記

「こんにちは~」
「Kちゃん 久しぶり。毎日暑いね。夏バテしてない?」

駅前から徒歩で某居酒屋に向かう。人気店で夕方早い時間に満席になってしまう。

「私は元気ですよ、U1さんこそ大丈夫ですか? 熱中症にかかるお年寄りが多いですけど」
「こら、こら 年寄り扱いするんじゃないって(笑)。でもまあ確かにいつまでも若くないからね。先日はお祝メール、ありがと」
「あ、いえ、おめでとうございます。でもU1さん 若く見えますよ」
「いまさらそんなこと言われてもね。でも僕としてはあっちもこっちも生涯現役でいたいけどね」

「キャハ、何ですか、若い娘に向かってあっちもこっちも生涯現役だなんてHっぽいことを」
「若い娘、ね~」
「え?今何か言いましたか?」

歩くこと7、8分。

「ここがおすすめの店」

「初めてです」

「良かった、まだ空いている。まずはビールで乾杯しよう。ジョッキでいいかな?」
「あ、はい」
「ここは焼鳥が美味いんだよ。焼鳥を適当に何本か頼もう。馬刺しも美味いけど、Kちゃん大丈夫?」
「好きですよ」

紺のTシャツ姿の店員さんに注文。

 カンパ~イ!

「Kちゃん、夏休みにどこか出かけた?」
「はい、彼氏とグアムに行ってきました、なんて言いたいところですけどね。学生時代のサークルの仲間と妙高に行ってきました。 あの、こういう質問をするって、同じことを訊いて欲しいっていうことなんですってね。U1さんはどこかに行きましたか?」
「訊いて欲しいと思っていることをまず相手に訊く?そうかな」
「ええ、そうらしいですよ」

「ここ何年も夏休みに出かけたことは無いんだよね。夏休みの宿題やってた」
「え? 宿題、ですか・・・?」
「そう、庭の草むしりと、塩尻の火の見櫓観察。それから映画」
「宿題って・・・。相変わらずヤグラーオジサンしてますね、ヤグラー爺さんか。映画って「風立ちぬ」ですか?」
「何だかいつもと違って今日はキツイね、まだそんなに飲んでないのに。宮崎駿じゃないよ」
「じゃあ「少年H」?」

「僕は中年H。「少年H」は前に原作を読んでいるから映画はいいよ。「終戦のエンペラー」を観た」
「「終戦のエンペラー」ってあの缶コーヒーのCMに出ている、え~と、何ていいましたっけ。何とかジョーンズがマッカーサー役で出ている映画ですよね」
「そう、トミー・リー・ジョーンズ」
「どうでしたか?」
「マッカーサー、連合国軍総司令部マッカーサー元帥か、の部下のフェラーズという人物が昭和天皇の戦争責任について調査するという話でね、10日間で調査して報告書にまとめて提出せよと命令されてさ。そこに戦争前に日本からアメリカに留学していたアヤっていう女性との恋愛話がからんできて・・・」

「ということは単に戦争終結時の謎解きミステリーではないんですね。天皇とマッカーサーのツーショット写真が撮られた経緯がはっきりするというような・・・。そんな映画だって聞いてますけど」
「戦争で引き裂かれた男女の悲恋ものがたりとしても観ることができる、そういう映画」
「そうなんですね。やはりラブストリーの要素は映画には欠かせないですよね。「風立ちぬ」もそうでしょう?確か中村雅俊も出てますよね。しばらく前偶然テレビで見ましたけど。撮影の時のエピソードを語ってました。出演料を1週間単位だったかな、現金でもらっていたとか、かなりの額」

「あ、そう、知らなかった。彼は近衛文麿の役だった。西田敏行もなかなかいい演技してたな。役づくりでかなりやせてね、浜ちゃんとはまるで別人。東條英機役の火野正平や夏八木勲、伊武雅刀・・・。日本人俳優もなかなか存在感のある落ち着いた演技をしてたよ。これはお盆に観る映画だと思う。玉音放送を巡る陸軍兵士の反乱というか、クーデターか、これも出てくる。これは「日本のいちばん長い日」っていう映画にもなったけどね。加山雄三がまだ若くて、アナウンサー役で出てたっけ」

「私知りません、その映画」
「たぶんKちゃんが生まれる前の映画だと思う」
「私若いですから。私も映画観ようかな。最近観てないんですよ」

「大空襲を受けて焼け野原と化した東京の街って、東日本大震災の被災地から映像的なイメージを得たらしいから、どこか似てたような気がする」
「すごいオープンセットですって?」
「そう。どこだっけ、ニュージーランドだっけ」


「西田敏行が戦争が始まる直前に日本に来た、帰国してしまった彼女に会いにね、それだけが目的じゃないと思うけど、フェラ―ズに日本人とは何か、欧米人が知りたがる日本人の根底にある精神性、それも神道に関わる精神性、さらに天皇陛下への特別な忠誠心とかをレクチャーする場面があるけど、そのような面の解説」
「ええ」

「なんだろうこの映画のメッセージは・・・。まあ、戦災で焦土と化した国を立て直した日本よ、日本人よ、大震災にもめげず、ガンバレってことかなあ」

「まじめな話をしながら飲むと酔いませんね、おかわりしましょうか?」