透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

「江戸の都市力」を読む

2017-02-01 | A 読書日記



■ 『江戸の都市力 ― 地形と経済で読みとく』鈴木浩三/ちくま新書を読み始めた。

書店で新書のコーナーで目に入ったこの本、全く迷うことなく直ちに買い求めた。あれこれ迷って、結局何も買わないこともあれば、今回のようなこともある。

カバー折り返しに次のような紹介文がある。**繁栄を誇った未曾有の大都市「江戸」は、どのように造られ、どのようにして人々の暮らしを支えていたのか。(中略)本書は、江戸の歴史を地理、経済、土木、社会問題など多視点から見ていくことにより、その本質、発展の秘密に迫る一冊である。**

また、「はじめに」には**この本のテーマは、徳川家康が入府してからの「江戸づくり」である。ハードとソフトのインフラが有機的に結びつきながら整っていく様子、まち造りがもたらした経済の急拡大、出来上がった都市を管理する仕組みなど「江戸の都市力」と、その源について話を進めていく。**と本書のテーマが明確に示されている。このような本は大概論旨が明確で理路もはっきりしているから、読みやすく分かりやすい。

第4章は「幕府の体制固め -水運網と支配システム」となっていて、その内に「3 明暦の大火によって完成した百万都市の骨格」というヤグラーにとって興味深い論述もある。

今年は火の見櫓に関係する記述のある本も読まなくてはならない。





ブックレビュー 1701

2017-02-01 | A ブックレビュー

■ 時の流れは速い。今日から2月。1月に読んだ本は7冊。

『吾輩は猫である』夏目漱石/角川文庫

漱石が39歳の時(1906年)に発表したデビュー作。『猫』は今回で4回目かな? 苦沙弥先生のところに棲みついた猫による人間観察、社会批評。

名前のない猫の飼い主・苦紗弥先生のモデルは漱石自身。そして猫は苦紗弥先生、すなわち漱石を客体化して観察するもうひとりの漱石。ふたつの視点を設定したところが漱石のスゴイところだ。

ストーリーらしいストーリーがないから、おもしろいと思わない人も多いかもしれない。


『昨日のまこと、今日のうそ』宇江佐真理/文春文庫

久しぶりに読んだ髪結い伊三次捕物余話シリーズ。巻を重ね、時は流れ、伊三次とお文さんは今や脇役で主役は息子たちの世代に。**互いに連れ合いに恵まれた子供達の姿を見るのも伊三次の楽しみだった。さて、子供達はどんな女房や亭主を持つのだろうか。**(「花紺青」180頁)と思ったりする。

伊三次とお文さんが一緒になるのか、ならなのか、と気をもみながら読んだのがいまや懐かしい。

シリーズ全16作品の内、文庫化されていないのは2作品のみとなった。今年中に文庫化されるかもしれない。早く読みたい気もするが、このシリーズを読み終えてしまうのが寂しいような気もする。


 『空が青いから白をえらんだのです 奈良少年刑務所詩集』寮美千子・編/新潮文庫

刑務所で行われた社会性涵養プログラムから生まれた詩57編。詩の力、ことばの力ってすごい、と再認識した。

あたりまえ

食べられる
眠れる
歩ける
朝を迎えられる
母がいる
みんな あたりまえのこと

あたりまえのことは
あたりまえじゃないんだと

あたりまえのなかのしあわせに気づかずに
薬を使って偽物のしあわせを求めたぼくは
いまやっと 気がついた

あたりまえの しあわせ
あたりまえが しあわせ

(80頁)

そうだよね、日々あたりまえの暮らしを続けられることが幸せなんだよね。


 『科学報道の真相』瀬川至朗/ちくま新書

メディアは権力や権威に阿ることなく常に冷静な目をもって対峙できるかどうか。


『空海』高村 薫/新潮社

804年の夏、遣唐使船4隻が備前国田浦を出港。漂流の末、唐に漂着したのは空海と最澄が乗った2隻だけだった。
空海が唐に着いたのは日本を出発してから半年後だった。

唐の青龍寺(しょうりゅうじ)で恵果(けいか)は両部の大法を伝承すべき弟子として千人以上の門下の中から空海に白羽の矢を立てた。この事実を高村 薫は運命、もしくは奇跡と呼ぶ以外にない。と書いてる。

運命の邂逅からわずか半年後、恵果は入滅。ということは入唐が半年遅れていたら恵果に会うことはできなかった。綱渡りの密教相承だった。

そして帰国後、空海の良き理解者となる嵯峨天皇が即位する。 本当に空海は強運の持ち主、そして天才だ。

京都に行く機会がったら、東寺にまた行きたい(過去ログ)。


『文庫解説ワンダーランド』斎藤美奈子/岩波新書

文庫本の巻末の解説は**読者を興奮と混乱と発見にいざなうワンダーランドだった!痛快極まりない「解説の解説」が幾多の文庫に新たな命を吹き込む。**(カバー折り返しの紹介文)

斎藤さんのするどい分析に、なるほど! 

『江戸の災害史 徳川日本の経験に学ぶ』倉地克直/中公新書

既に書いたことを繰り返す。中公新書は中身が濃い。この本も例外ではなかった。江戸時代には思っていた以上に地震や火事、飢饉が頻発していた。

この本に「宝暦の飢饉」が紹介されている。

宝暦5年(1755年)、冷害で大変な被害が出た東北。弘前藩では過去の経験から領内に米を備蓄していた。そのため餓死者をほとんど出さなかった。それに対し、盛岡藩や八戸藩では凶作の兆しが見えているにもかかわらず、江戸への廻米を強行したために、盛岡藩領では5万人!、八戸藩では3千人もの餓死者が出たという。

領主の判断で被害がこんなにも違うのか、と驚く。そして、八甲田雪中行軍遭難事件を思い出した。


 今年は月に1冊くらいのペースで宇江佐さんの作品を読みたい。書店で次に読む作品を探そう。