透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

「ひとり空間の都市論」

2018-01-18 | A 読書日記



『ひとり空間の都市論』南後由和/ちくま新書を読んだ。

本書ではひとりを一定時間、集団・組織から離れて「ひとり」であることと定義している。このような「状態としてのひとり」にはだれでもなり得る。

著者は**都市では単身者であるか否かにかかわらず、「ひとり」が行き交い、それら「ひとり」に対応した、さまざまな空間が集積しているのである。**(029)と指摘して、住まい、宿泊施設、商業施設、宿泊施設、モバイル・メディア(具体的にはワンルームマンション、ひとりカラオケ店、ひとり焼肉店、インターネットカフェ、カプセルホテルなどの建築空間、更にスマートフォンなどのモバイル・メディアという情報空間)の事例をもとに都市の「ひとり空間」の諸相を論考している。

私が興味深いと思ったのは、例えばひとりカラオケしながらLINEをしているというような「建築的なひとり空間」で「情報のひとり空間、即ちモバイル・メディアでは常時他者と接続している」という状況。 

本書では**方丈庵という「ひとり住まい」には、自分の姿を隠したまま周囲をみること、いわば「眺望-隠れ家」のバランスがもたらす充足感を見出すことができる。**(080頁)という鴨長明の隠棲の解釈についても触れている。

今では鴨長明が望んだこのような状況が上記のように、日常的に簡単につくり出せる。これは果たして幸福な事態だと言えるのだろうか・・・。

**社会学者は人に関心があり、空間を正面から論じることをしてこなかった。逆に建築学者は空間に関心があり、人については十分に論じてこなかった。「ひとり空間」という言葉には、人と空間を分けるのではなく、両者の関係性を考えたいという狙いが込められている。**(246頁)

社会学と建築学、両方の領域に亘る研究であるところに強味というか意義がある。



本書のもとにもなったという『建築雑誌』2015年1月号/日本建築学会 の特集「日本のおひとりさま空間」も併読したい。