透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

火の見櫓のある風景

2023-06-21 | A 火の見櫓のある風景を描く


火の見櫓のある風景 長野県朝日村にて 描画日 2023.06.20

 緑色と一言で括ってしまうけれど、様々な緑で構成されている風景。それら多くの緑を自分の色彩感覚で捉えて、透明水彩絵具で色を付ける。遠くの山は青みを帯びる、と頭では理解しているけれど、それが実際にどんな色なのか、現地でじっくり観る。

空は水だけ付けた太い筆で画面を濡らし、次にたっぷり水を付けた筆に絵具を付けて着色する。滑らかな表情の空、適宜ティッシュでふき取って雲を描く。

遠景の山は太い筆に水をたっぷりつけて、絵の具を薄めにフラットに塗る。やや太めの筆に替え、用紙に筆の当て方も変えて、中景の山の稜線に表情を出す。近景の植物の葉はあまり水を付けない筆で色を置く。最近、Wet on wet、Wet on dry などの水彩画の描法に関する言葉を知った。今まで意識することなく描いていた方法が言語化できると、きちんと身に着くのだろう。

習作、この風景を短期間に3回描いた。難しい・・・。火の見櫓のてっぺんと遠景の山との対比。この部分はイメージ通りで、気に入っている。


 


「絵の教室」安野光雅

2023-06-21 | A 読書日記

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『絵の教室』安野光雅(中公新書2005年12月初版、2021年11月15版)

 **写真のように描いたり、あるいは写真を見て描いたりするとダメだと思うのです。その人の個性がどこかへ行ってしまって、写真のように描かされてしまい、上手だけども何も伝わってこない、ということになりがちです。**(80頁)

先日書店でこの新書、『絵の教室』を目にした。カラー版で、パラパラとページを繰って、クールペやマネ、ゴッホ、スーラ、ターナーといった有名な画家の作品と共に安野さんの風景画が何点か掲載されていることが分かった。いいな、安野さんの風景画。明るい黄緑、と深いモスグリーンが印象的。安野さんが描く風景は優しく柔らかい。

ぼくはこの本を迷うことなく買い求めた。

あとがきによると、この本は2004年に放送されたNHKの「人間講座」が基本になっているとのこと。安藤忠雄「建築に夢を見た」、半藤一利「清張さんと司馬さん 昭和の巨人を語る」、岡部憲明「可能性の建築」など「人間講座」のテキストが手元にあるが、安野さんのテキストは無い。テレビで見たという記憶もない。この本を読んで、テレビで安野さんの講座を見たかったなぁ、と思った。

このブログはいつも引用ばかりだが、「そうですよね、安野さん」とぼくが思って付箋を付けた箇所から引用する。

**絵を上手に描くというのは、「写実的に写真のように描くことなんだ。それが絵の終点だ」と考えがちです。(中略)写実的な絵というのは、目に見えているものを描いた結果のことですが、よく考えてみると目に見えないものを描いていることが少なくありません。むしろ見えていないものを描くことに絵の意味があるのではないか、と思います。**(ⅴ はじめに)

興味深いのは安野さんが、デューラーの「見取り枠」を使って絵を描いた様子の紹介。風景画を描くとき、縦横方眼状に細線を張った枠を前に置いて、山や畑、木々など風景を構成している要素の位置関係や大きさを正確に捉えるという試み。見取り枠を使って描いた絵と普段通り描いた絵が本に載っているけれど、同じ風景を描いているのにふたつの絵は全く違っている。普段通りに描いた絵を見ると、安野さんの絵だとすぐ分かる。安野さんは「見取り枠」を使った実験的な試みで、上掲した引用文で伝えたいことを示してみせた。

では、正確に描くという基本的な技術は不要かというとそうではないことも安野さんは示している。安野さんがスケッチした自転車は実に正確だ。

安野さんは対象をよく観て理解することだ大事、と説く。そう、このことは身を以て感じている。スケッチしていて、例えば建物などが手前の樹木などで隠されているところがどうなっているのか分からないと、その建物が描けないということを。そのような時は、近くまで行って確認している。

「絵の教室」というタイトルに相応しい内容で、火の見櫓のある風景をスケッチしているぼくにとって、大変勉強になる本だ。