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「非色」有吉佐和子

2022-10-05 | A 読書日記

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『非色』有吉佐和子(河出文庫2022年7刷)

 しばらく前に「青春ボックス」と名付けた、ぼくが20代の時に受け取った手紙やはがきを納めた箱のことを書いた。箱の中の手紙やはがきを一通り読み返したが、その中に『非色』を読んでいます、と書かれた手紙があった。文面からぼくがある女性に『非色』を贈ったことが分かった。

本のタイトルは覚えていたが、内容については人種差別がテーマだったということくらいしか覚えていなかった。それで再読してみようと書店で探した。20代のときに読んだのは角川文庫だったようだ(1967年刊行)。それが河出書房新社から復刊されていて、書店の文庫コーナーに並んでいたので買い求めた。約400ページの長編。1日100ページ、4日で読了。

カバー裏面にこの長編の概要が簡潔にまとめられている。**色に非ず―。終戦直後黒人兵と結婚し、幼い子を連れニューヨークに渡った笑子(えみこ)だが、待っていたのは貧民街ハアレムでの半地下生活だった。人種差別と偏見にあいながらも、「差別とは何か?」を問い続け、逞しく生き方を模索する。一九六四年、著者がニューヨーク留学後にアメリカの人種問題を内面から描いた渾身の傑作長編**

何の衒いもない有吉佐和子の文章は実に分かりやすく、そして読みやすかった。

アメリカ社会の人種差別問題(アメリカだけのことではないように思うし、過去のことでもないようにも思う)を、主人公の笑子や、同じ貨物船(そう、貨物船)で笑子と一緒にアメリカに渡った3人の日本人女性たちの日常生活を描くことで、読者に分かりやすく説いている。人種差別や偏見の問題を、一気に読ませる小説に仕立て上げたこの作家の力量(有吉佐和子が33歳の時に上梓された作品)の凄さを改めて感じた。

ストーリーには派手な展開はないけれど、笑子が**私も、ニグロだ!**(408頁)だという考え、自己認識にたどり着き、ニグロの夫と4人の子どもたちと強く生きて行く決心をするというラストには感動した。

笑子と同船した3人の女性の中に**着ているものも上品で、どこから見ても「いいとこのお嬢さん」という感じだった。**(112頁)という麗子がいた。有吉佐和子は読者が全く予想できないような麗子のアメリカでの生活を描いた。社会の厳しい現実を突きつける作家だったと、改めて思った。そして意思の強い作家だったということも。


 



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