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■ 来年(2024年)の大河ドラマは「光る君へ」。主人公は『源氏物語』の作者・紫式部。ということで、書店には『源氏物語』と紫式部に関する本が平積みされている。昨年の今ごろは徳川家康の関連本が平積みされていた。
11月30日、久しぶりの丸善で『やばい源氏物語』大塚ひかり(ポプラ新書2023年)を買い求めた。昨年『源氏物語』(角田光代現代語訳)を読んだが、54帖(54巻)にも及ぶこの長編小説が唐突に終わってしまった感があったので、カバーの**尻切れトンボと言われるラストの謎**がこの本で解き明かされているのなら読んでみたいと思った。
著者の大塚ひかりさんが『源氏物語』を初めて読んだのは中学生の時だというから驚く。ぼくもせめて20代で読んでおきたかった。記憶力が衰えてからでは、登場人物も複雑な人間関係も覚えられない。大塚さんは個人全訳の『源氏物語』全6巻も出している。
昨年(2022年)読んだ大塚さんの『カラダで感じる源氏物語』(ちくま文庫)の解説文に小谷野 敦(比較文学者)さんは**その解釈には専門家のなかにも一目置いている人たちがいる。**(292頁)と書き、さらに**『源氏物語』などおそらく全文を諳んじているはずだし(後略)**(292頁)とまで書いている。
『やばい源氏物語』というタイトルからしてくだけているが、文章もくだけている。例えば、最後のヒロイン・浮舟が恋の板挟みに悩み、宇治川に身を投げるも一命を取り留めた後、記憶を失っていることについて、大塚さんは**千年以上前に、こんなに詳細な記憶喪失の様が描けるってやばくないですか?**(103頁)と書き、**薫の発想もヘンタイで、(中略)生身の人間を使って、ドールハウスごっこをしようというわけです。**(169頁)とも書いている。また、**嫂はスケベな老女・源典侍のモデルにされて辞表提出?**などの小見出しも。章題もすべて〇〇がやばいとなっている。
しかし、古典エッセイストの論考はこのようなくだけた文章とは裏腹に実に深い。『古事記』『日本書紀』『更紗日記』『うつほ物語』『法華経』『宇治拾遺物語』などの古典をはじめ、多くの参考文献が示されている。
『源氏物語』を個人全訳し、中学生の時から『源氏物語』に親しんでいたという大塚さんは、この長大な小説を前掲したような古典文学と比較するなどして自在に論じている。
**(前略)『源氏物語』の女君たちの多くが、源氏と関わりながらも最終的には出家しているという設定であるのは、もしかしたら、仏さながら、美しく光るような源氏という男が、仏の代わりに女の浄土へ導いている、と見ることもできるのではないか。
紫式部は、男性本意の発想の当時の日本仏教に対して、大きな挑戦をしているのではないか。**(181頁)このような指摘に、なるほど!
『源氏物語』は深い。尻切れトンボと言われるラストの謎。未完か、完結かについて大塚さんはどう考えているのか、その答えが第16章ラストがやばい に示されている。その答えにも、なるほど、確かに。それをここには書かずにおきたい。
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今まで大河ドラマを見ることはなかったけれど、来年の「光る君へ」は見ようかな。『源氏物語』の執筆のこともあれこれ描かれるだろうから・・・。