透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

「やばい源氏物語」を読む

2023-12-03 | A 読書日記

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 来年(2024年)の大河ドラマは「光る君へ」。主人公は『源氏物語』の作者・紫式部。ということで、書店には『源氏物語』と紫式部に関する本が平積みされている。昨年の今ごろは徳川家康の関連本が平積みされていた。

11月30日、久しぶりの丸善で『やばい源氏物語』大塚ひかり(ポプラ新書2023年)を買い求めた。昨年『源氏物語』(角田光代現代語訳)を読んだが、54帖(54巻)にも及ぶこの長編小説が唐突に終わってしまった感があったので、カバーの**尻切れトンボと言われるラストの謎**がこの本で解き明かされているのなら読んでみたいと思った。

著者の大塚ひかりさんが『源氏物語』を初めて読んだのは中学生の時だというから驚く。ぼくもせめて20代で読んでおきたかった。記憶力が衰えてからでは、登場人物も複雑な人間関係も覚えられない。大塚さんは個人全訳の『源氏物語』全6巻も出している。

昨年(2022年)読んだ大塚さんの『カラダで感じる源氏物語』(ちくま文庫)の解説文に小谷野 敦(比較文学者)さんは**その解釈には専門家のなかにも一目置いている人たちがいる。**(292頁)と書き、さらに**『源氏物語』などおそらく全文を諳んじているはずだし(後略)**(292頁)とまで書いている。

『やばい源氏物語』というタイトルからしてくだけているが、文章もくだけている。例えば、最後のヒロイン・浮舟が恋の板挟みに悩み、宇治川に身を投げるも一命を取り留めた後、記憶を失っていることについて、大塚さんは**千年以上前に、こんなに詳細な記憶喪失の様が描けるってやばくないですか?**(103頁)と書き、**薫の発想もヘンタイで、(中略)生身の人間を使って、ドールハウスごっこをしようというわけです。**(169頁)とも書いている。また、**嫂はスケベな老女・源典侍のモデルにされて辞表提出?**などの小見出しも。章題もすべて〇〇がやばいとなっている。

しかし、古典エッセイストの論考はこのようなくだけた文章とは裏腹に実に深い。『古事記』『日本書紀』『更紗日記』『うつほ物語』『法華経』『宇治拾遺物語』などの古典をはじめ、多くの参考文献が示されている。

『源氏物語』を個人全訳し、中学生の時から『源氏物語』に親しんでいたという大塚さんは、この長大な小説を前掲したような古典文学と比較するなどして自在に論じている。

**(前略)『源氏物語』の女君たちの多くが、源氏と関わりながらも最終的には出家しているという設定であるのは、もしかしたら、仏さながら、美しく光るような源氏という男が、仏の代わりに女の浄土へ導いている、と見ることもできるのではないか。
 紫式部は、男性本意の発想の当時の日本仏教に対して、大きな挑戦をしているのではないか。**(181頁)このような指摘に、なるほど!

『源氏物語』は深い。尻切れトンボと言われるラストの謎。未完か、完結かについて大塚さんはどう考えているのか、その答えが第16章ラストがやばい に示されている。その答えにも、なるほど、確かに。それをここには書かずにおきたい。

*****

今まで大河ドラマを見ることはなかったけれど、来年の「光る君へ」は見ようかな。『源氏物語』の執筆のこともあれこれ描かれるだろうから・・・。


 


「現代建築の課題」伊東豊雄さんの講演

2023-12-02 | A あれこれ

 信毎メディアガーデンで一昨日(11月30日)の午後開催された建築家・伊東豊雄さんの講演会に参加した。

伊東さんの講演は諏訪で暮らした2歳から中学3年の中途で東京へ出るまでの様子の紹介から始まった。伊東さんが子どもの頃は冬になると諏訪湖が全面結氷して、下駄スケートをしたとのこと。諏訪湖に稀に出現したという水平虹の紹介も。諏訪湖は伊東さんの原風景だ。

続いて、諏訪湖のほとりに計画された「下諏訪町立諏訪湖博物館・赤彦記念館(過去ログ)」や、「ぎふメディアコスモス(写真①、過去ログ)」、東日本大震災後に計画された「みんなの家」などが取り上げられ、それらの計画について解説された。


ぎふメディアコスモス 撮影日:2016.12.03

講演の終盤に示された伊東さんの目指す建築、それは「人と人をつなぐ 人に心の安らぎを与える 人に生きる力を与える」というものだった。このような想いはやはり東日本大震災後に計画された「みんなの家」プロジェクトの経験に因ることろが大きいのだろうな、と思う。伊東さんはプライバシー最優先の建築に疑問を呈し、もう一つの家をつくることの意義について説いておられた。

伊東さんが掲げたこのような課題に応える建築は壁をつくらないことで実現するのではないかと、講演を聴いていて思った。

壁をつくる建築から壁をつくらない建築へ

近代建築の一義は壁によって、自然から切り離した空間をつくり、その中に壁を設けて(間仕切りとは内部空間を仕切る壁のこと)、機能に対応する空間をつくることにあると思う。建築の平面計画は壁の計画、と極論してもいいのではないか。

講演ではだいぶ時間を割いて、ぎふメディアコスモスが紹介された。この建築の主要な内部空間には壁がない。替わりにグローブと呼ばれる大きな傘のような装置が空間の領域をゆるやかに規定している。それでいて空間の全域が繋がっている。子どもから大人まで市民にもう一つの家として親しまれている様子がスクリーンに映し出された。伊東さんが望む好ましい光景。

ぎふメディアコスモスは現代建築の課題として伊東さんが自らに課したテーマに対し、現時点で示し得た回答ではないか、と思う。

1941年生まれの伊東さんは現在82歳。まだまだ「現代建築の課題」に取り組みたいという意欲を示され、講演を終えられた。すばらしい。

今後、伊東さんはどんな建築を創り出すのだろう・・・。楽しみにしていたい。

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講演会場の信毎メディアガーデン(伊東豊雄さん設計) 
撮影日時:2023.11.30 16:56PM

夕方5時近くに講演会が終わり、外に出るとすっかり暗くなっていた・・・。


 


そうだ松本民芸館、行こう。

2023-12-01 | A あれこれ

 原田マハさんの『リーチ先生』を読み終えて、「そうだ松本民芸館、行こう」と思い、昨日(11.30)松本民芸館に行ってきました。この民芸館は松本市里山辺、美ヶ原温泉の近くにあります。

受付で受け取ったリーフレットには松本民芸館について**松本民芸館は、柳 宗悦(むねよし)の唱導した民芸運動に共鳴した丸山太郎(明治42年~昭和60年)によって、昭和37年に創館されました。(中略)自らが工芸作家であり、蒐集家であった丸山の「たしかな眼」にかなった収蔵品は、陶磁器、染織物、箪笥など約六八〇〇点にも及びます。**と紹介されています(紹介文の一部)。

松本民芸館のHPはこちら 松本の観光スポットとしておすすめします。

 
△落葉した雑木林の奥の松本民芸館 L形プランの2階建て、蔵造りの建物

以下、移動動線に沿って写真を掲載します。


△玄関ポーチ


△松本民芸館の創館者・丸山太郎のことば「美しいものが美しい」


△1階展示室(1室)


△2階展示室(第5室)


△2階展示室(7室)


△1階展示室(9室)

日常の用に供されるものに宿る美。バーナード・リーチも魅せられた「用の美」。 


1階展示室(1室)に展示されている数葉の集合写真には『リーチ先生』の主要な登場人物であるバーナード・リーチ、柳 宗悦、濱田庄司、河井寛次郎が写っていました。1925年(昭和25年)に入山辺の霞山荘で開催された第4回日本民藝協会全国大会の時に屋外で撮影された集合写真もありました。1953年(昭和28年)に来松したリーチもこの宿に宿泊しています。


△展示品には江戸時代の狛犬も