「誰も知らない」かどうかは別として、本書で紹介されているのは、以下の十三人である。田中久重、武田斐三郎、佐竹義宣、銭屋五兵衛、調所広郷、西川如見、佐藤直方、浅見絅斎、三宅尚斎、河田小龍、牧庵鞭牛、白井亨、江馬細香。私個人は西川如見、牧庵鞭牛のことは本書で初めて知ったが、「誰も知らない」とはちょっと言い過ぎという気がしないではない。
中浜万次郎からの聞き書きをもとに「漂巽紀畧」を著わした河田小龍は、坂本龍馬にも大きな影響を与えたといわれる。本書によれば、龍馬は「人材を造ることは君に任せる。私は船を得ることに専念する」と小龍に告げたという。その数年後、龍馬は蒸気船を手に入れ、小龍は約束に従って、近藤長次郎や長岡謙吉、新宮馬之助といった優秀な門弟を龍馬のもとに送った。
吉田東洋が暗殺され、土佐勤王党が政治を牛耳るようになると、小龍は政治と距離を置き、製塩業に乗り出す。これも船を手に入れようという龍馬を助けるためだという。
龍馬と小龍の間にこのような約束が交わされ、両者がその約束に従って行動し、小龍が龍馬を支援し続けたとすれば、これは美談であるが、本当だろうか。何か著者の脚色が加えられているような気がしてならない。
難道を開削することに生涯を捧げた牧庵鞭牛や十七世紀初頭に世界地理を紹介して江戸の人びとの世界認識を変えたといわれる西川如見の話も面白かったが、疑って申し訳ないが最後まで「ほんまかいな」という気がしてならなかった。