史跡訪問の日々

幕末維新に関わった有名無名の人生を追って、全国各地の史跡を訪ね歩いています。

ミュンヘン Ⅰ

2024年10月08日 | 海外

ミュンヘンはシーボルト終焉の地である。滞在時間は短いが時間の許す限り、シーボルトの足跡を追ってみたい。

シーボルトの生まれ育ったヴュルツブルクもミュンヘンから電車で二時間程度の距離にある。ヴュルツブルクにもシーボルト所縁のスポットがあるが、今回は時間の都合で立ち寄ることができなかった。

明治六年(1873)五月五日および六日、岩倉使節団も、当時バイエルン(拝焉国)公国の首府であったミュンヘン(「米欧回覧実記」ではミュンチェン、漢字では慕尼克と表記されている)を訪れている。

――― ミュンチェン府ハ、英語の慕尼克ニテ、北緯四十八度九分、東経十一度三十二分ニ位シ、人口十七万四千六百八十八人アリ、此辺ハ、山谷間ニ開ケタル、平衍(へいえん)ナル高原ニテ、東南ニハ「アルフス」山脈ノ「チロリー」ニ走ル峰峰、一帯ノ遠岑(えんしん)、白雪ヲ瑩(みが)キテ、蜿蜿嶄嶄(えんえんざんざん)タリ、冬ハ山風烈シク、夏ハ炎熱甚シトナリ、「チロリー」ノ山脈、最高ノ峰ハ、海面ヲ抜クコト一万五千尺ニ及フ、

「遠岑」とは遠くに見える山のこと。蜿は「うねるさま」、嶄は「山が高いさま」をいう。

 

(バヴァリア)

岩倉使節団一行は、王宮や勝利の門、エングリッシャーガーテンを見学した後、市の南にあるバヴァリア(Bavaria-Statue)を訪れた。

――― 河ヲ渡リテ南スレハ、一ノ広野ニ至ル、高所ヲ占テ、一宇ノ博物観アリ、此ニ石像ヲ集ム、其前ノ広場ハ。以テ調練場トス、山峰右ニ環繞(かんにょう)シ、府中ノ烟火ハ、前ニ湧ク、眺望甚タ快ナリ、此ニ一ノ大銅像ヲ立ツ、一千八百三十三年ヨリ鋳造ヲ始メテ、十年ニテ成就セリ、其長サ五十八尺(約17・5メートル)、身ノ幅八尺(2・4メートル)、女神ノ立像ナリ、左手ニ草ノ箍(わ)ヲ執リテ、首上ニ挙ケ、右手ニ剣ヲ執リテ、獅子ニヨリカゝル、当国ノ保護神ニ象(かたど)ル、是ヲ石ノ方台、高サ三十余尺ノ上ニ安立ス、其重サ八十噸、中ヲ空シクシテ、石台ノ中腹ヨリ、螺旋ノ階ヲ施シテ、観客ヲ上ラシム、因テ是ニ上レハ、守人燭火ヲ与フ、之ヲ執リテ級ヲ拾ヒ、上ルコトスヘテ六十五級ニテ、石基ヲ尽ス、又六十級ニテ、像ノ領(うなじ)ニ至ル、面部ノ両側ニ、榻(こしかけ)アリ突出ス、即チ両齶(りょうがく)ナリ、此ニ六人ヲ坐セシメテ余リアリ、咽喉ノ大サハ、長大ノ人モ、首ヲ屈スルニ至ラス、目睛(もくせい)及ヒ口孔より明(あかり)ヲ引ク、此ヨリ府中ヲ一眺ス、此左手ノ横(よこた)フヲミル、老樹ノ横タワルカ如シ、欧洲ニテ無双ノ大像ナリ、

 

「箍」は普通に訓読みすると、樽などを締める「たが」であるが、ここでは「わ」と読ませている。つまり草で編んだ環のことである。

 

実際に行ってみると、「米欧回覧実記」に描かれているとおりであった。「実記」の記述が正確を期していることが改めて確認できた。

 

(旧南墓地)

バヴァリアから旧南墓地には62番のバスを利用するのが便利である。

旧南墓地内のシーボルトの墓は、日本風の宝篋印塔を模した形をしているので近くまで行けば直ぐに見つけることができる。

 

シーボルトの墓

 

墓標

 

シーボルトの肖像

 

強哉矯

 

墓石背面に刻まれている「強哉矯」という言葉は「中庸」の一節。「強なるかな矯たり」と読み下すらしい。現代日本語に訳すと「まことに強いことよ」となる。

 

Exforscher Japans:元日本研究者

 

 

シーボルトは、1796年、ドイツのバイエルン公国ヴュルツブルグ生まれた。父は大学教授。長じてヴュルツブルグ大学に医学、植物、動物、地文、人種の諸学を学んだ。1822年、和蘭東インド会社に入り、1823年、長崎出島に商館付医員として着任した。医学・博物学の研究の傍ら、日本人を診療し、医学生の教授に当たった。文政九年(1826)、商館長スツルレルの江戸参府に随行して日本人との交友を深めた。文政十一年(1828)八月、帰任に当たり、いわゆるシーボルト事件により国外追放を受け、オランダに帰った。帰国後は日本関係の著作の執筆に従事した。日蘭修好条約、通商条約が結ばれてからは、日本の外交政策について種々画策して、安政六年(1859)七月、和蘭商事会社評議員として再来日を果たした。文久元年(1861)幕府より顧問として招聘を受け、江戸に上って種々建言し、また学術面でも教導に当たったが、必ずしも彼の熱意を満たすものではなく、幾ばくもなくして解職。同年十二月、長崎に帰り、翌文久二年(1862)、日本を去った。翌年、オランダ政府の官職を辞し、1866年、ミュンヘンで没した。年70。

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