映画とライフデザイン

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映画「不思議の国の数学者」チェ・ミンシク

2023-04-29 21:56:44 | 映画(韓国映画)
映画「不思議の国の数学者」を映画館で観てきました。


映画「不思議の国の数学者」脱北した数学者と高校生とのふれあいを描いた韓国映画だ。数学者をメインにした映画にはおもしろい映画が多い。大好きだ。今回は韓国得意のクライムサスペンスで名を売ったチェミンシクが主演で、久々に見るような気がする。いつものようにワルを演じる訳ではない。

全国で上位1%に入る成績のいい生徒が集まる名門高校に通うジウ(キム・ドンフィ)は数学が苦手であった。ふとしたきっかけで夜間警備員ハクソン(チェ・ミンシク)に数学の能力があることがわかり、夜の誰もいない教室で教えを請うことになる話だ。


やさしい肌合いをもつ中年数学者と高校生の友情を描いた作品だ。
先日新作「Air 」を公開したばかりのマットデイモンとベン・アフレックのコンビの名作「グッドウィルハンティング」小川洋子「博士の愛した数式」のエッセンスが盛り込まれている。そこに韓国教育事情と格差問題、南での脱北者の扱いなどをからませている。全体に流れるムードからは、いつもの韓国映画のドギツさは感じられない。脚本も手がこんでいるわけでもない。観やすい映画だ。

⒈警備員に高校生ジウが近づく理由
ある時、ジウが寮の仲間とつるんで酒を飲もうと買い出しに出た時に夜間警備員のハクソンに捕まってしまう。ジウは寮を追い出される羽目になり、夜ふらついているとハクソンに出会って泊めてもらう。その時に数学の宿題を手元に置いてうっかり寝てしまう。授業にでると何故か書いてある宿題の答えを答えると正解だ。しかも、他の答えも含めて全問正解だ。これってあの人民軍と呼ばれている警備員が解いたのか?

父親を子供の頃に亡くして、シングルマザーに育てられたジウは生活困窮者の特別枠でレベルの最も高い高校に入った。数学の点数が上がらないので担任から転校を勧められている。ハクソンも立ち話を聞いてその事情がわかり、ジウを夜間の誰もいない部屋で指導することになったのだ。


⒉韓国高校生事情
ジウが通う高校は共学である。日本では、東大合格ランキング上位で共学というと渋谷幕張、日比谷くらいだと思ったら、関西の西大和学園も共学のようだ。だからあんなにレベル上がったのか。共学で女子生徒もいないとストーリー立てがやりづらいかもしれない。お金持ちの娘の同級生女子をキャスティングに加えることで味付けしているのは悪くない。

今は東大でも推薦で入学する時代だけど、この映画では内申にこだわっているようだ。韓国の受験戦争が厳しいというのは有名だけど、推薦枠で進学するのも重要視されるのであろうか?また、数学の成績にかなりこだわっている印象を受ける。


⒊脱北の数学者
脱北者の映画って割と多い気がする。どちらかというと、ワル系か格闘能力とかが優れているという方向になる。理数系の才能を持った脱北者の設定は初めて観た。映画「グッドウィルハンティング」マットデイモンは大学構内の清掃員で、大学の教授がみんな解けないだろうという数学の問題を黒板に書いたままにして、それを誰もいない時に清掃員のマットデイモンが解いてしまうという設定があった。似たようなものである。これはこれで構わない。

この数学者ハクソンは未解決問題で有名なリーマン予想の証明を出しているということになっている。すごい数学者というのがジウにもわかるのだ。ただ、半島初のノーベル賞を受賞する可能性があると映画内のTVニュースで言っているが、ノーベル賞に数学がないのを知らないのかなあ?数学はフィールズ賞だし、しかも年齢制限もある。これは大きなミスだな。


⒋オイラーの等式
小川洋子原作「博士の愛した数式」ではオイラーの等式にずいぶんとこだわった。この数学者ハクソンも同様だ。確かに美しい式だ。黒板に書かれる数式その他は、オイラーの公式を求める時の証明をアレンジしたみたいな匂いがした。高校の数学IIIから大学に入ってすぐ学ぶ解析のレベルかもしれない。日本がゆとり教育に転向した頃に、もしかして高校数学のレベルも韓国は上がったのであろうか?数学は北では兵器の道具になり、南では大学進学の道具使われたというハクソンのセリフがあった。

映画の中での校内試験のテストで、女の子が書いている解答をみるとメラネウスの定理のような式を途中までかいて途中で終わってしまった。こういう初等幾何系の問題は日本でも中学から高校程度だろう。問題の設定も疑え、途中経過にこだわるという数学者の教えの趣旨はもちろん悪くない。でも、数学が苦手というのであれば、暗記数学にこだわっておった方がいい気がするけどね。久々、80過ぎて野口悠紀雄先生が勉強法の本を書いたけど、あえて「数学は暗記」と書いてあった。自分も学生時代に数学は得意な方だったけど、肝心なところで失敗した。暗記数学を知らなかったからだと思う。当然高等数学レベルは違うけど。Q.E.D.が連発されているのをみて、受験生時代に若き長岡亮介がよく使っていたのを思い出した。


あとは音楽と数学の関係に言及しているのはよかった。元東京外語大学長のの亀山郁夫が書いた「人生百年の教養」で音楽と数学は学問的に近いと論じていたのを思い出した。
無数のおたまじゃくしをちりばめた五線譜は天才が知力の限りを尽くして組み立てた数式そのものである。音楽とは,文理横断的思考の賜物とも言える「学」なのです。(人生百年の教養 p43 )
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