映画「Cloud クラウド」を映画館で観てきました。
映画「Cloud クラウド」は黒沢清監督が菅田将暉と組んだサスペンスタッチの新作である。菅田将暉だけでなく、共演者の窪田正孝、古川琴音、岡山天音、奥平大平など最近の映画でいずれも主演を張る豪華メンバーだ。正直言って、黒沢清監督の最近の「スパイの妻」「蛇の道」はいずれも自分にはイマイチな作品だった。本作は題材が転売ヤーというネット社会でやりやすくなった商売をクローズアップするので気になる。
吉井(菅田将暉)は町工場に勤めるかたわら「転売ヤー」として格安で仕入れた物品をネットでさばいて利ざやを得ている。工場主(荒川)から職場リーダーへの昇進を打診されたり、転売屋の先輩村岡(窪田正孝)からの共同事業の申出をいずれも断る。感情を押し殺すクールな男だ。転売に専念するために恋人の秋子(古川琴音)と田舎の湖の辺りにある家に移り住む。ただ、その頃から何かに追われる感覚に襲われるようになる。
移転先の事務所で従業員として佐野(奥平大兼)を雇い仕事を始めた矢先、寝ている時何者から家に物を投げつけられる嫌がらせを受ける。警察署に届けに行くと、逆にニセブランドを販売しているのではとのタレコミがあると聞き慌てる。ネット上SNSでは悪いコメントが増えてきていた。ニセブランド品を再転売したことで被害を受けたネットカフェ住民の三宅(岡山天音)などの被害者たちがお互いの素性がわからないままにネットで共闘する動きも出てくる。そして、実行犯が徒党を組んで吉井の棲家に乗り込んでいく。
これまでの黒沢清作品よりもおもしろく観れた。
恐怖の醸し出し方が巧みである。前半から中盤にかけて何度ものけぞった。
菅田将暉演じる主人公は現実にいそうな人物である。「安く仕入れて、高く売り、利ザヤを取る商行為」は何も悪いことではない。ただ、ニセブランド商品などを販売すると犯罪だ。そこにはコンプライアンス上の一線が引かれているのに、吉井は割と安易で買い側からクレームが出てくるわけだ。
吉井の身の回りで不審なことが起き始める。誰もが吉井を狙っている。そんな状況をスリラー的に見せてくれる。うらみからなる誹謗中傷がネットを通して増幅し、集団が狂気の状態だ。破壊集団へと姿を変え暴走するのだ。ネット社会の恐怖である。次第に吉井は追い詰められる。
窪田正孝や岡山天音は直近で演じている異常人物のテイストを取り入れてこの映画の役柄に没頭した。古川琴音もいつもながらのほんわかした雰囲気だが、サスペンスになると違う局面を見せる。今回、黒沢清の俳優の起用と使い方はうまいと感じる。
⒈安く仕入れた品物を売るのは別に違法行為ではない
映画が始まってすぐに,工場主がもともと1個あたり400,000円で作った電子治療器を1箱3000円で30箱主人公吉井に売るシーンがある。それを高く転売して主人公が儲けるわけだ。売らざるを得ない状況になった男女が買い取る吉井にクレームをつけるシーンがある。もともと原価は高かったんだよと。
なんで文句を言われなければいけないのかな?と見ていて思った。別に悪いことをしているわけではない。安くてイヤだったら他の人に売ればいい話だ。これを見て、いつもながら黒沢清は意味不明な場面を作るなあと感じる。巨匠になりすぎで周囲からおかしなことも指摘されないのかな?毎回常識ハズレのシーンがある。
例えば直近で大きく業績を伸ばしているドンキホーテも、普通の定番品とこういったバッタ品も含む安く仕入れて売るスポット商品を組み合わせて利益を上げてきたのだ。商売の道理に反していないのにこれをクレームの形にして,しかも最後の復讐場面でこの売り主を入れることが不思議だ。工場主も同様だ。
⒉ネット社会の狂気
転売屋吉井の評判はネット上で最悪になっていく。きっかけの1つは10,000円で仕入れた高級ブランドバックを100,000円で売ったのが偽ブランドだったこともある。安く買って高く売るのは通常の商行為と言ったが,さすがに偽ブランドになると違う。警察に今度調査しようかと言われて、慌てて損失覚悟で価格を大きく下げる。
この辺りから恨まれることが多くなっていく。ネットでこういった被害者たちが集結する状況になる。お互いに名前を知ることなく,一緒になって転売屋を攻撃するのだ。おそらくこんな事は世間でもあるだろう。それにしても、この暴挙に普通だったら関わらないような人間が加わってラストに向かう。かなり大げさだけど、現実の世界で絶対ないことではない。
(ここからネタバレに近い)
⒊助っ人佐野の謎の存在
湖のそばの一軒家に事務所を構えたときに,採用したのが奥平大兼が演じる佐野だ。学校を出てなかなか良い仕事に恵まれない男だったと言うが,この映画は最後に向かって急激にこの佐野の存在感が強くなっていく。
まず、吉井の事務所兼住処にものを投げつけた男を捕まえる。吉井に嫌な思いをさせられた男たちが徒党を組んで、集団で吉井を懲らしめようとする。そのときに、佐野が銃を持って吉井を守る。「孤独のグルメ」松重豊が演じるいかにも謎の男から佐野が拳銃を引き取る場面がある。吉井を懲らしめようとした男たちを撃退する中で,転がっている死体を自分に任せれば全部処理すると言う。われわれに裏社会に通じた男と感じさせようとしている。
そんな佐野の正体が何か?、最後に向けて佐野の存在の真相がわかる場面が出てくるかと思っていたが,結局謎を残した。なんでこんなに吉井を助けるんだろう。
実は、自分のパソコンを覗かれたということで、吉井は佐野をクビにしている。縁がなくなったはずだ。それなのになんでこんなに身をもってかばうのか?普通ではあり得ないことが最後に続く。芥川龍之介の「薮の中」では真犯人がわからないまま大きな謎として残った。同じような感覚で佐野の正体についても解釈できるのではないか。あえて深入りしない黒沢清のうまさをこの映画を見て感じる。
映画「Cloud クラウド」は黒沢清監督が菅田将暉と組んだサスペンスタッチの新作である。菅田将暉だけでなく、共演者の窪田正孝、古川琴音、岡山天音、奥平大平など最近の映画でいずれも主演を張る豪華メンバーだ。正直言って、黒沢清監督の最近の「スパイの妻」「蛇の道」はいずれも自分にはイマイチな作品だった。本作は題材が転売ヤーというネット社会でやりやすくなった商売をクローズアップするので気になる。
吉井(菅田将暉)は町工場に勤めるかたわら「転売ヤー」として格安で仕入れた物品をネットでさばいて利ざやを得ている。工場主(荒川)から職場リーダーへの昇進を打診されたり、転売屋の先輩村岡(窪田正孝)からの共同事業の申出をいずれも断る。感情を押し殺すクールな男だ。転売に専念するために恋人の秋子(古川琴音)と田舎の湖の辺りにある家に移り住む。ただ、その頃から何かに追われる感覚に襲われるようになる。
移転先の事務所で従業員として佐野(奥平大兼)を雇い仕事を始めた矢先、寝ている時何者から家に物を投げつけられる嫌がらせを受ける。警察署に届けに行くと、逆にニセブランドを販売しているのではとのタレコミがあると聞き慌てる。ネット上SNSでは悪いコメントが増えてきていた。ニセブランド品を再転売したことで被害を受けたネットカフェ住民の三宅(岡山天音)などの被害者たちがお互いの素性がわからないままにネットで共闘する動きも出てくる。そして、実行犯が徒党を組んで吉井の棲家に乗り込んでいく。
これまでの黒沢清作品よりもおもしろく観れた。
恐怖の醸し出し方が巧みである。前半から中盤にかけて何度ものけぞった。
菅田将暉演じる主人公は現実にいそうな人物である。「安く仕入れて、高く売り、利ザヤを取る商行為」は何も悪いことではない。ただ、ニセブランド商品などを販売すると犯罪だ。そこにはコンプライアンス上の一線が引かれているのに、吉井は割と安易で買い側からクレームが出てくるわけだ。
吉井の身の回りで不審なことが起き始める。誰もが吉井を狙っている。そんな状況をスリラー的に見せてくれる。うらみからなる誹謗中傷がネットを通して増幅し、集団が狂気の状態だ。破壊集団へと姿を変え暴走するのだ。ネット社会の恐怖である。次第に吉井は追い詰められる。
窪田正孝や岡山天音は直近で演じている異常人物のテイストを取り入れてこの映画の役柄に没頭した。古川琴音もいつもながらのほんわかした雰囲気だが、サスペンスになると違う局面を見せる。今回、黒沢清の俳優の起用と使い方はうまいと感じる。
⒈安く仕入れた品物を売るのは別に違法行為ではない
映画が始まってすぐに,工場主がもともと1個あたり400,000円で作った電子治療器を1箱3000円で30箱主人公吉井に売るシーンがある。それを高く転売して主人公が儲けるわけだ。売らざるを得ない状況になった男女が買い取る吉井にクレームをつけるシーンがある。もともと原価は高かったんだよと。
なんで文句を言われなければいけないのかな?と見ていて思った。別に悪いことをしているわけではない。安くてイヤだったら他の人に売ればいい話だ。これを見て、いつもながら黒沢清は意味不明な場面を作るなあと感じる。巨匠になりすぎで周囲からおかしなことも指摘されないのかな?毎回常識ハズレのシーンがある。
例えば直近で大きく業績を伸ばしているドンキホーテも、普通の定番品とこういったバッタ品も含む安く仕入れて売るスポット商品を組み合わせて利益を上げてきたのだ。商売の道理に反していないのにこれをクレームの形にして,しかも最後の復讐場面でこの売り主を入れることが不思議だ。工場主も同様だ。
⒉ネット社会の狂気
転売屋吉井の評判はネット上で最悪になっていく。きっかけの1つは10,000円で仕入れた高級ブランドバックを100,000円で売ったのが偽ブランドだったこともある。安く買って高く売るのは通常の商行為と言ったが,さすがに偽ブランドになると違う。警察に今度調査しようかと言われて、慌てて損失覚悟で価格を大きく下げる。
この辺りから恨まれることが多くなっていく。ネットでこういった被害者たちが集結する状況になる。お互いに名前を知ることなく,一緒になって転売屋を攻撃するのだ。おそらくこんな事は世間でもあるだろう。それにしても、この暴挙に普通だったら関わらないような人間が加わってラストに向かう。かなり大げさだけど、現実の世界で絶対ないことではない。
(ここからネタバレに近い)
⒊助っ人佐野の謎の存在
湖のそばの一軒家に事務所を構えたときに,採用したのが奥平大兼が演じる佐野だ。学校を出てなかなか良い仕事に恵まれない男だったと言うが,この映画は最後に向かって急激にこの佐野の存在感が強くなっていく。
まず、吉井の事務所兼住処にものを投げつけた男を捕まえる。吉井に嫌な思いをさせられた男たちが徒党を組んで、集団で吉井を懲らしめようとする。そのときに、佐野が銃を持って吉井を守る。「孤独のグルメ」松重豊が演じるいかにも謎の男から佐野が拳銃を引き取る場面がある。吉井を懲らしめようとした男たちを撃退する中で,転がっている死体を自分に任せれば全部処理すると言う。われわれに裏社会に通じた男と感じさせようとしている。
そんな佐野の正体が何か?、最後に向けて佐野の存在の真相がわかる場面が出てくるかと思っていたが,結局謎を残した。なんでこんなに吉井を助けるんだろう。
実は、自分のパソコンを覗かれたということで、吉井は佐野をクビにしている。縁がなくなったはずだ。それなのになんでこんなに身をもってかばうのか?普通ではあり得ないことが最後に続く。芥川龍之介の「薮の中」では真犯人がわからないまま大きな謎として残った。同じような感覚で佐野の正体についても解釈できるのではないか。あえて深入りしない黒沢清のうまさをこの映画を見て感じる。