映画とライフデザイン

大好きな映画の感想、おいしい食べ物、本の話、素敵な街で感じたことなどつれづれなるままに歩きます。

映画「カードカウンター」 オスカーアイザック&ポールシュレイダー

2023-06-25 20:06:25 | 映画(洋画:2022年以降主演男性)
映画「カードカウンター」を映画館で観てきました。


映画「カードカウンター」は「タクシードライバー」の脚本で知られるポールシュレイダー監督オスカーアイザック主演で孤独なギャンブラーの偶像を描いた作品だ。カードプレイヤーを描いた映画というと、マットデイモン「ラウンダーズ」などの名作がある。この作品も同じようにギャンブラーの浮き沈みを描くものだと思っていた。でも、オバマ元大統領が選ぶ2021年のベスト映画の一つに入っている。意外にもオバマもギャンブルに興味があるのか?そんなことを思いながら映画館に向かう。

ウィリアムテル(オスカーアイザック)は長年の刑務所生活でカードゲームを覚えて、日々カジノ周りで暮らしていた。ある日、ギャンブルブローカーのラ・リンダ(ティファニー・ハディッシュ)と出会い、ウィリアムの腕前を見てポーカーの世界大会への参加を持ちかけられる。その直後、かつて上等兵だった時の上司ジョン・ゴード(ウィレム・デフォー)とウィリアムにゴードへの復讐を持ちかける若者カーク(タイ・シェリダン)と出会う。世界大会に参加することになったウィリアムとカークは車でカジノまわりをすることになる。


予想外に重い展開の映画であった。
一度観ただけでは、自分の理解度の拙さもあるけど、理解できずに進む場面も多い。でも、オバマ元大統領が推すという意味がわかった。イラクの刑務所で収容した捕虜を自白させるために拷問したことがあったらしい。オバマは拷問しないと政権公約している。ビンラディン殺害計画の映画「ゼロ・ダーク・サーティ」でも捕虜の拷問は取り上げられていた。ウィリアムは刑務所で虐待した罪で長期の収監をされた。ところが、指示をしたその上司が問題なく生きていることに憤りを感じるのだ。ウィリアムたちのしたことはハンナアーレントが言うナチス党員の「悪の凡庸」の話に通じる。


カードゲームのプレイそのもので、相手との心理戦をする闘いの映像は少ない。ウィリアムがボード上で結果的にゲームに勝つ映像はあるけど過程は見せていない。身を隠すように生きているギャンブラーのウィリアムは目立つことを好まない。それがこれまでのギャンブル映画と違う。阿佐田哲也(色川武大)が目指す生き方だ。カードカウンティングの手法を露骨に使うとカジノから締め出しをくらう。ウィリアムは大勝ちはせずにカジノをまわっていく。宿泊も高級ホテルではなくモーテルを選び、部屋の中も異様な感じで整理する。ひっそりとカジノを巡る旅まわりのギャンブラーってこんな感じなのであろう。

ブラックジャックのカードカウンティングの話は有名なエドワードソープの「ディーラーをやっつけろ」などの本で読んでいるし、映画「ラスベガスをぶっつぶせ」も観ている。カジノにも日本の競馬よりは少ないながらも控除率があり、長期で賭けると大数の法則で絶対にカジノが優位になる仕組みだ。その控除率を乗り越えて賭ける方を優位にするのがカードカウンティングだ。でたカードが優位な時に大きく賭けることで、長期的に優位に進められる。あからさまにやっているのがわかれば出禁になるが、大きく儲けるわけでなければ見過ごされるはずだ。ウィリアムもそのスタイルだ。


映画「レインマン」で、弟のトムクルーズに無理やり連れていかれたカジノで自閉症の兄ダスティンホフマンカジノで大勝ちする痛快な名場面がある。これは、でたカードを全部暗記してしまうサヴァン症候群の特殊能力によるものだ。2人は何か悪いことやっているのではないかとカジノを追い出される。カードカウンティングは容易ではない。


オスカーアイザックはクールなギャンブラーを巧みに演じた。主演作を観るのは3作目だ。ギャンブラーのウィリアムに注目した黒人女性のギャンブルブローカーとの恋も語られる。相手役のティファニー・ハディッシュにはどっしりした存在感がある。白人と黒人の恋というのも時代を感じさせる。脱ぐかと思ったが、寸止めだった。


ティファニー演じるラ・リンダがギャンブラーの1人をファッツとして紹介する場面ではポールニューマンの名作「ハスラー」でライバルだったビリヤードの名手ミネソタファッツを意識していた。ベテラン映画人ポールシュレイダーならではの登場だと思うけど、今の人は知らないよね。なぜか今日の日経新聞で自分が敬愛する芝山幹郎ポールシュレイダー「ローリングサンダー」を取りあげたのにはビックリだ。
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映画「君は放課後インソムニア」 森七菜&奥平大兼

2023-06-25 05:14:55 | 映画(日本 2019年以降主演女性)
映画「君は放課後インソムニア」を映画館で観てきました。


映画「放課後のインソムニア」オジロマコトの漫画原作を池田千尋監督がメガホンをとり、若手の人気女優森七菜が主演の青春モノである。共演は「マザー」長澤まさみ演じる出来のわるい母親に振り回される息子を好演した奥平大兼だ。でんでん、田畑智子、MEGUMI、萩原聖人といったベテランが脇を固める。

たまに青春モノが見たくなる時がある。とは言うものの、予告編でこれは違うなと思うことが多い。今回、日経新聞の映画評古賀重樹編集委員が星5個(満点)をつけていた。いい批評しても評価は3点が多い古賀重樹には珍しいことなので、ついつい目が止まる。しかも、「ラストレター」で観た森七菜の瑞々しさとクルド人移民の悲哀を描いた「マイスモールランド」でも好演した奥平大兼が気になり映画館に向かう。

石川県の高校生中見丸太(奥平大兼)は夜眠れない不眠症に悩まされていた。ある時用事があって学校の天文台に入った丸太は、そこで寝ているクラスメイトの女子高生曲伊咲(森七菜)に気づく。伊咲も同じように眠れない悩みをもって時々来ていることがわかり、2人でこっそり訪れるようになる。ところが、養護教員に2人が天文台にいることがバレてしまう。事情を聞いた教員は2人に思いきって学校公認の天文部を作ったらどうかと勧める。そして、以前部員だった先輩にも頼り天文台を活用した活動を始める。


さわやかな青春物語で好感が持てる。
石川県七尾市が舞台で、おそらくは地元も全面的に協力したのであろう。まさに天文台がある七尾高校を使ってロケをしたみたいだ。人口5万の海辺に面した地方の町の息づかいが手にとるようにわかる。7つの橋を誰にも見られずに渡るといいことあるなんてエピソードもいい感じだ。能登町の真脇遺跡にいる2人を捉えるカメラワークが良かった。しかも、このところの日本映画に多い下層社会の暗い面を妙に盛りだくさんにしすぎる雰囲気がないのも良い。


森七菜と奥平大兼の主演2人がさわやかだ。もともと恋心がお互いにあったわけではない。天文部の活動で、天文台という密室で共通の時間を過ごすことで恋が深まっていく。若い2人の空気感がじわりじわり伝わってきて応援してあげたくなる。これまでの作品を観て好感をもった2人が頑張った。若い2人の同級生たちや先輩やお姉さんの使い方もうまい。読んではいないが、オジロマコトの漫画の原作もいいムードを持っているのであろう。

伊咲に心臓疾患の持病があることや、丸太の母親が飛び出して行ったなんて話題もある。それぞれの悩みを乗り越えながらこの純愛をキープしようとしている。「努力も運も写真に写らない」と伊咲がカメラ好きの丸太にいうセリフが妙に腑に落ちた


自分も目線を高校時代に落とした時、森七菜みたいな女の子とこんな共通の時間が過ごせたらどんなに楽しかったんだろうかとうらやましい気分になる。主題歌「夜明けの君へ」もいい曲で席を立つ人がいなかった。そう、ラストのエンディングロール終わったあとにオマケがあるので注意。少し涙腺を刺激するシーンはあったけど、スッキリと映画館をあとにできた。
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