575の会

名古屋にある575の会という俳句のグループ。
身辺のささやかな呟きなども。

いとしめば人形作りが魂を入れざりし春のひなを買ひ来ぬ  稲葉京子

2018年06月13日 | Weblog

最近、亡くなられた愛知県出身の歌人、稲葉京子さん。
名古屋市の文化のみち二葉館で、偲ぶ展示があり、先日行ってきました。
その時、気になった歌。第一歌集の代表歌です。

人形をつくる人は精魂込めてつくるわけですから、当然、人形に魂を入れます。
しかし作者は魂をいれないお雛様を買ったといいます。
上五の「いとしめば」は、人形をいとしめば、と読みますから、
矛盾した心をはらんだ不思議な不安定な感じのする歌です。

この歌について、先生に当たる春日井健さんの鑑賞がありました。

人形作りがあまりに愛しんだせいで、人形に魂を入れなかったというのだ。
人の手から手へ渡っていく人形は、よく出来ていればいるほど
さまざまな運命に弄ばれることになる。・・・
だから人形作りはあえて魂を入れなかった……と、稲葉さんは思う。
そう思いながら春の雛を買って帰る。そっと壊れやすいものを抱えるようにして。
しかしこれは本当のことではあるまい。人形作りはやはり人形に魂を入れたのだ。
どうしても欲しい人形を前にしてその命を統べることを怖れた彼女が勝手に呟いてみたまでだ。
ほとんど緊張状態にまで昂ぶって、ついにかりそめの夢を紡ぎだすほどにも
彼女の心は繊細である。

私がこの歌の中で気になった言葉に「買う」があります。
毎日、モノを買っています。この行為がなくては生活は成り立ちません。
買うのはモノを買うのであって、心を買うわけではありません。
人は買うことによって何かをモノを得、心を失っているのでは?
そんな生の矛盾を捉えた若い感性の歌かも・・・なんて、思ってもみました。

この展示は24日まで開かれています。遅足



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