黎明の甲斐駒岳。幽明を隔てるような美しい山桜。
闇の中からふわりと浮かび上がります、と作者。
この句を読んだ時、思い出しました。
梶井基次郎の『桜の樹の下には』です。
桜の樹の下には屍体(したい)が埋まっている!
これは信じていいことなんだよ。
何故なぜって、桜の花があんなにも見事に咲くなんて
信じられないことじゃないか。
俺はあの美しさが信じられないので、この二三日不安だった。
しかしいま、やっとわかるときが来た。
桜の樹の下には屍体が埋まっている。
この世とあの世とは、別々に存在するものですが、
どこかに通路があるようです。
究極の美は死の世界に通じている・・・。
句に従って読んでみましょう。
冥土かな。まず黄泉の国が提示されます。
切れ字の「かな」がありますから、ああ!ここは冥土なのだ!
その冥土の闇に浮かんでいたのは山桜。その美しさよ!
山桜が美しい幽霊のように感じられるのです。(遅足)