575の会

名古屋にある575の会という俳句のグループ。
身辺のささやかな呟きなども。

午後28時の人と隣り合い電車に揺られている午前4時     亜にま

2012年07月23日 | Weblog
穂村弘さんの「短歌ください」を読んでいたら、この歌に出会いました。
作者は、亜にまさん、20歳の女性。  

25時とか、26時という表現が登場したのは、何時ごろからだろうか?
ラジオに続き、テレビの深夜放送が当たり前になっていった頃、
放送の進行表に、25時、26時という表記が現れたように思います。

テレビの現場で働いていた頃、収録が終わって帰宅するのが
午前1時だったり2時だったり。
地下鉄やバスはもう動いていなかったので、帰宅はタクシー。
タクシー伝票に25時と書いたことを思い出しました。
家族は、もう寝ていました。

この歌、大東京ならではの歌と思いました。
しかし28時の人も4時の人も、健康には良いとは言えないでしょうね。
いのちを削るようにして毎日を生きている哀しさ。

この歌集には20代、30代の若い人が多く歌が新鮮です。
その理由のひとつは、歌が予定調和に陥っていないからかな。
高齢になればなるほど、歌が予定調和に陥っていくような気も・・・。

  わが父の命終の息をともないし風の使いを窓辺に見送る  遅足



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

モンゴルは詩の国     遅足

2012年07月22日 | Weblog
名古屋大学の博物館で「モンゴルの詩人たち」というお話がありました。
モンゴルで文字が生れたのは13世紀。
今も口承文学の伝統は強く、韻文が生活のなかに生きているそうです。

たとえば、これは詩ではありませんが、

 泣いて泣いて人になる
 啼いて啼いて家畜になる

韻を踏んだ面白い表現ですね。

詩の朗読も盛んで、毎年、全国一の詩人を決める大会が開かれ、
優勝した詩人には「ボロルツォム」(水晶の杯)が与えられるとのこと。

街中では、詩で相手をやり込める「詩のボクシング」も見られるそうです。

詩の優劣に大きく関わるのが韻文としての完成度。
韻文としての完成度が高ければ高いほど、言葉に魂が宿り
詩のパワーが大きくなると考えられています。

俳句でも、意味よりも、575のリズムが大切とも言われますが、
俳句を韻文として考えれば、その完成度が高いほど、
句に言霊が宿るのかも知れません。何回も口ずさむことの大切さを思い出しました。

モンゴルの詩人のなかには俳句に関心を持つ人もいます。
1944年生れのルハグバスレンさんの次の詩は、俳句のような三行詩です。

「青い夕べ」

 夕のたそがれが
 ゼルの上におりて    
 牛と一緒に 光を反芻する

  ゼルとは、家畜の子をつなぐために地面に張られた縄のこと。

「父」
 
 チョドルをすてた 俺   
 無言で 父がみつめる
 その眼差しが 俺を鞭打つ  

   チョドルは、馬が動かないように足をしばる枷です。
   遊牧の仕事を継がずに都会へ出て行く若者が増えた頃の詩でしょうか。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

プレハブと団地を覆う夏の雲     朱露

2012年07月21日 | Weblog
     殆ど外出しない私に呆れる妻と私。
     東の多米山脈を眺めて無慮三十年。
     妻は時々品川の実家へ飛んで行く。
     往復の旅費をカンパして一人暮し。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

青天や白き五弁の梨の花   原石鼎

2012年07月21日 | Weblog
宇多喜代子さんの「私の名句ノート」を読んでいたら
この句について、こう書いてありました。

梨の花は白くて五弁とは、当たり前でツマラナイ句。
私も以前は、そう思っていました。
句を理屈で読む、というか、言葉の意味を追って
読んでいただけだったのです。

 青い空/
 白い花/
 五弁の梨の花

言葉を一つづつ、イメージとして読むと・・・
映像が鮮やかに浮かび上がってきます。
写真がなかった時代。
言葉による描写は、写真に匹敵する力を持っていたはず。

なるほど。
写生句のなかには、なんか今一つだな、と思う句も。
しかし宇多さんの指摘されるように
意味に重きを置きすぎて読んできたのかも・・・
どういう意味なの?とセカセカ・セコセコせずに、言葉に心をゆだねる。
そんな読み方も大切だと思うこの頃です。

                        遅足

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

7月句会の最終結果です。      遅足

2012年07月20日 | Weblog
35度を越す猛暑の句会となりました。
穗實(えみ)さんが初参加、9人での会となりました。
立雄さんの選句が届きました。

題詠「ハンカチ」

①御年頃ハンカチ王女二枚持ち(智恵)能登・郁子
②ハンカチはこぼれゆくものすくい上げ(麗子)鳥野・結宇・晴代・穗實(えみ)
③伯仲の試合ハンカチくしゃくしゃに(亜子)智恵・晴代・立雄
④幼子の振るハンカチや瀬戸の海(立雄)すみ・郁子
⑤こんな日はハンカチ三四枚持って(晴代)鳥野・朱露
⑥紫のハンカチーフの式部かな(遅足)静荷・狗子
⑦ハンカチの出番の減りて色なき日(静荷)結宇・智恵・穗實(えみ)・郁子・麗子
⑧ハンカチを畳んで握る診察台(すみ)能登・朱露・静荷・亜子・麗子・立雄
⑨ハンカチに想いをそっとプレスして(郁子)鳥野・能登・結宇・遅足・亜子・すみ・穗實(えみ)・狗子・立雄
⑩ハンカチを持ちかへて子等帰り道(結宇)
⑪縦縞のハンカチ横にする手品(狗子)朱露・遅足
⑫ハンカチでレンズを拭いさあ本番(能登)晴代・すみ・麗子     
⑬ハンカチや女もすなる涙拭く(朱露)遅足・亜子・狗子
⑭運不運ハンカチきつく握りしめ(えみ)智恵・静荷
 
自由題

①穴出でて蝉の見まがうこの世かな(立雄)鳥野・能登・智恵・静荷・狗子
②冤罪の晴るるを願ふ梅雨晴間(亜子)結宇・立雄
③梅雨はげしへくそかづらは矩を越え(静荷)能登
④七夕の星はじかれて流れけり(遅足)朱露・穗實(えみ)・郁子
⑤天道虫けんか忘れて兄妹(晴代)遅足・すみ・狗子・郁子・立雄
⑥熱されて都会は冷めぬ夏の夕(すみ)智恵・晴代
⑦いつだってアサガオ明日に手をのばす(郁子)鳥野・能登・結宇・遅足・静荷・亜子・晴代・すみ・麗子・立雄
⑧家族葬花いっぱいの最期かな(麗子)郁子
⑨紛争後和平託され出るメロン(智恵)朱露・亜子
⑩ふるさとのクチナシの末挿し木せむ(結宇)穗實(えみ)
⑪美しき緑削って瀑布かな(狗子)鳥野・智恵・朱露・静荷・すみ・麗子
⑫揚花火胸元白く浮き立ちぬ(能登)亜子・晴代
⑬降圧剤毎日飲んで知らん顔(朱露)穗實(えみ)・麗子
⑭さよならは言えないままの夏の空(えみ)結宇・遅足・狗子

次回は8月29日(水)午後1時  東鮨
題詠は「秋の声」です。ものの触れ合う音、木の葉の音などもの寂しい秋の音。
和歌など詠まれてきた季語です。ちょっと耳をすませて秋の声を探してください。

いよいよ夏本番です。熱中症には要注意です。



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

河童忌や倍以上生きそれで何     朱露

2012年07月20日 | Weblog
    昭和二年七月二十四日芥川自殺三十六才。
    七年後小生出現しその七年後太平洋戦争。
    その四年後連合軍に無条件降伏して終戦。
    終戦までと敗戦後とどっちが長いかハテ。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

夏雲や団地プレハブ多米山脈    朱露

2012年07月19日 | Weblog
      三十数年前来た時は何もなかった。
      いや団地はあったがプレハブなし。
      万難を排して木造二階建てを作る。
      木造二階程度で「万難」なんだよ。

               



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

猛暑の中のハンカチ句会   麗

2012年07月19日 | Weblog
昨日は35度を超える猛暑日。
晴代さんの「こんな日はハンカチ三四枚持って」がまさに実感される一日でした。
遅足さんの船団がご縁で句会に参加して下さったえみさん。
575のおしゃべり句会はいかがでしたでしょうか?
ぜひこれからもご参加下さいね。

さて「ハンカチ」というお題はなかなか手強いものでしたが、男女差や日常と非日常が浮き彫りになりました。緊張するときになぜか握りしめるハンカチ。
今、流行りのタオルハンカチでは俳句にならないことも判明。
やはりハレの日の持ち物のようです。

トップ賞は郁子さんの

    ハンカチに想いをそっとプレスして

は淡い恋心や家族愛がイメージされる秀句。優しい郁子さんならではの句です。
お子さんのお弁当にいつも無事を祈るおまじないをされている郁子さんはきっとアイロンをかける時も想いをプレスされているはずです。

お休みだった智恵さんの

    御年頃ハンカチ王女二枚持ち

はなんと更年期の御年頃だったとは!
吹き出す汗に王女は2枚ハンカチが要るのです。レースのハンカチではありませんでした。(笑)

今日も朝から照りつける日差し。
ハンカチが手放せない一日になりそうです。
皆様ご自愛下さい。
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ハンカチ句会の投句が集まりました。    遅足

2012年07月18日 | Weblog
梅雨はいつの間にか明けて、35度を越す猛暑。
まさにハンカチの出番です。
今回、新しく参加される方があり、題詠には14の句が集まりました。
どのハンカチが句会の風になびくのでしょうか?楽しみです。


題詠「ハンカチ」

①御年頃ハンカチ王女二枚持ち
②ハンカチはこぼれゆくものすくい上げ
③伯仲の試合ハンカチくしゃくしゃに
④幼子の振るハンカチや瀬戸の海
⑤こんな日はハンカチ三四枚持って
⑥紫のハンカチーフの式部かな
⑦ハンカチの出番の減りて色なき日
⑧ハンカチを畳んで握る診察台
⑨ハンカチに想いをそっとプレスして
⑩ハンカチを持ちかへて子等帰り道
⑪縦縞のハンカチ横にする手品
⑫ハンカチでレンズを拭いさあ本番     
⑬ハンカチや女もすなる涙拭く
⑭運不運ハンカチきつく握りしめ

 
自由題

①穴出でて蝉の見まがうこの世かな
②冤罪の晴るるを願ふ梅雨晴間
③梅雨はげしへくそかづらは矩を越え
④七夕の星はじかれて流れけり
⑤天道虫けんか忘れて兄妹
⑥熱されて都会は冷めぬ夏の夕
⑦いつだってアサガオ明日に手をのばす
⑧家族葬花いっぱいの最期かな
⑨紛争後和平託され出るメロン
⑩ふるさとのクチナシの末挿し木せむ
⑪美しき緑削って瀑布かな
⑫揚花火胸元白く浮き立ちぬ
⑬降圧剤毎日飲んで知らん顔
⑭さよならは言えないままの夏の空

突然の猛暑、熱中症には、十分気をつけて下さい。





コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

お茶いかが   鳥野

2012年07月17日 | Weblog
「こびれ」「おこびれ」・・・何時か何処かで聞いたような気がする言葉です。
これが、日常に使われているのは、長野県の北信、中信地方。
「小昼」が転化したもの、と言われています。

早朝からの野良仕事、昼飯までは待てない合間の、つまりオヤツです。

信州の人は、とにかく集まって「お茶をする」のが好き。
お茶受けに、有り合わせを持って参加します。漬物、煮物、炒り豆、お菓子の残り、何でも。

お茶はたっぷり用意して、湯呑茶碗が空いたら、すかさず注ぎ足されます。

終りの合図は、飲み干さないこと。話に花が咲き、こびれは続きます。

 日本の原風景を表現して、高く評価されている「高橋まゆみ人形館」(飯山)のティールームで、この温かいもてなしに遇いました。

「まあ、お茶でもどうぞ」

               
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

一月許可のほとけをのせて紙飛行機   摂津幸彦

2012年07月16日 | Weblog
第一句集の冒頭の句です。
作者の俳句宣言のような句と言っても良いでしょうか。
でも、なんなんだ!この句は・・・
摂津さんの句はほとんどが分かりません。
たまに句集を広げるのですが、ホトンドがチンプンカンプン。

どう読んだら良いのか?参考書を見つけました。
12の現代俳人論(下)のなかの仁平勝さんの摂津幸彦論。

ヒント①
摂津俳句は写生ではなく「言葉から出発」。
この句、まず、分からないのが一月許可。
古文書のなかに「○○月許可」というフレーズがあるそうです。
このフレーズに触発されて出来た句。
一月許可のほとけ、とは、一月の埋葬許可のでたほとけ(死者)の意。

ヒント②
少年時代の原風景。
紙飛行機は、子供のころに良く遊んだ心の原風景のひとつ。

かくして、一月に埋葬許可のおりた死者を乗せて、
紙飛行機が飛んでいく、という幻想の一句が誕生、という解説です。
なるほど。

難解な句のなかでも、ほんの少々はなんとか理解できる句も。
そうしたなかでも、私の好きな句。

  鬼あざみ鬼のみ風に吹かれをり

この鬼は鬼あざみから抜け出たもの。
この鬼はかくれんぼの鬼であり、鬼になった子が原っぱで一人
風にふかれているという句。これなら分かりやすい。

こうした作り方は成功より失敗が多い。仁平さんが失敗の例とした句。

  愛ちゃんはお嫁に辺り鵙日和

これは「愛ちゃんはお嫁に」という、流行した歌謡曲の一節を
面白く感じて使ったが、成功しているとは思えないとのこと。同感です。

ヒント③
語呂合わせ。

 蛇口にて水束ねらる寂光土

蛇口によって束ねられた水から寂光土へと飛躍している。
この飛躍を支えているのが「じゃ」という語呂合わせ。
これは良い句だと思います。

                    遅足



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

京都・蓮月茶屋の湯豆腐。     遅足

2012年07月15日 | Weblog
京都の青蓮院から知恩院へ向かう道の右側にあるのが蓮月茶屋。
何度か前を通って気になっていましたが、
先日、ようやく暖簾をくぐって、お昼を食べました。
豆腐料理です。このお店では豆富料理と書いてあります。
全十一品のコース。お値段は3650円。
湯豆腐の豆腐が美味しかったです。なかでも珍品が豆腐グラタン。
チーズのダメな私はパスしましたが、奥さんは「美味しい」と気に入ったようです。

箸袋には、こんな歌が。

 名のみにて月もやどらぬにごり江の蓮の古根とみぞふるにける

詠み人は幕末の人、太田垣蓮月という尼さん。
蓮月尼の好物だった豆腐料理の専門店ということで、
お店の名も蓮月尼にちなんだもの。

この蓮月さん、夫や子供を相次いで亡くして出家。
歌は上田秋成らに学び、陶器も焼くという歌人にして陶芸家。
幕末の志士とも交流があったとか。
美人でもあったようです。

岡本かの子に「ある日の蓮月」という戯曲があるそうです。
蓮月尼の庵。若い盗人が入って来て「他のものには目もくれません。
あなたの肉体を盗み取ろうとする盗人です。」と。
蓮月は「まあお待ちなさい。次第によっては差上げないものでもありません。
が、まだ私には腑に落ちないところがあります。それをもうすこし詳しく
話してください。」と、この乱暴な若者に接するのだが…。
この後の顛末やいかに?

 ねがはくはのちの蓮(はちす)の花のうへにくもらぬ月をみるよしもがな

辞世の歌です。                 遅足
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

わが受くる紙幣は瞬く間に数ふ   日野草城

2012年07月14日 | Weblog
昭和12年の連作「俸給」の第一句。

かじかめる俸給生活者の流(ながれ)、と、
都市生活者・サラリーマンとしての人生を歩んだ草城。
俸給のお金も、句の対象にしています。

 処女紙幣(しょじょしへい)青し颯爽として軽く
   
 老紙幣疲れうらぶれくづほるる

結核のため、昭和22年に休職、24年には退職。

 疲れたる紙幣(さつ)を共同募金する

共同募金が始まったのは、昭和22年。翌年の作。

 少(わか)き子が獲て来し紙幣(さつ)は眼に痛き

昭和25年の句。高校を卒業、就職した子(温子)の
初サラリーを詠んだもの。
父・草城が病気という事情から、大学進学を断念したという。

短歌でもお金を詠んだものを。。

 ポケットにゆうべの釣りの札があってその札で買ふ朝の真水を   魚村晋太郎

 人のために使ふことなしひと月を流れていきしお金を思ふ     澤村斉美

お金も立派に句や歌の題材になるんですね。
今は、ほとんど銀行振り込み。ちょっと味気ない気もします。
サラリーマンを退職して十年。ボーナスのないのにも慣れました。
今朝、蝉の鳴き声を聞いたと妻。私は耳が遠くて・・・
                          遅足


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

多米低山小缶ビール夏夜明け    朱露

2012年07月14日 | Weblog
      目が覚めて二階の窓から東を見る。
      鈍角にすり減った黒々とした山脈。
      ここまですり減るのに何千億年だ。
      山を越えた途端に浜名湖とウナギ。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

長谷寺・あじさいの寺へ     遅足        

2012年07月13日 | Weblog
先週、奈良の長谷寺に行ってきました。
目的は、境内にある「ふたもとの杉」です。
この杉は、謡曲の「玉蔓(たまかずら)」に登場します。

玉蔓は、頭の中将と夕顔の間に生まれた娘。
この夕顔のもとに光源氏が通いますが、
夕顔は霊にとりつかれて亡くなってしまいます。
光源氏は、侍女の右近に玉蔓の行方を捜させますが、見つかりません。
それから何年も経って・・・
右近は、日頃から信仰している長谷寺の観音様に。
成人した玉蔓も、母との再会を祈願するために、
これまた大和の長谷寺に・・・・
二人が再会した場所が「ふたもとの杉」です。
平安シンデレラ・ストーリーですね。

長谷寺には、登廊という屋根のついた参道がありますが、
ふたもとの杉は、登廊から離れた急な坂道に立っていました。

   ふたものの杉の立ち処(たちど)を尋ねずは
                 古川野辺に君を見ましや

この二本の杉が立っているところを訪ねなかったら、
初瀬川の古川野辺で、玉蔓に出会うこともなかったでしょう、と
右近が詠んだとされる歌です。
(この二本の杉のお話、源氏物語にはなく、能の創作のようです)

長谷寺は花の寺と呼ばれるだけあって、四季折々に花が咲くそうです。
写真は登廊と雨に濡れる紫陽花です。
ここには芭蕉や虚子などの俳人も訪れて、句を詠んでいます。

  春の夜や籠り人(こもりど)床し堂のすみ  芭蕉

桜の咲いた春の夜でしょうか、願い事を心に堂の隅に
籠ってお祈りをしている人たちを詠んだ句。
昔は夢枕に神様や仏様が現れることがあったようです。

  花の寺末寺一念三千寺   虚子

虚子の句は、花の寺といわれる長谷寺には末寺が三千寺あること。
一念三千。人の心(一念)には、宇宙存在のすべてのありかた(三千)が
含まれている、と言う教えを踏まえた句だと思いますが・・・

随分前に牡丹の頃、一度、訪れただけでしたが、
良いお寺だったので、また行ってみたくなりました。

  登廊の柱千本梅雨じめり      遅足




コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする