【まくら】
井原西鶴『日本永代蔵』には、工夫・努力・倹約して富を得てゆく話がぎっしりつまっている。その中に、大坂北浜で米俵を運ぶたびに床に少しずつ米がこぼれるので、それを掃き集めて大金持ちになった後家の話が見える。最初は自分が食べるだけの目的だったのだが次第に余るようになり、それを売って現金にした。息子には俵の廃品で銭さしを作らせ両替屋に売らせた。そのうち息子は両替屋になり家や蔵をいくつも建てたという。また盆のあと、供え物を流すと一緒に蓮の葉が流れるのでそれを拾い集め、味噌を包んで売って金持ちになった男の話もある。こういう話の集はその後も出版され続けた。「猫の皿」の原話と思われる、猫と一緒に茶碗をもらって金持ちになった話も、そういう本の中に見える。小さな努力の積み重ねこそが富を生む、というのが江戸時代の考えかたであった。
出典:TBS落語落語研究会
【あらすじ】
竹次郎が江戸の兄のところに訪ねてきた。竹次郎は遺産の大部分を茶屋酒と遊びで使い果たしてしまった。だから、兄さんのところで働かせてくれと頼んだが、それよりは自分で商売をしたらと勧められた。資金を貸してもらって中を見ると、3文しか入っていなかった。3文では何も出来ないので俵のサンダラポッチを買ってきてサシを作り、売って儲けた金で又買ってと繰り返している内に小銭が貯まるようになってきた。その上、朝から納豆売り、豆腐屋、茹で小豆売り、うどん売り、いなり寿司売り・・・、一日中よく働いた。
2年半も経つと10両という金が出来た。信用する者が間に立ち女房をもらい女の子も生まれた。裏にいられないので、表に出て10年が経った。深川蛤町に3戸前の蔵と間口5間半も有るような店を持つ大旦那になっていた。
番頭に3文の銭と2両の金を包ませ、風が強いので万が一の時は蔵の壁の目塗りとねずみ穴を塞ぐようにと言付けして、兄の店にやってきた。借りていた3文の元をお礼を言いながら返し、利息分として2両の包みを渡した。 兄は元金について「見た時は怒ったであろう。3文しか貸さなかった理由は茶屋酒がまだ染みこんでいるので、何両貸してもまず半分は酒に化けてしまうだろう。元に手を付けるようでは商人にはなれない。きつい事をすれば立派な商人になるだろうと3文しか貸さなかった。」 と言う。 その夜は兄弟仲良く話し合っていたが、夜も深まり竹次郎は帰ると言い出した。家の蔵はねずみ穴が開いているので、心配でしょうがないというので、兄は「そんな事はないが、その時はわしの全財産をやるから泊まっていけ」と言う。兄弟仲良く枕を列べて寝ていると半鐘が鳴っている。聞くと深川蛤町方向だという。
急いで駆けつけたが猛火の中、蔵が黒く浮き上がっていた。一番蔵から煙が出るとたちまち崩れ落ちてしまった。ねずみ穴が原因で二番、三番と焼け落ちてしまった。焼け跡に仮普請をして商売を始めたが上手くいかない。奉公人も去って親子3人になってしまい、奥さんも心労が重なり床につくようになってしまった。
春の仕込みもあるので、8歳になる娘のヨシを連れて兄の家に借金をしに行った。
裏から入ると、兄は喜んで迎えてくれた。借金は50両必要だと切り出したが、今のお前の力では2両が限度だという。財産の全部をやると言ったのは酒が言わせた事で、それを真に受けるとは世間知らずだという。そんな鬼のような事を・・と言って喧嘩になってしまった。
娘を連れて表に出ると、ヨシは自分で20両作るという。聞くと吉原に売れば出来るという。そのお金で儲けて迎えに来てくれればいいと言う。その話を汲んで20両懐に入れて大門を出た。見返り柳を後にして歩いていくと、「気を付けろ!馬鹿野郎!」。 男に突き当たられた。痛い思いをして我に帰ってみると、懐の20両が無くなっていた。「もうだめだ~」、帯を解いて木にかけて、足の下の石をぽーんと蹴ると「う~ん」。
「竹!起きろやうるさくて寝てられない」。「ここはどこだ?」、「ここは俺の家だ」。「火事があっただろ」、「そんなものはない」。「だったら・・・」、「何をそんなにキョトキョトしてるんだ。夢でも見たのか」。泊まったまでは本当で、火事も落ちぶれたのもみんな夢だと聞かされた。
「火事の夢は逆夢と言って縁起がいい、この春は身代が燃え盛るように大きくなるぞ」、
「あまりに、ねずみ穴が心配で・・・」、
「夢は五臓(土蔵)の疲れだ」。
出典:落語の舞台を歩く
【オチ・サゲ】
地口落ち(駄洒落がオチになるもの )
【噺の中の川柳・譬(たとえ)】
『嫁の屁は五臓六腑を駆けめぐり』
『落ちぶれて袖に涙のかかるとき、人の心の奥ぞ知らるる』
『稼ぐに追い付く貧乏なし』
『精(せ)を出せば凍る間もなき水車』
【語句豆辞典】
【サンダラポッチ】米俵の両端にあてる、円いわら製のふた。さんだらぼうし。桟俵法師(さんだわらぼうし)の擬人名
【サシ】細い縄。ここでは穴あき銭を通してまとめておく紐のこと。通常100文を一本にさしたところから転じて、「百文」のこと。
【目塗り】特に、火災などの時、土蔵の戸前を塗りふさぐこと。
【この噺を得意とした落語家】
・六代目 三遊亭圓生
・十代目 柳家小三治
・立川談志
・立川志の輔
【落語豆知識】
【入り】(1)客の入り具合(2)芸人の楽屋入り

井原西鶴『日本永代蔵』には、工夫・努力・倹約して富を得てゆく話がぎっしりつまっている。その中に、大坂北浜で米俵を運ぶたびに床に少しずつ米がこぼれるので、それを掃き集めて大金持ちになった後家の話が見える。最初は自分が食べるだけの目的だったのだが次第に余るようになり、それを売って現金にした。息子には俵の廃品で銭さしを作らせ両替屋に売らせた。そのうち息子は両替屋になり家や蔵をいくつも建てたという。また盆のあと、供え物を流すと一緒に蓮の葉が流れるのでそれを拾い集め、味噌を包んで売って金持ちになった男の話もある。こういう話の集はその後も出版され続けた。「猫の皿」の原話と思われる、猫と一緒に茶碗をもらって金持ちになった話も、そういう本の中に見える。小さな努力の積み重ねこそが富を生む、というのが江戸時代の考えかたであった。
出典:TBS落語落語研究会
【あらすじ】
竹次郎が江戸の兄のところに訪ねてきた。竹次郎は遺産の大部分を茶屋酒と遊びで使い果たしてしまった。だから、兄さんのところで働かせてくれと頼んだが、それよりは自分で商売をしたらと勧められた。資金を貸してもらって中を見ると、3文しか入っていなかった。3文では何も出来ないので俵のサンダラポッチを買ってきてサシを作り、売って儲けた金で又買ってと繰り返している内に小銭が貯まるようになってきた。その上、朝から納豆売り、豆腐屋、茹で小豆売り、うどん売り、いなり寿司売り・・・、一日中よく働いた。
2年半も経つと10両という金が出来た。信用する者が間に立ち女房をもらい女の子も生まれた。裏にいられないので、表に出て10年が経った。深川蛤町に3戸前の蔵と間口5間半も有るような店を持つ大旦那になっていた。
番頭に3文の銭と2両の金を包ませ、風が強いので万が一の時は蔵の壁の目塗りとねずみ穴を塞ぐようにと言付けして、兄の店にやってきた。借りていた3文の元をお礼を言いながら返し、利息分として2両の包みを渡した。 兄は元金について「見た時は怒ったであろう。3文しか貸さなかった理由は茶屋酒がまだ染みこんでいるので、何両貸してもまず半分は酒に化けてしまうだろう。元に手を付けるようでは商人にはなれない。きつい事をすれば立派な商人になるだろうと3文しか貸さなかった。」 と言う。 その夜は兄弟仲良く話し合っていたが、夜も深まり竹次郎は帰ると言い出した。家の蔵はねずみ穴が開いているので、心配でしょうがないというので、兄は「そんな事はないが、その時はわしの全財産をやるから泊まっていけ」と言う。兄弟仲良く枕を列べて寝ていると半鐘が鳴っている。聞くと深川蛤町方向だという。
急いで駆けつけたが猛火の中、蔵が黒く浮き上がっていた。一番蔵から煙が出るとたちまち崩れ落ちてしまった。ねずみ穴が原因で二番、三番と焼け落ちてしまった。焼け跡に仮普請をして商売を始めたが上手くいかない。奉公人も去って親子3人になってしまい、奥さんも心労が重なり床につくようになってしまった。
春の仕込みもあるので、8歳になる娘のヨシを連れて兄の家に借金をしに行った。
裏から入ると、兄は喜んで迎えてくれた。借金は50両必要だと切り出したが、今のお前の力では2両が限度だという。財産の全部をやると言ったのは酒が言わせた事で、それを真に受けるとは世間知らずだという。そんな鬼のような事を・・と言って喧嘩になってしまった。
娘を連れて表に出ると、ヨシは自分で20両作るという。聞くと吉原に売れば出来るという。そのお金で儲けて迎えに来てくれればいいと言う。その話を汲んで20両懐に入れて大門を出た。見返り柳を後にして歩いていくと、「気を付けろ!馬鹿野郎!」。 男に突き当たられた。痛い思いをして我に帰ってみると、懐の20両が無くなっていた。「もうだめだ~」、帯を解いて木にかけて、足の下の石をぽーんと蹴ると「う~ん」。
「竹!起きろやうるさくて寝てられない」。「ここはどこだ?」、「ここは俺の家だ」。「火事があっただろ」、「そんなものはない」。「だったら・・・」、「何をそんなにキョトキョトしてるんだ。夢でも見たのか」。泊まったまでは本当で、火事も落ちぶれたのもみんな夢だと聞かされた。
「火事の夢は逆夢と言って縁起がいい、この春は身代が燃え盛るように大きくなるぞ」、
「あまりに、ねずみ穴が心配で・・・」、
「夢は五臓(土蔵)の疲れだ」。
出典:落語の舞台を歩く
【オチ・サゲ】
地口落ち(駄洒落がオチになるもの )
【噺の中の川柳・譬(たとえ)】
『嫁の屁は五臓六腑を駆けめぐり』
『落ちぶれて袖に涙のかかるとき、人の心の奥ぞ知らるる』
『稼ぐに追い付く貧乏なし』
『精(せ)を出せば凍る間もなき水車』
【語句豆辞典】
【サンダラポッチ】米俵の両端にあてる、円いわら製のふた。さんだらぼうし。桟俵法師(さんだわらぼうし)の擬人名
【サシ】細い縄。ここでは穴あき銭を通してまとめておく紐のこと。通常100文を一本にさしたところから転じて、「百文」のこと。
【目塗り】特に、火災などの時、土蔵の戸前を塗りふさぐこと。
【この噺を得意とした落語家】
・六代目 三遊亭圓生
・十代目 柳家小三治
・立川談志
・立川志の輔
【落語豆知識】
【入り】(1)客の入り具合(2)芸人の楽屋入り


