【原文】
屏風・障子などの、絵も文字もかたくななる筆様して書きたるが、見にくきよりも、宿の主のつたなく覚ゆるなり。
大方、持てる調度にても、心劣りせらるゝ事はありぬべし。さのみよき物を持つべしとにもあらず。損ぜざらんためとて、品しななく、見にくきさまにしなし、珍しからんとて、用なきことどもし添へ、わづらはしく好みなせるをいふなり。古めかしきやうにて、いたくことことしからず、費もなくて、物がらのよきがよきなり。
大方、持てる調度にても、心劣りせらるゝ事はありぬべし。さのみよき物を持つべしとにもあらず。損ぜざらんためとて、品しななく、見にくきさまにしなし、珍しからんとて、用なきことどもし添へ、わづらはしく好みなせるをいふなり。古めかしきやうにて、いたくことことしからず、費もなくて、物がらのよきがよきなり。
【現代語訳】
屏風や襖などに、下手くそな絵や文字が書いてあると、みっともないと言うよりも、持ち主の品格が疑われる。
大体の事において、持ち物から持ち主の品性が察せられる場合が多い。常識を逸した高級品を持っていれば良いという話ではない。壊れないように、無骨に作って変形していたり、変わっているからと余計な部品を付けて、かえって使いづらくなっていたり、コテコテなのを喜んだりするのが良くないのだ。よく使い込んであって、わざとらしくなく、適正価格で作ってあり、その物が自体が良い物であればいい。
大体の事において、持ち物から持ち主の品性が察せられる場合が多い。常識を逸した高級品を持っていれば良いという話ではない。壊れないように、無骨に作って変形していたり、変わっているからと余計な部品を付けて、かえって使いづらくなっていたり、コテコテなのを喜んだりするのが良くないのだ。よく使い込んであって、わざとらしくなく、適正価格で作ってあり、その物が自体が良い物であればいい。
◆鎌倉末期の随筆。吉田兼好著。上下2巻,244段からなる。1317年(文保1)から1331年(元弘1)の間に成立したか。その間,幾つかのまとまった段が少しずつ執筆され,それが編集されて現在見るような形態になったと考えられる。それらを通じて一貫した筋はなく,連歌的ともいうべき配列方法がとられている。形式は《枕草子》を模倣しているが,内容は,作者の見聞談,感想,実用知識,有職の心得など多彩であり,仏教の厭世思想を根底にもち,人生論的色彩を濃くしている。