日本男道記

ある日本男子の生き様

方丈記(四):治承四年水無月の頃、にはかに都遷り侍りき

2024年03月12日 | 方丈記を読む


【原文】 
又治承四年水無月の頃、にはかに都遷り侍りき。いと思ひの外なりし事なり。おほかた此の京のはじめを聞ける事は、嵯峨の天皇の御時、都と定まりにけるよりのち、すでに四百歳を經たり。ことなるゆゑなくて、たやすく改まるべくもあらねば、これを世の人やすからず憂へあへる、実にことわりにも過ぎたり。
されどとかくいふかひなくて、帝よりはじめたてまつりて、大臣公卿みな悉くうつろひ給ひぬ。世に仕ふるほどの人、誰か一人ふるさとに殘り居らむ。官位に思ひをかけ、主君のかげを頼むほどの人は、一日なりともとくうつらむと励み、時を失ひ世にあまされて、期する所亡き者は、愁へながらとまりをり。軒を爭ひし人のすまひ、日を經つゝ荒れゆく。家はこぼたれて淀川に浮び、地は目の前に畠となる。人の心みな改まりて、たゞ馬鞍をのみ重くす。牛車を用する人なし。西南海の所領を願ひて、東北國の庄園を好まず。
その時、おのづから事のたよりありて、摂津國今の京にいたれり。所のありさまを見るに、その地ほど狭くて、條里をわるにたらず。北は山にそひて高く、南は海に近くて下れり。波の音つねにかまびすしく、潮風殊にはげし。内裏は山の中なれば、彼の木の丸殿もかくやと、なかなかやうかはりて、優なるかたも侍り。日々にこぼち、川もせに運び下す家、いづくに作れるにかあらむ。なほむなしき地は多く、作れる屋は少なし。古京はすでに荒れて、新都はいまだならず。ありとしある人は、皆浮雲の思ひをなせり。もとより此の處にをるものは、地を失ひて憂ふ。今移れる人は、土木のわづらひある事を嘆く。道のほとりを見れば、車に乘るべきは馬に乘り、衣冠、布衣なるべきは多く直垂を着たり。都の手振りたちまちに改まりて、ただひなびたる武士にことならず。
世の亂るゝ瑞相とか聞きおけるもしるく、日を經つゝ、世中うき立ちて、人の心も治らず、民の憂へつひにむなしからざりければ、おなじ年の冬、猶この京に歸り給ひにき。されどこぼちわたせりし家どもは、いかになりにけるにか。悉くもとの様にも作らず。
傳へ聞く、古の賢き御代には、あはれみを以て國を治め給ふ。すなはち殿に茅ふきても、軒をだにとゝのへず、煙の乏しきを見給ふ時は、かぎりあるみつぎ物をさへゆるされき。是民をめぐみ、世をたすけ給ふによりてなり。今の世の中のありさま、昔になぞらへて知りぬべし。

【現代語訳
また、治承四年(1180)六月の頃、突然遷都の儀があった。思いがけないことであった。だいたい、この京の始まりについて私が聞いている範囲では、嵯峨天皇の御世に都と定められて以来、すでに四百年も経っている。特別の事情もなくたやすく改められるべくもないので、このことを世の中の人々は心安からず憂えあったのだった。まことにもっともなことである。
だが、とやかく言うかいもなく、天皇をはじめ奉り、大臣公卿みなことごとく引越された。朝廷にお仕えする身分の人は、誰一人として古い都に残ろうとはしない。官位に望みをかけ、主君のかげを頼りにするような者は、一日も早く引越そうと励み、時を失い世の中からはじき出され何も期待するところのない者は、憂えながら古い京にとどまった。軒を争っていた人の住処は、日を経るにつれ荒れていった。家は解体されて(その材木が筏となって)淀川に浮かび、地面はあっと言う間に畑と化した。人々の考え方は変わって、馬や鞍ばかりを重宝するようになった。牛車を使う人はいなくなった。西南海の所領を希望し、東北の国々の荘園を好まなくなった。
その時分、たまたま用事のついでがあって、摂津の国の新しい都に行った。その様子を見るに、土地が狭くて、條里を割るには足りない。北は山に沿って高く、南は海に近く下っている。波の音がつねにかまびすしく、潮風がことのほか烈しい。内裏は山の中なので、あの木の丸殿もかくやと思われ、かえって風変わりで、優美とも言える。日々に解体して、川いっぱいに筏で運び下した家は、どこに再建されたのだろう。まだ空地は多く、出来上がった家は少ない。古い京はすでに荒れて、新しい京はいまだならず。ありとあらゆる人が、みな浮雲のような心細い思いをしている。前からここに住んでいる人は、土地を取り上げられて悲しんでいる。あらたに移ってきた人は、土木工事をせねばならぬことを嘆いている。道のほとりを見ると、車に乗るべき人が馬に乗り、衣冠、布衣を着るべき人の多くが直垂を着ている。都の風俗はたちまち変わってしまい、田舎者の武士のそれに異ならなくなった。
これは世が乱れる徴だと聞いていたとおり、日が経つにしたがって、世の中が浮き立ってきて、人心も不穏になり、民の憂えていたとおりになってしまったので、同じ年の冬に、また古い京に遷都された。しかし、解体されてしまった家々は、どうなったことか。すべて元通りになったわけではなかった。
伝え聞くところによれば、古の賢き御世には、憐れみを以て国を治められた。すなわち宮殿を茅で葺いても先端を切り揃えることなく、煙の乏しい様子をご覧になれば、一定限度の公租をも免除された。これは民をめぐみ、世を救う為になされたことである。今の世の中のありさまを、昔とよく比較するがよい。

◆(現代語表記:ほうじょうき、歴史的仮名遣:はうぢやうき)は、賀茂県主氏出身の鴨長明による鎌倉時代の随筆[1]。日本中世文学の代表的な随筆とされ、『徒然草』兼好法師、『枕草子』清少納言とならぶ「古典日本三大随筆」に数えられる。

Daily Vocabulary(2024/03/12)

2024年03月12日 | Daily Vocabulary
31981.not enough (足りない )to make something start happening or to make someone start doing something 
I want to buy a car, but I don't have enough money for a down payment. 
31982.day in and day out   (来る日も来る日も)
I used to practice playing basketball day in and day out when I was a kid. 
31983.miss (恋しい)
What do you miss most about L.A.? 
31984.I beg to differ.  (同意しかねます、失礼ですが、私はそう思いません )
I beg to differ. I don't think he's qualified for the management position. 
31985.be yourself (気を使わなくてもいい・気楽に )
It’s draining when I’m out with my clients because I can’t be myself.