【内容】
繁あねは女のエッセンスである。――山口瞳(作家)艶やかに、ときに凜とし、ときに意地悪く――。作家が見つめた女という生き方とは。木場の畔に暮らす作家の私。釣竿をおろす私に突然声をかけてきたのは、繁あねだった。年は十二、三、妹と二人両親に捨てられ、肌にはひどい腫れ物があり、その生い立ちのため人に対して好戦的であることから、町でもその娘を引き取る者はいなかった。少女から女に変わる途上の繁あねとの会話を通し浮かび上がる、その生の在り方や人間の美しさ。表題作「繁あね」のほか、「この女とは一緒にいてはいけない……」そう思い別れた女・おさんへの複雑な思いから、その消息をたずねる男。おさんは、移り住んだ家に次々に男を引き込んでいると聞くが……。女の生を通し、人の心、男女の想いのありようを艶やかに描き出した名作「おさん」など。女性の美しさ、その生の在り方を艶やかに描く名作七篇。
1 おさん 7-762 三十二刻 77-1153 柘榴 117-1424 つばくろ 143-1915 あだこ 193-2426 蜜柑の木 243-2567 繁あね 257-270
【著者】
山本周五郎。
1903年、山梨県に生まれる。本名は清水三十六(さとむ)。
小学校卒業後、銀座の質屋で奉公、後に筆名としてその名を借りることになる店主・山本周五郎の庇護のもと、同人誌などに小説を書き始める。
1926年、「文藝春秋」に『須磨寺附近』を発表、文壇デビュー。
その後、不遇の時代が続くが、時代小説作家として認められはじめる。
戦中から戦後まで連載が続けられた『日本婦道記』(1942-1946)で直木賞に推されるが辞退。
主な代表作に『樅ノ木は残った』(1958)、『赤ひげ診療譚』(1958)、『青べか物語』(1960)、『おさん』(1961)などがある。1967年、逝去。
【読んだ理由】
山本周五郎作品。
山本周五郎作品。
【最も印象に残った一行】
人の一生は重荷を負うて遠き道をゆくが如し、いそぐべからず。
みんなが重い荷を負っている。境遇や性格によって差はあるが、人間はみなそれぞれなにかしら重荷を負っている、・・・生きてゆくということはそういうものなんだ。そして道は遠い・・・・。
私が苦しんだように、おまえも、そして森も苦しんだろう、・・・私だけが苦しんだとは思わない。三人ともお互いに苦しんできた。おいち、・・・この苦しみを活かす方法を考えよう。今一番大事なのは、それだと思う・・・この苦しみをむだにしてはいけない、これをどうきりぬけるか、お互いが傷つかぬように、できることならお互いが仕合せになるように、・・・それをよく考えてみよう。
【コメント】
「繁あね」は「青べか物語 七章」であり短編で私にはあまり響かなかったが、つばくろの主人公紀平高雄の生き方には心打たれた。