日本男道記

ある日本男子の生き様

徒然草 第九十八段

2021年05月04日 | 徒然草を読む


【原文】  
 尊たふときひじりの言ひ置きける事を書き付けて、一言芳談とかや名づけたる草子を見み侍りしに、心に合ひて覚えし事ども。

 一 しやせまし、せずやあらましと思ふ事は、おほやうは、せぬはよきなり。

 一 後世を思はん者は、糂汰瓶一つも持つまじきことなり。持経・本尊に至るまで、よき物を持つ、よしなき事なり。

 一 遁世者は、なきにことかけぬやうを計ひて過ぐる、最上のやうにてあるなり。

 一 上臈は下臈に成り、智者は愚者に成り、徳人は貧に成なり、能ある人は無能に成るべきなり。

 一 仏道を願ふといふは、別の事なし。暇ある身になりて、世の事を心にかけぬを、第一の道とす。

 この外もありし事ども、覚えず。

【現代語訳】
『一言芳談』という、坊さんの名言集を読んでいたら感動したので、ここに紹介しよう。

 一つ。やろうか、やめようか迷っていることは、通常やらない方が良い。

 一つ。死んだ後、幸せになろうと思う人は、糠味噌樽一つさえ持つ必要は無い。経本やご本尊についても高級品を使うのは悪いことだ。

 一つ。世捨てのアナーキストは、何も無い状態でもサバイバルが出来なくてはならない。

 一つ。王子は乞食に、知識人は白痴に、金持ちは清貧に、天才は馬鹿に成りきるべきである。

 一つ。仏の道を追求すると言うことは、たいした事ではない。ただ単に暇人になり、放心していればよい。

 他にも良い言葉があったが忘れてしまった。

◆鎌倉末期の随筆。吉田兼好著。上下2巻,244段からなる。1317年(文保1)から1331年(元弘1)の間に成立したか。その間,幾つかのまとまった段が少しずつ執筆され,それが編集されて現在見るような形態になったと考えられる。それらを通じて一貫した筋はなく,連歌的ともいうべき配列方法がとられている。形式は《枕草子》を模倣しているが,内容は,作者の見聞談,感想,実用知識,有職の心得など多彩であり,仏教の厭世思想を根底にもち,人生論的色彩を濃くしている。

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