諏訪大社御柱祭の上社里曳(び)き(5月3〜5日)で、山梨県北杜市に住む小林秋彦(ときひこ)さん(72)が7年目に1度の晴れ舞台に臨む。上社本宮(諏訪市)、前宮(茅野市)の建て御柱で、計8本の柱に「七五三巻き」と呼ぶ方法で綱を巻く。諏訪郡富士見町御射山神戸(みさやまごうど)で大工を家業としていた実家に代々伝わる技だ。「先祖から受け継いだ仕事を次代に伝えるためにも、御射山神戸の人たちとの結び付きを守りたい」と本番を待っている。
七五三巻きは、直立した御柱に乗っていた氏子が降りる際、足をかけるための綱の巻き方だ。建て御柱の前に綱巻きをし、神事の一つになっている。上から三分目辺りに長さ100メートルほどの綱2本を巻き付け、それぞれの両端を地上4カ所で固定。氏子が降りた後、地上で綱のよりを戻すだけで固く巻き付いた綱が外れ、建て御柱が終了する。
七五三巻きを取り仕切る頭領は、長く小林家が世襲。諏訪市博物館によると、小林さんの曽祖父が1884(明治17)年、大社側に綱巻きで奉仕させてほしいと願書を提出したとの記録がある。綱巻き自体は1800年代初めの文書に記述があり、少なくともその当時から行われていたらしい。
小林さんの父政雄さんは1998年の御柱祭まで頭領を務め、2002年に91歳で死去。跡継ぎの小林さんの兄が89年に亡くなっていたため、次男の小林さんが04年から頭領を引き継いだ。
小林さんは就職で地元を離れて50年以上たつため、「(地区の人に)申し訳ない気持ちもある」と言う。だが、自身の跡を継ぐ会社員の長男英司さん(44)や、2人のおいと地元の結び付きを絶やさないよう、今回も入念に準備を進める。
小林さんは綱巻きを身内だけで行うことにこだわらず、前回10年の御柱祭で初めて、親族以外で御射山神戸に暮らす氏子にも作業に加わってもらった。今回も大総代を通じて同様に氏子の参加を依頼。22日には御射山神戸の公民館で模型を使って打ち合わせを行う予定だ。
小林さんは13日、英司さんと本宮で無事に役目を果たせるよう祈った。「建て御柱には何回携わっても、最初の1本目の柱は喉が渇くほど緊張する」と小林さん。建て御柱当日は伝統の白装束で作業を指揮する。