孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パレスチナ  “闇物資”運ぶガザ地区のトンネル、西岸のあだ花“分離壁の村”

2008-01-13 13:34:40 | 国際情勢
「歴史的評価」を意識するブッシュ大統領の初めてのパレスチナ訪問にもかかわらず、パレスチナ問題は進展していません。
大きな原因のひとつが、ガザ地区をハマスが実効支配しており、アッバス議長のファタハ政権がガザをコントールできず、ここからイスラエルに対しロッケット弾攻撃が続いていることがあります。
当然イスラエルはこの攻撃が止むまでは譲歩しないという対応になっています。

ガザの問題は、このようなパレスチナ問題のボトルネックになっていることの他、ガザ地区に対するイスラエルの経済封鎖強化によるガザ地区住民の生活が困窮してきていることがあります。
イスラエルは昨年9月以来境界を封鎖し、食料や医薬品など人道物資以外の出入りをほぼ全面的に禁止しています。燃料削減もその一環として実施されており、発電所の燃料不足による電力供給制限が深刻になっています。
ガザでは病院の停電をできるだけ防ぐため、一般住宅向けの電力削減に追い込まれており、6日から1日平均8時間、電力の供給を止める計画停電が始まりました。

こうした記事を見るにつけ、逆に不思議に感じるのは、「なぜこのような状態にもかかわらず、ガザ地区での生活がまがりなりにも続けられるのだろうか?」という点です。
この疑問に対するひとつの答えが、“トンネル”経由の闇物資の密輸だそうです。
http://www.asahi.com/international/update/0111/TKY200801110248.html?ref=goo
「ガザ支える闇トンネル 食料やたばこ、エジプトから密輸」【1月12日 朝日】
ガザ地区とエジプトの間に“トンネル”があるという話しは聞いていましたが、これだけ大掛かりなもだとは知りませんでした。

記事によると、500を超すトンネルがあり、ハマスは事実上黙認し、自らも利用しているそうです。
大半の大きさは縦横1メートル。
深さは40メートル、長さは約500メートルから最長で2キロにもなるとか。
最近は人が立って歩ける大きさのトンネルができたそうで、軌道が敷かれ、電動トロッコで物資を運ぶことも可能。
数千ドル払えば、人もガザを出入りでき、イスラエル軍の攻撃で重傷を負ったハマスの司令官が、この方法でエジプト側の病院に入院したそうです。
境界沿いのエジプト軍を挑発しないよう配慮して、イスラエル軍は侵攻してもトンネル集中地帯には近づきません。それもありトンネルが急増したそうです。
当然、密輸にはエジプト側で監視するエジプト軍兵士の協力が不可欠で、わいろが使われます。
この“トンネル”をめぐり、イスラエル・エジプトの関係がぎくしゃくしているそうです。

ガザ地区の問題と並んでパレスチナ問題を象徴するのが、イスラエルがパレスチナ側に入りこむ形で築いた“壁”や検問所の存在。
今回陸路で分離壁やチェックポイントを実際に通過したブッシュ大統領は、会見で「人々が不満に思うのは理解できる」と、パレスチナ人の苦境に共感を示したそうです。
また、将来のパレスチナ国家について「領土がスイスチーズ(穴の開いたチーズ)というわけにはいかない」と述べています。
“死に体”となってからでは、遅きに失した感がいなめませんが。

この分離壁が生み出した“あだ花”のような経済の活況についての記事がありました。
http://mainichi.jp/select/world/archive/news/2008/01/03/20080103ddm007030039000c.html
「パレスチナ:宙に浮く分離壁の村 イスラエルが「併合」、ヨルダン川西岸のバルタア」【1月3日 毎日】

ヨルダン川西岸北部にあるパレスチナ人の村バルタア。
村の西側を第3次中東戦争(67年)以前の軍事境界線が通り、本来はパレスチナ自治区。
しかし、イスラエルが治安維持名目で自治区内に食い込むように建設した「分離壁」によって、村は境界線と壁のはざまの「継ぎ目地帯」に入り込んでしまっています。
自治区から切り離され、イスラエル側にも自由に移動できない状況にあるそうですが、この地域がただならぬ経済活況に沸いているとか。

記事によると、バルタアではイスラエルの税制は適用されず、人件費はイスラエル側の5分の1、店舗の賃貸料も4分の1程度。
同じ商品をイスラエル側より3割以上安く買うこともできるそうです。
この“特殊環境”にイスラエル国籍を持つアラブ人たちが目を付けました。
売買目的で村外から大勢の“ビジネスマン”が流入し、バルタアを「商業拠点」に様変わりさせました。
現在、バルタアの商店数は約300。
大半が最近数年間に新規開店したもので、8割以上が村外出身者の経営。
「西岸内から調達するより容易で確実」と、最近では中国からの輸入が急増しているそうです。
しかし、地元民によると、商売であがる利益の9割は村外に流出しており、「バルタアは何の恩恵にもあずかっていない」との嘆きもあるとか。

ガザ地区の“トンネル”の話にしても、西岸地区の“分離壁の村”にしても、“目ウロコ”的な面白い記事です。
ただそれにしても話の本筋は当然ながら、ガザ地区住民の生活窮乏をどうするのか、ガザ地区問題をどうクリアしてパレスチナ問題を進展させるか、穴あきチーズではないパレスチナ国家を建設するためにこの壁や入植地をどうするのか・・・という根本的な問題です。

ブッシュ大統領はアッバス議長との会談で、「国が欲しいのか、現状維持か」と問いかけ、イスラエルの「安全保障上の懸念」に真剣に対応し、武装勢力を取り締まるよう要請。
一方、アッバス議長の支配下にある治安機関を弱体化させるような攻撃をやめるよう、イスラエル側にも求めています。

大統領は歴訪前にイスラエルによるパレスチナ自治区へのユダヤ人入植地拡大が和平交渉の「障害になる」と懸念を示しており、イスラエルが違法入植地を撤去し交渉を加速するよう促すものとみられていましたが、オルメルト首相との会見後、ブッシュ大統領は笑顔をほとんど見せず、「米国の役割は交渉を支援することだ。米国はパレスチナ国家がどのような姿になるかを指図することはできない」と語り、「仲介役」に徹する立場を強調したそうです。

「私が退陣する(来年1月)までに平和条約調印が可能だと思う」とのブッシュ大統領の見解ですが、まだ出口が見えない状況です。


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