20日に投票が行われたセルビア大統領選挙は、中央選管集計(開票率98%)で、右派民族主義政党、急進党のトミスラフ・ニコリッチ党首代行が得票率39・9%、親欧米派の現職ボリス・タディッチ大統領35・4%で、両者過半数に至らず、選挙前からの予想どおり、2月3日の決選投票に進むことになっています。
コソボ自治州の独立については、両者とも反対という立場では一致しています。
16日国連安保理に出席したタディッチ大統領は「コソボの独立は決して認めない」と強調し、暴力が発生した場合はコソボに住むセルビア系住民の「防護策を講じる用意がある」とけん制しています。
また、「民主的手段や外交によってセルビアの主権を保護する」と言明。
ただ、暴力や戦争に訴えることはないと述べています。【1月17日 時事】
ニコリッチ氏も、「独立は絶対に認めない」と強調する一方で、「戦争は選択肢にない」とも語っており、武力行使による独立阻止の可能性は否定しています。【1月21日 朝日】
両者ともに、99年のNATO空爆以来セルビアが経験した辛酸を繰り返したくないとの思いはあるようです。
(もっとも、ニコリッチ氏はかつて、「コソボの軍隊と警察を返したい」(その場合、また空爆を受ける可能性について)「ヒロシマ、ナガサキは原爆が落とされても日本であったように、NATOの空爆を受けてもコソボはセルビアの領土だ」と語っていたこともありましたが・・・)
ただ、その政治姿勢、またコソボ独立を容認するEU・アメリカと近いか、反対するロシアと近いかという差は、実際のコソボ独立時の混乱への対応において、おのずと出てくるのでは・・・とも思われます。
個人的には「ここまできたら独立は止むを得ないのでは。あとはコソボ領内のセルビア系住民の安全・権利をどのように保証していくかが問題では・・・」という考えを持っていますので、強硬路線同士のセルビア:ニコリッチ、コソボ:サチという組み合わせには“危ういもの”も感じます。
“交渉事は強く出たほうがうまく行く”といったことも場合によってはありますので、実際どのような展開を見せるかはわかりませんが・・・。
タディッチ、ニコリッチ両氏がはっきり異なるのは、EU加盟問題であるとされています。
タディッチ大統領が「セルビアの未来はEUと共にある」と訴え、コソボ問題にとらわれず、EU加盟を急ぐ姿勢なのに対し、ニコリッチ氏は、コソボ独立を支持する欧米への不信感を前面に出し、EU加盟交渉を遅らせる構えです。
親露派として有名なニコリッチ氏は、かつて「セルビアはEUに加盟するくらいなら、ロシアの1州になった方がまし」と発言したこともあるそうです。
しかし、今回の選挙戦では「ソフト路線」をとっており、「ロシアがもっとも近しい国家だが、どんな国とも友好関係を結ぶべきだ」とも公言しています。
そのあたりは親欧米とされるタディッチ大統領も同様で、ロシア政府との関係強化も明言し、“プーチン大統領から誕生日を祝う手紙を受け取ったことを誇りに思う”と述べるなど、ロシアとの親密度を強調しています。
EU加盟に関しては、95年のボスニア大虐殺(「スレブレニツァの虐殺」)の責任を問われ旧ユーゴ国際戦犯法廷に起訴されているムラジッチ元軍司令官の身柄拘束が課題となっています。
(「スレブレニツァの虐殺」、ムラジッチ元軍司令官については、昨年11月19日の当ブログでも取り上げていますので、参考にしてください。http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20071119 )
EU加盟申請の前提となる安定連合協定に関して、ムラジッチ被告未逮捕の状態での協定を仮承認しましたが、協定締結については、レーン拡大担当委員はムラジッチ被告の引き渡しなどが締結の条件であるとしています。
しかし、EU議長国のスロベニアのルペル外相は1月8日、協定を月内にセルビアと締結すべきだとの見解を示しています。
また、「(旧ユーゴを構成した)クロアチアも戦犯の逮捕が遅れたが、EU加盟交渉は進展した」と発言し、セルビアが同被告を逮捕しなくても、EU加盟交渉の進展は可能としています。
なんとかセルビアを“EU加盟”で懐柔して、コソボ独立の線で軟着陸させたい意向でしょうが・・・。
一方、コソボ独立に強く反対するロシアは、着々とセルビアとの関係強化を進めています。
ロシアとセルビアは25日、協定を締結、今後30年間にわたって石油と天然ガスの分野で協力を推進することとしました。
これにより、ロシアはセルビア領に全長400キロのパイプラインを建設するほか、セルビア唯一の石油供給・精製会社の株式の51%を取得します。
また、セルビア国内に設ける3億立方メートル規模のガス貯蔵施設の整備や運営にも関与していくそうです。
今回のパイプラインはロシアの天然ガスを黒海を経てイタリアなどに輸出する南欧ルートのパイプラインの一環で、天然ガスの直接輸出を通じて南欧地域への影響力拡大を目指すロシアの政策を進めるものだそうです。【1月26日 朝日】
さて、2月3日の決戦投票の行方ですが、コシュトニツァ首相率いる穏健民族派・セルビア民主党の支持で、20日投票で3位になったイリッチ候補(得票率約7%)の票の行方が注目されています。
同党はタディッチ大統領の民主党と連立を組んでいますが、首相は大統領選前、「EUは侵食行為をやめるべきだ」と発言、食い違いも目立ってきているそうです。
タディッチ、ニコリッチ両者の票差、7%を集めたイリッチ氏・セルビア民主党の上記のような事情を考えると微妙な情勢に思えます。
コソボのほうは昨年末の総選挙で、かつてアルバニア人武装勢力「コソボ解放軍(KLA)」を率いていたサチ氏のコソボ民主党が第一党となり、今年1月9日大連立内閣で首相に就任しています。
サチ首相は恐らくセルビア大統領選挙の決選投票後の2月上旬に独立を宣言するのでは・・・とも見られています。
26日段階では、「憲法や国章も整えており、何日かのうちに行える」と述べ、セルビア大統領選決選投票終了後の早期に踏み切る方針を変えていないようです。
なお、アルバニア人を中心とするコソボは将来アルバニアを併合し(経済的にはアルバニアよりコソボが進展しているとか)、更にアルバニア人が多いマケドニア西部やモンテネグロ南部も加えた「大アルバニア」建設を目指すのではないか・・・という見方もあります。
サチ首相はこの点に関して、「いかなる国とも合併しない。国境の変更には反対だ」と明確に否定しています。【1月27日 読売】
コソボ独立だけで少数民族を抱える近隣の国々は大きな影響を受けています。
「大アルバニア」などに至っては・・・。
サチ首相言葉を信じたいものです。
コソボ自治州の独立については、両者とも反対という立場では一致しています。
16日国連安保理に出席したタディッチ大統領は「コソボの独立は決して認めない」と強調し、暴力が発生した場合はコソボに住むセルビア系住民の「防護策を講じる用意がある」とけん制しています。
また、「民主的手段や外交によってセルビアの主権を保護する」と言明。
ただ、暴力や戦争に訴えることはないと述べています。【1月17日 時事】
ニコリッチ氏も、「独立は絶対に認めない」と強調する一方で、「戦争は選択肢にない」とも語っており、武力行使による独立阻止の可能性は否定しています。【1月21日 朝日】
両者ともに、99年のNATO空爆以来セルビアが経験した辛酸を繰り返したくないとの思いはあるようです。
(もっとも、ニコリッチ氏はかつて、「コソボの軍隊と警察を返したい」(その場合、また空爆を受ける可能性について)「ヒロシマ、ナガサキは原爆が落とされても日本であったように、NATOの空爆を受けてもコソボはセルビアの領土だ」と語っていたこともありましたが・・・)
ただ、その政治姿勢、またコソボ独立を容認するEU・アメリカと近いか、反対するロシアと近いかという差は、実際のコソボ独立時の混乱への対応において、おのずと出てくるのでは・・・とも思われます。
個人的には「ここまできたら独立は止むを得ないのでは。あとはコソボ領内のセルビア系住民の安全・権利をどのように保証していくかが問題では・・・」という考えを持っていますので、強硬路線同士のセルビア:ニコリッチ、コソボ:サチという組み合わせには“危ういもの”も感じます。
“交渉事は強く出たほうがうまく行く”といったことも場合によってはありますので、実際どのような展開を見せるかはわかりませんが・・・。
タディッチ、ニコリッチ両氏がはっきり異なるのは、EU加盟問題であるとされています。
タディッチ大統領が「セルビアの未来はEUと共にある」と訴え、コソボ問題にとらわれず、EU加盟を急ぐ姿勢なのに対し、ニコリッチ氏は、コソボ独立を支持する欧米への不信感を前面に出し、EU加盟交渉を遅らせる構えです。
親露派として有名なニコリッチ氏は、かつて「セルビアはEUに加盟するくらいなら、ロシアの1州になった方がまし」と発言したこともあるそうです。
しかし、今回の選挙戦では「ソフト路線」をとっており、「ロシアがもっとも近しい国家だが、どんな国とも友好関係を結ぶべきだ」とも公言しています。
そのあたりは親欧米とされるタディッチ大統領も同様で、ロシア政府との関係強化も明言し、“プーチン大統領から誕生日を祝う手紙を受け取ったことを誇りに思う”と述べるなど、ロシアとの親密度を強調しています。
EU加盟に関しては、95年のボスニア大虐殺(「スレブレニツァの虐殺」)の責任を問われ旧ユーゴ国際戦犯法廷に起訴されているムラジッチ元軍司令官の身柄拘束が課題となっています。
(「スレブレニツァの虐殺」、ムラジッチ元軍司令官については、昨年11月19日の当ブログでも取り上げていますので、参考にしてください。http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20071119 )
EU加盟申請の前提となる安定連合協定に関して、ムラジッチ被告未逮捕の状態での協定を仮承認しましたが、協定締結については、レーン拡大担当委員はムラジッチ被告の引き渡しなどが締結の条件であるとしています。
しかし、EU議長国のスロベニアのルペル外相は1月8日、協定を月内にセルビアと締結すべきだとの見解を示しています。
また、「(旧ユーゴを構成した)クロアチアも戦犯の逮捕が遅れたが、EU加盟交渉は進展した」と発言し、セルビアが同被告を逮捕しなくても、EU加盟交渉の進展は可能としています。
なんとかセルビアを“EU加盟”で懐柔して、コソボ独立の線で軟着陸させたい意向でしょうが・・・。
一方、コソボ独立に強く反対するロシアは、着々とセルビアとの関係強化を進めています。
ロシアとセルビアは25日、協定を締結、今後30年間にわたって石油と天然ガスの分野で協力を推進することとしました。
これにより、ロシアはセルビア領に全長400キロのパイプラインを建設するほか、セルビア唯一の石油供給・精製会社の株式の51%を取得します。
また、セルビア国内に設ける3億立方メートル規模のガス貯蔵施設の整備や運営にも関与していくそうです。
今回のパイプラインはロシアの天然ガスを黒海を経てイタリアなどに輸出する南欧ルートのパイプラインの一環で、天然ガスの直接輸出を通じて南欧地域への影響力拡大を目指すロシアの政策を進めるものだそうです。【1月26日 朝日】
さて、2月3日の決戦投票の行方ですが、コシュトニツァ首相率いる穏健民族派・セルビア民主党の支持で、20日投票で3位になったイリッチ候補(得票率約7%)の票の行方が注目されています。
同党はタディッチ大統領の民主党と連立を組んでいますが、首相は大統領選前、「EUは侵食行為をやめるべきだ」と発言、食い違いも目立ってきているそうです。
タディッチ、ニコリッチ両者の票差、7%を集めたイリッチ氏・セルビア民主党の上記のような事情を考えると微妙な情勢に思えます。
コソボのほうは昨年末の総選挙で、かつてアルバニア人武装勢力「コソボ解放軍(KLA)」を率いていたサチ氏のコソボ民主党が第一党となり、今年1月9日大連立内閣で首相に就任しています。
サチ首相は恐らくセルビア大統領選挙の決選投票後の2月上旬に独立を宣言するのでは・・・とも見られています。
26日段階では、「憲法や国章も整えており、何日かのうちに行える」と述べ、セルビア大統領選決選投票終了後の早期に踏み切る方針を変えていないようです。
なお、アルバニア人を中心とするコソボは将来アルバニアを併合し(経済的にはアルバニアよりコソボが進展しているとか)、更にアルバニア人が多いマケドニア西部やモンテネグロ南部も加えた「大アルバニア」建設を目指すのではないか・・・という見方もあります。
サチ首相はこの点に関して、「いかなる国とも合併しない。国境の変更には反対だ」と明確に否定しています。【1月27日 読売】
コソボ独立だけで少数民族を抱える近隣の国々は大きな影響を受けています。
「大アルバニア」などに至っては・・・。
サチ首相言葉を信じたいものです。