孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

エジプト  アメリカの圧力と国内イスラム主義勢力の間で

2008-01-26 14:19:45 | 国際情勢
レバノンでは昨年11月末で任期切れとなったラフード前大統領の後任選出のための議会開会が、9月下旬以降、13回目延期されています。
壊れたレコードのように同じようなニュースが繰り返されているので、大抵読み飛ばしてしまいます。
そんな訳で現状がどうなっているのか定かではありませんが、親欧米・反シリア派の与党連合とシーア派組織ヒズボラなどシリアに近い野党側は、スレイマン軍司令官を統一候補とするところまでは一応漕ぎ着けています。
しかし、新内閣の閣僚ポストの配分や野党の拒否権などをめぐり対立が続いているようです。

今日はそんな“固まってしまった”レバノンではなく、エジプトの話。
1月6日、事態打開に向けアラブ同盟は外務大臣レベルの会議を開き、エジプトとサウジアラビアの提案により、スレイマンを大統領とする選挙を即時実行すること、国家統合政府を作ること、どちらの勢力にも拒否権を認めないこと、新しい選挙法を採択すること、という対策案を示しました。
シリアもイランも賛成しました。

アラブ同盟事務総長のベイルートを訪問、13日のエジプトのムバラク大統領の「レバノンのすべての勢力は、国家崩壊を防ぐために、この提案を実行するべきだ。」との発言にもかかわらず、レバノン両勢力は“検討する”とはしていますが、受け入れていません。

近年、中東ではイラン・サウジアラビアの影響力が増大している一方、エジプトの役割が低下していると見られています。
特に、レバノンについては、国内に支持者を持つシリア、フランス、イランの影響力が強いとされています。

エジプト国内の反米・イスラム主義反政府勢力である“ムスリム同胞団”関係者は「エジプトの役割低下は、エジプト政府が米国寄りであることに由来する。」と語っています。
別の反政府の立場の者は「エジプトの役割は見物人でしかない。」とも。【1月25日 IPS】
主張・立場の違いがありますので、この見解をそのまま受け入れる訳でもありませんが、ガザ地区の“壁”の問題で、エジプトの親米路線がいま困難な事態をもたらしているのも事実のようです。

23日早朝のラファ付近での壁の爆破、エジプトへの大量越境について、ムバラク大統領は「武器や非合法なものを所持していない限り、ガザ地区の住民が日常品を購入し同地区に戻ることを許可するよう(治安部隊に)命じた」と、黙認する姿勢をとっていましたが、25日早朝から、国境の再封鎖を始めました。

エジプト軍は放水車などを使ってパレスチナ住民の越境を遮断するなどしていますが、ハマスは25日午後、ブルドーザーで新たに境界壁を破壊、新たに数千人規模のパレスチナ人が越境したため、エジプト軍は一時再封鎖措置を解除したそうです。
エジプト軍は強権的な措置を可能な限り避けようとしていますが、武装勢力との間で緊張が高まっています。

エジプトが国境再封鎖に踏み切った背景には、国境の正常管理を求めるイスラエルとアメリカの圧力があると言われています。
再封鎖は、結果的にイスラエルのガザ封鎖政策を支援することにもなり、今後、パレスチナ住民に同情的なエジプト国内やアラブ世論の反発が強まることが懸念されています。
壁の再封鎖がアラブ世論の反感を買うこと、その結果エジプトのアラブ世界での影響力が低下することは止むを得ませんが、問題は国内のイスラム主義勢力の台頭です。

すでに23日の段階で、首都カイロではガザ地区のパレスチナ人を支持するデモが行われ、当局によりデモ参加者ら500人が拘束されています。
治安当局の話では、デモ参加者のほとんどが穏健派イスラム原理主義組織ムスリム同胞団のメンバーだそうです。

宗教政党を禁じているエジプトではムスリム同胞団は非合法で、選挙にはメンバーが無所属で立候補します。
05年末の選挙の際、アメリカの中東民主化要求でムバラク政権はムスリム同胞団の弾圧をしなかったそうです。
その結果ムスリム同胞団系勢力は、民選の444議席中88議席を獲得する大躍進を果たしたそうです。
(アメリカの民主的選挙実施要請でハマスが大躍進したパレスチナと同じです。)
すでに、イスラム主義勢力拡大の下地ができている状況です。

ハマスに近い関係者はBBC放送で、「エジプトはガザを助けられるのに、年間20億ドルを超す米国からの援助を失いたくないため、イスラエルの言うことを聞いている」と発言しています。
20億ドルというのは少なくない金額です。
おそらく、国民のアメリカへの反発を懸念して、アメリカからの資金で道路、上下水道あるいは電気設備などの整備が行われていることを国民にはあまり知らせていないのではないでしょうか。

アメリカの圧力と国内イスラム主義勢力の抵抗の間で苦悩・・・パキスタンのムシャラフ大統領にも似ているような。
サウジアラビアのような専制君主国家ならともかく、民主主義を基盤とする限り、イスラム世界で親米路線をとることは難しい舵取りを要求されるようです。

コメント
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