孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

タイ  タイ深南部の”宗教対立”激化

2008-01-21 13:29:23 | 国際情勢
昨年末に総選挙が行われたタイでは、タクシン前首相を支持する国民の力党が第一党となり、連立工作が続いていましたが、ようやく第二党の民主党以外の6党連立政権で正式合意しました。

新首相については、サマック国民の力党党首は言明を避けています。
選挙終了後の連立工作過程では、「タクシン派」のイメージを薄めて軍部の反発を和らげるため、第三党の国民党のバンハーン氏に首相就任を求めるのが得策との意見も一部にはあったようですが。

いずれにしても、21日から会期が始まる議会で、1週間以内に選出されるとみられています。
その後プミポン国王による承認を経て正式に新首相が誕生します。
これで、タクシン前首相の追放から1年4か月続いた軍事政権がようやく終了して民政に復帰することになります。

そんなタイで最近、九つのお寺を巡るツアーが静かなブームを呼んでいるとか。
もともとタイでは、新年や仏教にちなんだ日に三つのお寺に参って寄進を施す風習があったそうです。
これは、仏、仏の教え、僧侶という宗教上の3大要素に祈りをささげ、功徳を積むという意味があります。

この風習をベースに、タイで最も縁起の良い数字とされる「9」を取り入れたのが“9寺巡りツアー”。
このツアー、政治が混乱に陥った一昨年から急激に申し込み客が増え、昨年は約2万人がツアーに参加。
同業他社も追随し、同種のツアーを行っているそうです。
また、タイでは一昨年から、守護神の像をあしらったお守りも流行しており、クーデターをはさむ政治混乱の長期化は、タイ人に「心の平安」をもたらしてくれる何かを求めさせているように見える・・・とか。【1月20日 毎日】

同記事は“尾を引く政治混乱の中でも社会に大きな動揺がうかがえないのは、多くのタイ人に「信仰」という伝統的なよりどころがあるからなのかもしれない。”と結んでいます。
それはそうでしょうが、ただ、同じタイでもいわゆる“深南部三県(ナラティワート、ヤラー、パッターニ)”はイスラム教徒が多数を占める地域で、以前から分離独立を求める激しい動きがあります。
この地域の“動揺”はこのところ一層厳しいものになっているように見えます。

この地域の問題は昨年6月25日のhttp://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20070625でも取り上げましたが、昨年末から悲惨なニュースを目にします。

昨年11月28日には、マレーシアとの国境に近いタイ南部のナラティワート県で、分離独立を掲げるイスラム過激派によると見られる惨殺事件が相次いで発生。
政府が支援する民兵組織に情報を提供していたイスラム教徒の男性は殺害後、十字架のように置かれた2片の木材に磔に。仏教徒2名は殺害後、首を切断。

1月14日には同じナラティワート県で、イスラム過激派とみられる武装集団が走行中の陸軍車両を襲撃、兵士8人が死亡、4人が重軽傷。
同県では、一般市民を含むテロによる死傷者が今年に入って既に30人以上に上っているそうです。

15日にはヤラー県の中心都市ヤラーの市場で、バイクに仕掛けられた爆発物が爆発、27人が負傷、うち10人は重傷。

こうした事態を受け、タイ政府は18日、「状況はこのところ悪化している。分離主義者がアルカイダから資金を受け取っているのがその原因だ」と、国際テロ組織アルカイダがタイ南部の分離・独立を要求しているイスラム過激派に資金を提供しているとの見解を初めて示しました。
従来、タイ政府はこの問題を国内問題と主張、マレーシアなど近隣国の協力申し入れも保留してきました。

また、タクシン前首相の強権的な施策、掃討作戦がこの対立を過激化させた経緯があり、クーデター後の暫定体制は宥和策に転換しました。
しかし、過激派との対話路線が功を奏さずテロが拡大していることが、今回の“変更”になったようです。

同地域の問題は、単に仏教対イスラム教という宗教対立ではなく、その背後には経済的格差に対する不満、過去の栄光・歴史への憧れ、中東などの外部からの刺激などの要因が存在しています。

一朝一夕に解決する手立てはなく、基本的には経済格差の是正を根気強く続けていくことが重要ですが、隣国のイスラム国マレーシアの協調も不可欠です。
ただ、“アルカイダとのつながり”が“テロ集団掃討作戦強化”ということになるのであれば、弾圧を強化すればするほど住民の抵抗は先鋭化してきた過去の経緯から見て、今後が懸念されます。

新政権が早い段階で“格差是正・融和”に向けた強いメッセージを発信することが望まれます。
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