昨年秋以降、イラクの治安回復が報じられています。
アメリカでは増派を背景にした掃討作戦について、作戦擁護派は“作戦が成功したと喜び、米国独立のときや南北戦争のときの勝利に例えるほどで、Weekly Standard 誌は、ペトレイアス司令官をマン・オブ・ザ・イヤーとして賞賛した。”【1月17日 IPS】という歓迎ぶりだそうです。
そんなイラク関連の記事から。
****ビンラーディン?がイラクの「覚醒評議会」を非難*****
国際テロ組織アル・カーイダ指導者、ウサマ・ビンラーディンとみられる人物の音声による声明が12月29日、イスラム過激派が利用するウェブサイト上に流され、声明は、イラクでイスラム教スンニ派部族や武装組織が「覚醒評議会」を構成し、米軍のアル・カーイダ掃討に協力していることについて、「地獄に落ちる背教行為だ」と激しく非難した。
イラク内務省は29日、アル・カーイダのネットワークを75%破壊したと発表。こうしたアル・カーイダ掃討の成果には、覚醒評議会の貢献が大きいとみられており、今回の「ビンラーディン声明」は、アル・カーイダがイラクで守勢に立っているとの危機感の表れである可能性がある。【12月30日 読売】
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もう1件。
****イラクで女性の自爆続く アルカイダ、追いつめられ?******
イラク中部ディヤラ州バクバ近郊で16日、爆発物を身につけた女性が自爆し、中東の衛星テレビ局アルジャジーラによると少なくとも8人が死亡した。
イラクで女性の自爆はまれだったが、今月2日にもバクバで女性が自爆し10人が死亡した。
アルカイダ系過激派の多くは、駐留米軍やスンニ派部族長らの掃討作戦に遭い、中部ディヤラ州などで再編を図っているとされる。米軍は同州で14日に行った掃討作戦で60人を殺害したと発表。追いつめられたアルカイダ側が女性まで投入し始めた可能性がある。【1月16日 朝日】
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いずれも、アルカイダが守勢にたっている状況、その原因としてスンニ派部族長らの米軍協力をあげています。
冒頭のアメリカ国内の記事も、ペトレイアス司令官が“覚醒運動”と同盟関係を結んだ手法を、“「中東全体における」米国の目標に向けての、「戦略的突破口」であった”と評価しています。
一方で、最近イラクから伝えられるテロのニュースで一番多いのが、アルカイダによる“覚醒評議会”への攻撃によるものです。
*****バグダッドで連続自爆テロ、覚醒評議会指導者ら14人死亡****
イラクの首都バグダッド北部のアザミヤ地区で7日、自爆テロが2件続けて発生、ロイター通信によると、イスラム教スンニ派の武装組織「覚醒(かくせい)評議会」の地区リーダーら14人が死亡した。
スンニ派が多い同地区は、かつては武装勢力の拠点とされたが、評議会が駐留米軍に協力したことで、治安が大幅に改善。このため、治安回復に焦る国際テロ組織アル・カーイダ系の武装勢力が事件を引き起こした可能性がある。【1月7日 読売】
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スンニ派アラブ人と米軍の同盟関係は、06年9月、スンニ派が多数を占める西部の小さな州アンバルで局地的な動きとして始まったものですが、その後イラク全土に拡大。
現在、7万3000人が米軍と同盟関係を結んでおり、これらの大半はフセイン政権崩壊後、米軍と戦ったメンバーだそうです。
米軍は現在、協力関係にあるスンニ派イラク人に対し1人当たり約300ドル(約3万4000円)を毎月支給。
契約上では地元地域の自警団的組織に配属されることになっていますが、実際にはアルカイダ系の反政府勢力と戦闘する結果になることが多いようです。【12月27日 AFP】
(部族長レベルで語られる“覚醒評議会”と、“覚醒運動”、住民レベルのCLCs(Concerned Local Citizens)の関係がいまひとつよくわかりません。現在ではシーア派の1万2000人もCLCsに加わっているそうです。)
皮肉ではなく、混迷する社会では“現金支給”の力は相当なものがあるようです。
それだけでなく、昨年5月、武装勢力に射殺された男性の葬儀で自爆攻撃が発生し、ファルージャの地元民27人が犠牲となった事件が運動拡大のきっかけとなったともいわれます。
(畑中美樹 http://www.shinchosha.co.jp/foresight/web_kikaku/index2.html )
なお、昨年からのペトレアス司令官の指示で、米軍の地元への対応姿勢が様変わりしているそうです。
地方文化の尊重、地方のイマーム(イスラム教の導師)との接触、地元民の通訳としての雇用、アラビア語の出来る米兵士・米民間人の活用、イラク女性への質問には米女性兵士をあたらせるなどの対応、米兵のモスク入りを回避といった動きなど。
しかし、このスンニ派武装組織でもある“覚醒評議会”、CLCs、については、今後を危惧する声もあがっています。
上記AFPの記事でも、“米軍に協力するスンニ派組織は「民兵組織」と呼ばれることを拒んでいるが、こうした協力者たちの将来は不透明だ。彼らの将来の役割をイラク政府が明確に示していない上、アルカイダの怒りも買っているからだ。
「収益の分配法などすべての重要問題で指導者間の合意が必要だ。でなければこうしたグループは、治安部隊に吸収されてもされなくても、米軍がいったん撤退を始めれば、戦闘を開始する恐れがある」とイラク専門家は警告する。”と述べています。
同様に今後を危惧した意見。
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米国政府はシーア派が掌握するイラク治安維持軍に、彼らが統合されることを望んでいるが、マリキ政権は、彼らがいずれ政権に銃を向けることにならないか懸念する。
「敵を抱き込むのも短期的には効果的だろうが、公正な政治秩序を構築するという長期目標には、意味がない。これまでに見た以上に悲惨な内戦に、我々はイラクを向けてしまってないだろうか」ダグラス・マグレガー元陸軍大将は警告する。【1月17日 IPS】
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1月12日、イラク連邦議会は長期たなざらしにされていた旧バース党員復職に道をひらく「説明責任と正義法案」をようやく承認しました。
当初アメリカ主導で行われたスンニ派旧バース党員の公職追放は、イラク行政の実務能力を著しく低下させ、また、シーア派とスンニ派の宗派対立の主要原因ともなってきました。
不満を持つスンニ派、旧バース党員の多くはスンニ派武装組織「イラク・イスラム軍」に参加、イラク最強の民族主義組織として台頭しています。(「イラク・イスラム軍」は05年までアルカイダと共同戦線をはっていましたが、その後は敵対し、現在は衝突を繰り返しているそうです。)
こうした事態を打開し、国民融和を進めたいアメリカの方針転換で同法案は提起されましたが、旧バース党に対する不信感の強い、また既得権益を侵害される現政権は消極的な対応をとってきていました。
今回の旧バース党員の復職を可能とする施策を背景に、“覚醒評議会”と政府治安組織の調整や、「イラク・イスラム軍」の抵抗抑制を今後どのように進めていけるかが、イラクの今後を決める重要なポイントになると思われます。
アメリカでは増派を背景にした掃討作戦について、作戦擁護派は“作戦が成功したと喜び、米国独立のときや南北戦争のときの勝利に例えるほどで、Weekly Standard 誌は、ペトレイアス司令官をマン・オブ・ザ・イヤーとして賞賛した。”【1月17日 IPS】という歓迎ぶりだそうです。
そんなイラク関連の記事から。
****ビンラーディン?がイラクの「覚醒評議会」を非難*****
国際テロ組織アル・カーイダ指導者、ウサマ・ビンラーディンとみられる人物の音声による声明が12月29日、イスラム過激派が利用するウェブサイト上に流され、声明は、イラクでイスラム教スンニ派部族や武装組織が「覚醒評議会」を構成し、米軍のアル・カーイダ掃討に協力していることについて、「地獄に落ちる背教行為だ」と激しく非難した。
イラク内務省は29日、アル・カーイダのネットワークを75%破壊したと発表。こうしたアル・カーイダ掃討の成果には、覚醒評議会の貢献が大きいとみられており、今回の「ビンラーディン声明」は、アル・カーイダがイラクで守勢に立っているとの危機感の表れである可能性がある。【12月30日 読売】
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もう1件。
****イラクで女性の自爆続く アルカイダ、追いつめられ?******
イラク中部ディヤラ州バクバ近郊で16日、爆発物を身につけた女性が自爆し、中東の衛星テレビ局アルジャジーラによると少なくとも8人が死亡した。
イラクで女性の自爆はまれだったが、今月2日にもバクバで女性が自爆し10人が死亡した。
アルカイダ系過激派の多くは、駐留米軍やスンニ派部族長らの掃討作戦に遭い、中部ディヤラ州などで再編を図っているとされる。米軍は同州で14日に行った掃討作戦で60人を殺害したと発表。追いつめられたアルカイダ側が女性まで投入し始めた可能性がある。【1月16日 朝日】
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いずれも、アルカイダが守勢にたっている状況、その原因としてスンニ派部族長らの米軍協力をあげています。
冒頭のアメリカ国内の記事も、ペトレイアス司令官が“覚醒運動”と同盟関係を結んだ手法を、“「中東全体における」米国の目標に向けての、「戦略的突破口」であった”と評価しています。
一方で、最近イラクから伝えられるテロのニュースで一番多いのが、アルカイダによる“覚醒評議会”への攻撃によるものです。
*****バグダッドで連続自爆テロ、覚醒評議会指導者ら14人死亡****
イラクの首都バグダッド北部のアザミヤ地区で7日、自爆テロが2件続けて発生、ロイター通信によると、イスラム教スンニ派の武装組織「覚醒(かくせい)評議会」の地区リーダーら14人が死亡した。
スンニ派が多い同地区は、かつては武装勢力の拠点とされたが、評議会が駐留米軍に協力したことで、治安が大幅に改善。このため、治安回復に焦る国際テロ組織アル・カーイダ系の武装勢力が事件を引き起こした可能性がある。【1月7日 読売】
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スンニ派アラブ人と米軍の同盟関係は、06年9月、スンニ派が多数を占める西部の小さな州アンバルで局地的な動きとして始まったものですが、その後イラク全土に拡大。
現在、7万3000人が米軍と同盟関係を結んでおり、これらの大半はフセイン政権崩壊後、米軍と戦ったメンバーだそうです。
米軍は現在、協力関係にあるスンニ派イラク人に対し1人当たり約300ドル(約3万4000円)を毎月支給。
契約上では地元地域の自警団的組織に配属されることになっていますが、実際にはアルカイダ系の反政府勢力と戦闘する結果になることが多いようです。【12月27日 AFP】
(部族長レベルで語られる“覚醒評議会”と、“覚醒運動”、住民レベルのCLCs(Concerned Local Citizens)の関係がいまひとつよくわかりません。現在ではシーア派の1万2000人もCLCsに加わっているそうです。)
皮肉ではなく、混迷する社会では“現金支給”の力は相当なものがあるようです。
それだけでなく、昨年5月、武装勢力に射殺された男性の葬儀で自爆攻撃が発生し、ファルージャの地元民27人が犠牲となった事件が運動拡大のきっかけとなったともいわれます。
(畑中美樹 http://www.shinchosha.co.jp/foresight/web_kikaku/index2.html )
なお、昨年からのペトレアス司令官の指示で、米軍の地元への対応姿勢が様変わりしているそうです。
地方文化の尊重、地方のイマーム(イスラム教の導師)との接触、地元民の通訳としての雇用、アラビア語の出来る米兵士・米民間人の活用、イラク女性への質問には米女性兵士をあたらせるなどの対応、米兵のモスク入りを回避といった動きなど。
しかし、このスンニ派武装組織でもある“覚醒評議会”、CLCs、については、今後を危惧する声もあがっています。
上記AFPの記事でも、“米軍に協力するスンニ派組織は「民兵組織」と呼ばれることを拒んでいるが、こうした協力者たちの将来は不透明だ。彼らの将来の役割をイラク政府が明確に示していない上、アルカイダの怒りも買っているからだ。
「収益の分配法などすべての重要問題で指導者間の合意が必要だ。でなければこうしたグループは、治安部隊に吸収されてもされなくても、米軍がいったん撤退を始めれば、戦闘を開始する恐れがある」とイラク専門家は警告する。”と述べています。
同様に今後を危惧した意見。
*****************
米国政府はシーア派が掌握するイラク治安維持軍に、彼らが統合されることを望んでいるが、マリキ政権は、彼らがいずれ政権に銃を向けることにならないか懸念する。
「敵を抱き込むのも短期的には効果的だろうが、公正な政治秩序を構築するという長期目標には、意味がない。これまでに見た以上に悲惨な内戦に、我々はイラクを向けてしまってないだろうか」ダグラス・マグレガー元陸軍大将は警告する。【1月17日 IPS】
***************
1月12日、イラク連邦議会は長期たなざらしにされていた旧バース党員復職に道をひらく「説明責任と正義法案」をようやく承認しました。
当初アメリカ主導で行われたスンニ派旧バース党員の公職追放は、イラク行政の実務能力を著しく低下させ、また、シーア派とスンニ派の宗派対立の主要原因ともなってきました。
不満を持つスンニ派、旧バース党員の多くはスンニ派武装組織「イラク・イスラム軍」に参加、イラク最強の民族主義組織として台頭しています。(「イラク・イスラム軍」は05年までアルカイダと共同戦線をはっていましたが、その後は敵対し、現在は衝突を繰り返しているそうです。)
こうした事態を打開し、国民融和を進めたいアメリカの方針転換で同法案は提起されましたが、旧バース党に対する不信感の強い、また既得権益を侵害される現政権は消極的な対応をとってきていました。
今回の旧バース党員の復職を可能とする施策を背景に、“覚醒評議会”と政府治安組織の調整や、「イラク・イスラム軍」の抵抗抑制を今後どのように進めていけるかが、イラクの今後を決める重要なポイントになると思われます。