世の中思わぬことも起こるもので、イスラエルによる厳しい封鎖が続いていたパレスチナ・ガザ地区で“壁”が爆破されるという事態になっています。
ここに至る経過を追うと、次のとおりです。
10月25日 イスラエル国防相はロケット弾攻撃への対策として、電気や燃料の供給停止を含むガザ地区への制裁を承認。
10月28日 発電所用燃料、ガソリンの供給制限開始
10月29日 イスラエル検事総長は、人道的な影響を調査することが先決だとして、電力供給削減は一時中止するとの見解を示す。
12月10日 国連の関連機関(WHO、国連パレスチナ難民救済事業機関)は、燃料供給の完全再開を要請する声明を発表。
1月6日 ガザの電力公社は発電所の備蓄燃料が底をついたとして、1日平均8時間、電力の供給を止める計画停電を開始。
1月15日 ガザからのロケット弾攻撃に対抗するため、イスラエル軍のガザ地区への攻撃激化
1月16日 ブッシュ大統領の中東歴訪終了
1月17日 イスラエル軍は、ガザ地区を完全封鎖
1月18日 イスラエル軍は、ガザ市の内務省庁舎を空爆
1月20日 ガザ地区唯一の発電所が稼動停止 大規模な停電発生 人口約150万人のうち、約80万人に送電できなくなった。
1月21日 EUは、イスラエルによる封鎖をガザ地区に居住する150万人に対する「集団虐待」だと非難
イスラエルは“人道的危機”はハマスが状況を誇張していると、訴えをはねつける。
1月21日 イスラエル政府は、ガザ地区の封鎖を緩和し、燃料と医薬品の供給を認めることを決定 国防相は発電所に対する燃料の再供給を22日から、同地区の病院に対する医薬品の供給を23日から再開することを承認
1月22日
・イランのアフマディネジャド大統領が国交のないエジプトのムバラク大統領と電話協議し、パレスチナ自治区ガザへの支援について協議 アフマディネジャド大統領は物資を送る必要性を強調。ムバラク大統領も同調
・ハマスの主導で行われていた国境開放を求めるデモがエジプトの治安部隊との銃撃戦に発展、少なくとも5人が負傷
・ホワイトハウスのペリノ米大統領報道官は、イスラエルによるガザ地区封鎖はパレスチナ過激派のロケット弾発射を阻止するための自衛措置だと擁護。ただ、人道問題に配慮する姿勢を示した
・国連安保理は公式会合を開催 パレスチナやアラブ各国とイスラエルは非難の応酬を展開 安保理は封鎖解除を求める議長声明案について協議したが、米国などの反対でこの日は採択に至らなかった。
・発電所稼動 大規模停電は改善され、町中に「光」が戻った しかし、封鎖の影響は依然深刻で、ガソリンスタンドは大半が開店休業状態。調理用プロパンガスも不足し、廃材を燃やして食事を準備する家も出始めている。
上記経過を経て、1月23日、エジプトとの境界にあるラファ検問所付近の壁が武装勢力によって爆破され、数十万人規模のガザ住民がエジプト側に越境することになりました。
約3キロの壁のうち1キロ以上に及ぶ鉄製の壁が地面から80センチほどの高さで切断され、倒壊。
地元住民によると、昨年6月のハマスによるガザ地区制圧後、数カ月間かけて壁に亀裂が入れられ、23日未明に爆発物が仕掛けられたそうです。
爆発物は少なくとも15個とか。実行した武装勢力についてはよくわかっていません。
コンクリート壁も一部がブルドーザーなどで破壊されました。(写真)
ハマスは「(爆破は)住民の惨状の現れだ」との声明を出し、武装勢力の行動を支持する一方、爆破への関与は否定しています。
エジプトのムバラク大統領は「武器を持っていない限り、食糧調達を認めるよう(治安部隊に)命じた」と述べ、当面、ガザ住民の越境を規制しない方針です。
なお、カイロではガザ地区のパレスチナ人を支持するムスリム同胞団のデモが行われ、参加者500人が拘束されています。
イスラエル外務省報道官は「境界を正常に機能させるのはエジプトの責任だ」と対処を求めています。
破壊された壁を乗り越えてエジプト側に流入したガザ住民の数は同日だけで30万人以上に達したとみられ、ガザ地区全人口約150万人の5分の1にあたります。
今回の事態は、ブッシュ大統領の中東歴訪にもかかわらず進展がみられず、ガザの武装勢力のロケット弾攻撃、イスラエルの報復攻撃が激化するなかでおこりました。
上記の住民の証言が正確なら、昨年6月以来、武装勢力がイスラエルまたはファタハとの戦闘が激化した際の自分達の逃走用に準備していたものを今回使用したようにも見えます。
時期的には、イスラエルがガザ地区を完全封鎖し、国際世論に押されるかたちで一部緩めはじめたこの時期(これ以上遅らせると緊張が低下する可能性がある)をねらって決行したとも思えます。
ラファ検問所は05年のイスラエルのガザ撤退後、パレスチナ自治政府、エジプト、EUが管理していました。
ガザ住民がイスラエルのチェックを受けずに外国に出られる唯一のルートですが、ハマスのガザ制圧(07年6月)後、イスラエルの要請を受けエジプトが閉鎖していました。
このハマスのガザ制圧の際、エジプトもパレスチナからの大量流入を警戒してラファ検問所を閉鎖しましたが、押しかける住民に対し、ハマスも「ガザ地区はより安全な場所になる」と主張し、住民に戻るよう呼び掛けていました。
その結果が、完全封鎖、大規模停電による生活崩壊でした。
“事件”の背景はよくわかりませんが、完全封鎖に苦しむガザ住民が“壁”を乗り越え、1日で30万人も越境して物資を買い求めるというのは、“痛快な”出来事のようにも感じられます。
しかし、問題はこの後をどうするかです。
国際政治の膠着状態にあけられた風穴をうまく生かして事態の改善につなげるか、混乱が加速してイスラエルの報復を呼び起こすか・・・。
ハマスの指導者マシャル氏は23日、問題の解決に向け、パレスチナ自治政府を率いる穏健派ファタハやエジプトと協力する姿勢を表明したそうです。
マシャル氏は、ファタハやエジプトと「境界管理の在り方について合意する用意がある」と言明。
また「(ハマスは)何も支配しようとはしておらず、パレスチナ人の自由と救済を望んでいる」と語り、ファタハ主導の検問所管理も拒否しない考えを示唆しました。【1月23日 毎日】
また、ハマスのハニヤ最高幹部は23日、壁が破壊された状況に対処するため、緊急協議に応じるようアッバス自治政府議長に呼びかけました。
ハマス側はこれを機にエジプトとの境界にあるラファ検問所の正式再開につなげたい狙いがあり、議長側は拒否の意向を示しているそうです。【1月24日 毎日】
アッバス議長がラファ検問所再開を拒否する背景がよくわかりません。
検問所を管理するのがハマスか、ファタハか・・・という問題でしょうか。
ガザ地区にファタハのパレスチナ自治政府の支配が及ばないこと、そのハマス支配のガザ地区からイスラエルに対するロケット弾攻撃が止まないことが、パレスチナ問題が進展しない大きな理由になっています。
ハマスもガザ支配について手詰まり感を強めていたものと思われます。
今回の事件がこの状態を改善するきっかけになればいいのですが。
ここに至る経過を追うと、次のとおりです。
10月25日 イスラエル国防相はロケット弾攻撃への対策として、電気や燃料の供給停止を含むガザ地区への制裁を承認。
10月28日 発電所用燃料、ガソリンの供給制限開始
10月29日 イスラエル検事総長は、人道的な影響を調査することが先決だとして、電力供給削減は一時中止するとの見解を示す。
12月10日 国連の関連機関(WHO、国連パレスチナ難民救済事業機関)は、燃料供給の完全再開を要請する声明を発表。
1月6日 ガザの電力公社は発電所の備蓄燃料が底をついたとして、1日平均8時間、電力の供給を止める計画停電を開始。
1月15日 ガザからのロケット弾攻撃に対抗するため、イスラエル軍のガザ地区への攻撃激化
1月16日 ブッシュ大統領の中東歴訪終了
1月17日 イスラエル軍は、ガザ地区を完全封鎖
1月18日 イスラエル軍は、ガザ市の内務省庁舎を空爆
1月20日 ガザ地区唯一の発電所が稼動停止 大規模な停電発生 人口約150万人のうち、約80万人に送電できなくなった。
1月21日 EUは、イスラエルによる封鎖をガザ地区に居住する150万人に対する「集団虐待」だと非難
イスラエルは“人道的危機”はハマスが状況を誇張していると、訴えをはねつける。
1月21日 イスラエル政府は、ガザ地区の封鎖を緩和し、燃料と医薬品の供給を認めることを決定 国防相は発電所に対する燃料の再供給を22日から、同地区の病院に対する医薬品の供給を23日から再開することを承認
1月22日
・イランのアフマディネジャド大統領が国交のないエジプトのムバラク大統領と電話協議し、パレスチナ自治区ガザへの支援について協議 アフマディネジャド大統領は物資を送る必要性を強調。ムバラク大統領も同調
・ハマスの主導で行われていた国境開放を求めるデモがエジプトの治安部隊との銃撃戦に発展、少なくとも5人が負傷
・ホワイトハウスのペリノ米大統領報道官は、イスラエルによるガザ地区封鎖はパレスチナ過激派のロケット弾発射を阻止するための自衛措置だと擁護。ただ、人道問題に配慮する姿勢を示した
・国連安保理は公式会合を開催 パレスチナやアラブ各国とイスラエルは非難の応酬を展開 安保理は封鎖解除を求める議長声明案について協議したが、米国などの反対でこの日は採択に至らなかった。
・発電所稼動 大規模停電は改善され、町中に「光」が戻った しかし、封鎖の影響は依然深刻で、ガソリンスタンドは大半が開店休業状態。調理用プロパンガスも不足し、廃材を燃やして食事を準備する家も出始めている。
上記経過を経て、1月23日、エジプトとの境界にあるラファ検問所付近の壁が武装勢力によって爆破され、数十万人規模のガザ住民がエジプト側に越境することになりました。
約3キロの壁のうち1キロ以上に及ぶ鉄製の壁が地面から80センチほどの高さで切断され、倒壊。
地元住民によると、昨年6月のハマスによるガザ地区制圧後、数カ月間かけて壁に亀裂が入れられ、23日未明に爆発物が仕掛けられたそうです。
爆発物は少なくとも15個とか。実行した武装勢力についてはよくわかっていません。
コンクリート壁も一部がブルドーザーなどで破壊されました。(写真)
ハマスは「(爆破は)住民の惨状の現れだ」との声明を出し、武装勢力の行動を支持する一方、爆破への関与は否定しています。
エジプトのムバラク大統領は「武器を持っていない限り、食糧調達を認めるよう(治安部隊に)命じた」と述べ、当面、ガザ住民の越境を規制しない方針です。
なお、カイロではガザ地区のパレスチナ人を支持するムスリム同胞団のデモが行われ、参加者500人が拘束されています。
イスラエル外務省報道官は「境界を正常に機能させるのはエジプトの責任だ」と対処を求めています。
破壊された壁を乗り越えてエジプト側に流入したガザ住民の数は同日だけで30万人以上に達したとみられ、ガザ地区全人口約150万人の5分の1にあたります。
今回の事態は、ブッシュ大統領の中東歴訪にもかかわらず進展がみられず、ガザの武装勢力のロケット弾攻撃、イスラエルの報復攻撃が激化するなかでおこりました。
上記の住民の証言が正確なら、昨年6月以来、武装勢力がイスラエルまたはファタハとの戦闘が激化した際の自分達の逃走用に準備していたものを今回使用したようにも見えます。
時期的には、イスラエルがガザ地区を完全封鎖し、国際世論に押されるかたちで一部緩めはじめたこの時期(これ以上遅らせると緊張が低下する可能性がある)をねらって決行したとも思えます。
ラファ検問所は05年のイスラエルのガザ撤退後、パレスチナ自治政府、エジプト、EUが管理していました。
ガザ住民がイスラエルのチェックを受けずに外国に出られる唯一のルートですが、ハマスのガザ制圧(07年6月)後、イスラエルの要請を受けエジプトが閉鎖していました。
このハマスのガザ制圧の際、エジプトもパレスチナからの大量流入を警戒してラファ検問所を閉鎖しましたが、押しかける住民に対し、ハマスも「ガザ地区はより安全な場所になる」と主張し、住民に戻るよう呼び掛けていました。
その結果が、完全封鎖、大規模停電による生活崩壊でした。
“事件”の背景はよくわかりませんが、完全封鎖に苦しむガザ住民が“壁”を乗り越え、1日で30万人も越境して物資を買い求めるというのは、“痛快な”出来事のようにも感じられます。
しかし、問題はこの後をどうするかです。
国際政治の膠着状態にあけられた風穴をうまく生かして事態の改善につなげるか、混乱が加速してイスラエルの報復を呼び起こすか・・・。
ハマスの指導者マシャル氏は23日、問題の解決に向け、パレスチナ自治政府を率いる穏健派ファタハやエジプトと協力する姿勢を表明したそうです。
マシャル氏は、ファタハやエジプトと「境界管理の在り方について合意する用意がある」と言明。
また「(ハマスは)何も支配しようとはしておらず、パレスチナ人の自由と救済を望んでいる」と語り、ファタハ主導の検問所管理も拒否しない考えを示唆しました。【1月23日 毎日】
また、ハマスのハニヤ最高幹部は23日、壁が破壊された状況に対処するため、緊急協議に応じるようアッバス自治政府議長に呼びかけました。
ハマス側はこれを機にエジプトとの境界にあるラファ検問所の正式再開につなげたい狙いがあり、議長側は拒否の意向を示しているそうです。【1月24日 毎日】
アッバス議長がラファ検問所再開を拒否する背景がよくわかりません。
検問所を管理するのがハマスか、ファタハか・・・という問題でしょうか。
ガザ地区にファタハのパレスチナ自治政府の支配が及ばないこと、そのハマス支配のガザ地区からイスラエルに対するロケット弾攻撃が止まないことが、パレスチナ問題が進展しない大きな理由になっています。
ハマスもガザ支配について手詰まり感を強めていたものと思われます。
今回の事件がこの状態を改善するきっかけになればいいのですが。